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寂聴文学を愉しむ会 第2回「吐蕃王妃記」を読む

 「寂聴文学を愉しむ会」2回目です。
 6月21日、本日も徳島県立文学書道館にて開催しました。

瀬戸内晴美 作「吐蕃(とばん)王妃記」(1957年4月 『白い手袋の記憶』に収録)

 語り手の「わたし」の元に北京時代の旧友の東洋史学者、藤江貴司から研究論文が送られてくる。それは、彼が研究している古代チベット史、吐蕃の王妃の史実論文だった。
 やがて記憶は、十年前の終戦前北京へ。若き藤江貴司と中国人女性、劉淑春と陳恵生との悲哀の三角関係。その恋の行方を、藤江の史実を基にした吐蕃の王朝ロマンに重ねながら、ドラマが交互に重なり合い展開していく。

 吐蕃という聞きなれない言葉は、古代チベットの総称のこと。中国は唐の時代で、日本はちょうど平安時代。小説で語られる唐の皇室の女性、金城公主は吐蕃との和平のために政略結婚を余儀なくされる。相手の吐蕃の王子はなんとまだ7歳だった。

参加者の意見

いま寂聴訳の「源氏物語」を読んでいる。光源氏が藤壺の宮と結託し、ふたりの秘密の子である帝を、六条の御息所の娘斎宮と政略結婚させる場面がある。斎宮は22歳、帝は13歳。ちょうど、この吐蕃の王朝ロマンと源氏物語を重ねて読んだ。

歴史の資料を調べながら読んだ。吐蕃の史実の部分が興味深い。1300年ほど前の歴史的事実を基に、ドラマチックな物語を書ける寂聴さんはすごい。また、砂嵐で閉ざされた宮殿での生活の描写など、金城公主に気持ちが入り込む。

王妃に心惹かれる。鸚鵡に密かに想う人の名前を覚えさせたりなど、ドラマチック。王妃はあまり幸福ではなかった、その哀しみに惹かれる。以前に取り上げた「女子大生・曲愛玲」と設定がよく似てる。極端に言うと、歴史的な部分を取ると「曲愛玲」になるかも。

歴史が苦手なので…。漢語難しい!時代設定もわからないし…。でも終盤になって、「曲愛玲」とよく似てると気づいた。講師や皆さんの意見を聴きながらやっと物語がわかった。

吐蕃の王妃の話に入り込んだ。やっぱり源氏物語みたいな王朝ロマン。でも、単なるロマンだけじゃなく政略結婚があったり、理不尽に歪められていく人の話だったりで。現実は大変なんだということを思った。


古代チベットの論文を読んで興味を持って書かれた小説。これを書いたから「女子大生・曲愛玲」がある。おそらく作家、小田仁二郎が寂聴さんに吐蕃の小説を書いたらと、アドバイスしたのでは?そこから「曲愛玲」に繋がっていく。君の体験した北京を書いてごらん、というように。

この作品の醍醐味のひとつは古代チベットや、唐の時代の歴史ロマンの描き方にある。幼い王子と公主が肌を寄せ合う場面は官能的。寂聴小説らしさが出ている。

読みながら、ページを戻したりして読んだし、2,3回読んだ。夕べも読みました(笑)今やってる大河ドラマ「光る君へ」と同じ印象。皆さんの意見を聴いて、より理解が出来きた。

最初に読んだときは、歴史的な話が入ったりして急に世界が変わるその転換がすごい!何度か読むうちに、終戦前の北京での話と、吐蕃の物語を分けて各自読んでみた。そんなふうに読むとより話が詳しくわかった。あと、小説のラストの4行が素晴らしく見事。

北京での二人の中国女性が実は親日家ではなくて、本心は違った。寂聴さんは、戦争や北京でのそうした政治的対立などを経験としてわかっていた。なので、のちに社会運動家としての行動に繋がっていったのかも。この小説、映画にしたらよさそう。「敦煌」とか映画になりましたよね。あと、ブラピの「セブン・イヤーズ・イン・チベット」とか。

漢字が難しい!!漢字が分からないので映像が浮かびません…大変…漢字が読めないと男か女かわからないし…苦しい読書で(笑)
でも(瀬戸内)先生のまわりの話と吐蕃の王妃の話を交互に読めば、なるほどーって思ったので。もういちど家に帰って、読んでみます。

本日の講師役よりまとめ

①嫁ぐ二人のヒロイン(金城公主と劉淑春)は、国家やイエの犠牲になっている。真に自由な女性の結婚とは?
②女性作家が女性に重点を置いた物語を紡ぐということ→共感力+自己投影
③【瀬戸内晴美の北京】はるかに遠い北京を想うことは、懐かしい日々の回想とあいまって、作家の想像力をつよく刺激してやまない。◇本作の見事な締めくくり!(以下引用)

 金城公主とも劉淑春ともつかぬ淋しげな女の俤がわたしの目の中いっぱいにひろがってゆき、それはみるみる、東洋風に眦のあがった、諦めを湛えたひとつの瞳に凝縮してゆく。やがてその奥から中国の影絵のように、ひとつの街がゆらめき滲みながらあらわれてきた。悠久の歴史の重みにたえかね、滅びの前の美しさにきわみなく輝いたあの北京が。

瀬戸内晴美『吐蕃王妃記』小学館 P+DBOOKSより抜粋

④【小説の方法】金城公主にまつわる歴史物語を、戦時下の北京における群像劇の進行のあいまあいまに入れ込むという、きわめて構成的な作品に仕上がっている。

会員の皆様へ
次回、第3回は10月18日(金)『塘沽(タンク―)貨物廠』です。


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