見出し画像

父の「お好み焼き」が懐かしい




私は広島県で育った。
今は関西に住んでいて、年に2回帰省する。


帰省したとき、ほぼ必ず作ってもらっていたのが「お好み焼き」だった。


世間で言う「広島風」お好み焼き。
薄い生地に具材を重ねて作っていく、麺の入ったお好み焼きだ。

広島県民に「広島風」と言うと、
「広島風!?むしろこれが、ほんまのお好み焼きじゃろ!」
と怒り出す、なんて話もあると聞くが。
少なくとも私の両親が、このことを怒っているのは見たことない。


ただ、私も大学生になって、広島を飛び出し、県外の寮で暮らし始めた日。
フライパンで、「関西風」を作り始めたルームメイトには驚愕した。
「それ何作っとるん!?」と言ったのを覚えている。


そのくらい、我が家では「広島風」お好み焼きがスタンダード。
そして、焼くのは父の担当だった。

父は料理が好きだ。
若い頃、美味しいものを食べたくて、自炊して研究したとか。


我が家の作り方は、こんな感じだ。


(1)ホットプレートに、サラサラの生地を薄くまる〜く敷く。

薄く破れないように丸く作る。
これが難しい。
父は、うまくいかない時、「このホットプレートじゃだめじゃ」と、鉄板のせいにしていた。

生地を焼くあいだ、空いているスペースで、焼きそばも温めつつほぐしておく。


(2)生地の上に、もやしとキャベツを山盛りのせる。
よく「どっちが先だっけ?」となる。
毎度忘れるので、どちらでも。


(3)山盛り野菜の上に、豚バラを並べる。

父はよく、ホットプレートの隙間で、豚バラだけを焼いて塩胡椒をかけ、ぱくっとつまみながら手を動かしていたっけ。

「一枚ちょうだい」と言うと、ニヤニヤしながら分けてくれた。
母は「そんな塩辛いのやめんさい」と怒っていたが、本気で止めたりはしなかった。

このつまみ食いが、出来上がるまでの細やかな楽しみだった。



(4)ネギや天かすを振りかける。

父はたまにイカ天も割ってのせていた。
他の具材に比べて量が少ないので、「必要あるのか?」と思っていたが、食べると、案外存在感がある。
ネギの香りや、天かすのサクサク感も好きだ。


(5)ひっくり返す。

これまた、難しい。
父に「やってみんさい」と言われて、挑戦したことがある。

ひっくり返した途端、見事具材がバラバラにふっ飛んだ。

「コツは高く持ち上げないこと」と父はよく言っていた。
でも、「ぐちゃぐちゃになっても、集めて固めなおせばいいんよ」とも言っていた。
要は、ひっくり返れば何でもOKなのだ。


(6)しっかり押しつぶす。

ぎゅーっと押しつぶしていけば、見た目はもうお好み焼きだ。
じゅーと焼ける音と、香ばしい匂いが食欲をそそる。

先ほどほぐし、程よく広げておいた焼きそばの上に、お好み焼きをのせ、さらに抑える。

その横の空いているスペースで卵を焼く。
黄身を軽く潰した目玉焼きだ。
焼けた卵の上に、お好み焼きをさらに移動。

これで、一番下から、卵⇒焼きそば⇒肉⇒野菜⇒生地という層になる。
結構な厚みだ。



(7)ソースと青のりをトッピング。完成。

おお、書いてみると結構大変な工程だ。
材料も多い。

その分、ボリューミーで食べ応え抜群。
「欲しい人〜」と父が聞いて、食べたい人の分だけ切り分けて、皿に乗せてくれるのが嬉しかった。



このお好み焼き。
関西出身の夫にも、毎度大好評だ。

「お世辞じゃなく、今まで食べたお好み焼きで一番美味しいと思う」
と言ってくれるので、父もとても喜んだ。



それに、焼けるのを待つ間、家族で話をするのも好きだった。
ホットプレートを囲み、おとなは缶ビールを飲みながら、他愛のない話をワイワイ楽しんだ。

お好み焼きを待つあいだの会話は、いつもの食卓より盛り上がっているように感じた。
ホットプレートが熱いせいか、はたまた焼けるのを待つ楽しみのせいか、騒がしい光景が目に浮かぶ。

そんな熱気ある団欒も、お好み焼きを食べる時ならではの、楽しみの一つだった。




ただ、ここ数年。
父にお好み焼きを作ってもらうことはなくなった。

足腰を痛めた父は、腰を曲げて生活することが増えた。
ホットプレートの前に立ち、長時間お好み焼きを焼くのはしんどくなった。

記憶力も下がっているのか、年に2回ほどになっていたお好み焼きの作り方も、だんだん手順を忘れてきているという。


年齢的にも仕方ないが、やはり寂しい。
お好み焼きは、間違いなく、私にとって「家庭の味」だった。

父が生きている間に、私がこのお好み焼きの味を受け継ぎたいな、とおもっている。
そして、息子たちに焼いてやる。

「このお好み焼きは、広島のおじいちゃんの味なんやで。美味しいやろ!」

とでも言いながら。

ちなみに今のところ、我が家のお好み焼きは夫の作る「関西風」。
「広島風」をするために、具材を揃えたり、ホットプレートを出すのが大変だし、次男もまだ小さいので危ない。

広島風お好み焼きパーティーは、もうすこし子供たちが大きくなったらやろうとおもう。

それまでは、父の作ってくれた「お好み焼き」を懐かしむ日が続きそうだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?