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「私のままでいいんだ」と背筋を伸ばして生きたくなる


ツルリンゴスターさんの作品が好きだ。


以前、「赤ちゃんはどこから来るの?」の記事で軽く触れた、エッセイ育児漫画『行ってらっしゃいのその後で』も好きだし、最近『君の心に火がついて』と『ランジェリー・ブルース』も読ませていただいた。


読んだとき、私がどの作品からも感じるのは、「私は私のままでいい」というメッセージだ。



・『いってらっしゃいのその後で』



『行ってらっしゃいのその後で』は、3人の子どもを育てるツルリンゴスター自身の育児記録の漫画。

出産後、育児漫画を読めるアプリで連載されているときには、たくさん読ませていただいた。


私は、育児漫画を読んでいて、子どもにキレる場面とか、夫婦の喧嘩の場面などを見ると、自分も同じくらいダメージを受けてしまうときがあった。

泣いているお母さんのシーンとかを読むと、何だか救いがなくて、こっちまでしんどくなってくるし、夫にひどいことを言われている漫画も、感情的になりすぎて、頭から離れなくなったりもした。
(といいつつ、産後はそういう漫画に救われたことも多かった。)



その点、ツルリンゴスターさんの漫画は、良い意味で淡々としていて、感情を荒らされる心配がない。
冷静で、さらっとした透明感のある絵柄と内容で、安心して読める。
登場人物の服装などから、おしゃれな雰囲気も楽しめる。

何より、ツルリンゴスターさんの人柄が好きだ。


子どもや夫に対するツルリンゴスターさんの接し方からは、常に自問自答を繰り返しながら、より良い関係を築いていこうとする、まっすぐな思いを感じることができる。

「あとがき」に、印象的な内容があった。

自分よりも小さな存在を守り育てるということは、支配の狂気と背中合わせです。家の中というのは、本当に自分の人生と子どもを同化しやすい環境です。気を抜くとすぐに彼らを私の経験ないでの「正解っぽい」軌道に乗せようとコントロールしそうになります。親でいるということは、子どもを自分の思い通りに育てたくなる衝動を常に自問し消し続けることでもあるのかもしれません。

ツルリンゴスター『いってらっしゃいのその後で」あとがきより


支配する狂気。
わかるなあ、とおもった。

私自身も、すぐ長男をコントロール化に置こうとしてしまう。
そのほうが、楽だからだ。
でも、長男の生きていく人生をおもうと、これではいけない、と反省する。


ツルリンゴスターさんが漫画の中で、子どもや家族、自分自身の課題に真摯に向き合い、真剣に考える姿を見ると、尊敬するとともに、「私もこんなふうに考えていきたい」とおもえる。


また、漫画については、『子どもが「こう思っているかも」と感情を想像して描くことはせず、心情の部分は私が思ったことだけを描いている』とのことだった。

だからか。
漫画からは、子供たちがのびのびと生活するリアルな様子が伝わってくる。
ツルリンゴスターさんの、慌ただしくも充実した生活も垣間見える。

ちなみに、何度も読み返しているお気に入りの話は、『育児の孤独感』だ。
育児が辛くて、孤独におちたときにこのお話を読んで、何度も救われた。



・『君の心に火がついて』



『君の心に火がついて』は、さまざまな立場に置かれ、自分の気持ちに蓋をしてきた登場人物たちが、自分の在り方に疑問を持ち、悩んだり葛藤したりしながら、生きていこうとする漫画だ。

それぞれのお話に登場する「焔(ほむら)」は、心に宿る”火”を食べて生きる妖怪。

彼との出会いによって、登場人物たちは、自分の本当の気持ちと向き合うことができるようになる。



どの登場人物も魅力的だが、私はとある作家のセリフが心に残った。

「作るとき期待に応えようとしなくていい。あなたは誰かの期待に応えるために生きてるんじゃないんだから」
「自分が立ってる確かな場所を持つことが大事だと私は思ってる」

ツルリンゴスター『君の心に火がついて』、p.252


孤独をさみしがる女性に、作家が言った言葉の一部だ。

ちょうど、私が「書く」ことに悩んでいたときだったこともあり、ぐらついていた私の足元を支えてくれた。

ほかにも、「夫婦の在り方」や「仕事で活躍するかっこいい女性像」など、私自身が悩んでいることにリンクする話も印象的だった。

登場人物は、「女性」に求められる生き方をなんとなく受け入れ、受け流してきたが、「焔」との出会いで徐々に変わろうとしていく。


ここで、すぐにすべてが上手くいかないのが、この漫画のリアルなところ。

夫に支配されてきた主婦は、夫に思いを伝え、戦っていく決意をするも、漫画の中では変化はあっても、万事解決したわけでもない。
女性管理職となって、会社を変えようと奮闘する女性も、まだまだこれからが本当の戦い、といった感じ。

そういう、女性を巡る問題の、「すぐに解決する話ではない」ということをひしひしと考えさせられる内容は、とても身近で強烈だった。



考えさせられるのに、決して重たくはない。
テーマは重くても、ツルリンゴスターさんの絵柄や描写によって、さっぱり受け取れるのがありがたい。



わたしのお気に入りは、高齢の女性の「恋」の話。
素敵なマダムたちを見ると、わくわくして、歳をとるのが楽しみになれる。



・『ランジェリー・ブルース』


読む前は、「下着」という、ちょっと抵抗のある題材に戸惑った。
しかし読んでいくと、むしろ「なぜそう思ったのか」を忘れてしまうほど、美しくて前向きな漫画だった。


主人公や登場人物が、「下着」を通して、自分を好きになっていく姿がとても晴れやかで気持ち良い。
「自分を大切にしていいんだよ」というメッセージが、「下着」から受け取れるなんて!
そんな驚きと納得を得られる漫画だった。

・・・なにより、めちゃくちゃ下着を買いたくなる!笑



私が一番共感したのは、絶賛育児中のママ・真美子(32歳)。
毎日くたくたで、ケアする余裕もない真美子が、よそのキラキラお母さんを見ると嫉妬する話に、「わかる~~~~」と共感!

そのとき、夫が「自分のために時間とお金をかけるのって普通のこと」と言い切るのだが、それがなぜか私にグサリと刺さった。

そ、そうか。普通なのか。
そんな普通のこともできていない私って・・・。
読みながら少し凹んだ。


その後、真美子が無事に、自分にぴったりの素敵な「下着」を手に入れることができ、自分が大事にされたことを実感するシーンで、私もなぜか救われた。



登場人物たちは、あくまで「今の自分」に合う「下着」を、何度も何度もフィッティングして見つけていく。
その様子を見ていると、「ああ、私が無理して変わらなくてもいいんだな。今の私をそのまま受け入れていいんだな」と思える。


読みながら、自分の「下着」をおもう。
本当に、なんてひどい「下着」なんだ・・・。
まさに、自分を雑に扱っている「下着」という感じだ。


わたしも、「下着」を買いに行きたい!笑
とにかく、そう思う一冊だった。



・3冊を読み終えて

どの本も、読むとざわざわした心がすーっと落ち着いてくる。

余計な飾りも情報もない、シンプルな絵と内容が、私の心に静かに寄り添ってくれる感覚。
それが、私のおもうツルリンゴスターさんの漫画の魅力だとおもう。


そして何より、背筋が伸びる。

それは「よし!やるぞー!!」という、燃えるようなやる気に満ち満ちたときの伸び方ではなく。

「今の私のままでいい。
堂々と胸を張って生きていこう」

という、すがすがしい気持ちの伸び方だ。




ツルリンゴスターさん。
前を向きたくなるすてきな作品を、ありがとうございます。
これからも迷ったときには、また読みます。

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