見出し画像

桜の優しいピンク色に、包まれて。



桜が見頃だ。


家の近くの川沿いには、満開の桜がならんでいる。

いつもは人気のないその通りも、この時期ばかりはにぎわっている。
本格的なカメラを持つ人、老夫婦やカップル、新一年生がランドセルを背負って写真を撮る姿も見かけた。

みんな、小さな橋の上から、川の両端に並ぶ桜をながめている。
うっとりと、ため息混じりに。
遠くを見渡し、指をさす。

時々、橋のすぐそばにある踏切がカンカンと鳴り響くと、向こうの方から、たった2両の普通電車が、ガタンゴトンと走ってくる。
すぐそばの小さな駅に停まると、桜と電車が並んで見える。

桜をバックに、電車を撮る人たち。
車窓から、桜を眺める乗客たち。

みんな、この時だけは桜の虜だ。


これが、どぎついピンクや赤だと、また気分も変わっただろうが。
なんせ、優しい薄桃色は、眺めるだけで心が落ち着く。
まるで、新年度への不安も全部、優しく包んでくれるようだ。


そういえば、明日は小学校の入学式。
今年は、満開の桜が出迎えるだろう。

ここ数年は、4月2週目の入学式には、すでに桜は散っていた。
「桜舞い散る一年生」として入学してきた新一年生も、その保護者も、散り終えた桜にガッカリしていた。


校舎前の桜の木の近くで、「入学式」の立て看板とともに写真を撮る。
そのとき、頭上に満開の桜が咲いていたら、どんなに美しいだろう。

地面に落ちた花びらの上を歩くのもいいが、やはり、水色の空と淡いピンクが並ぶ景色はすがすがしい。
たった数日で散ってしまう桜。
桜のある景色は一瞬だからこそ、わたしたちはこんなにも、惹きつけられてしまうのだろうか。

さまざまなところへ入学を迎える皆さん。
ご入学おめでとうございます。



振り返ってみても、自分自身が小学校に入学する日のことは、覚えていない。

でも、6年生のとき、弟が入学してきた時のことは、よく覚えている。


5つ下の弟がいる。
大人しく、お人好しで、純朴な小さい弟。
わたしが6年生のときに、新一年生として入学した。

破天荒な学校だったので、弟がいじめられないが心配で心配で。
「6年生」という使命感もあって、どうやらわたしは、張り切っていたらしい。


入学式では、6年生が新入生の手を引いて歩く、という役目がある。
人数差により、だれかが二人の新入生の手を引く役を担う必要あったのだが。
わたしはそれに、迷わず立候補した。

引っ込み思案で、自分から手を挙げることなんて滅多になかったわたしの、ここ一番の自己主張だった。
弟の手を引けるかもしれない。
そんな淡い期待もあった。



結果として、弟とは出席番号がずれてしまって、わたしは別の一年生ふたりの手を引いて入場した。
弟は、私の一つ前を歩いた。

入学式。
二人分の小さな手をひきながら、前を歩く弟の背中も見守っての入場。
赤い絨毯をしずしずと歩きながら、保護者のあいだを抜けていき、ステージ前に並んだ小さな椅子に、一年生を連れて行った。


彼らの緊張が、手から背中から伝わってきた。
ドキドキ、という言葉が、そのまんま歩いているかのようだ。

わたしは、よく知りもしないふたりの一年生を、優しく手厚く、椅子に座らせてやった。
そして、弟のことも一目見て、やれやれと言わんばかりの顔で自席に戻った。
その、誇らしさったら、もう。


自分の入学式よりも、弟の入学式の方を覚えているのは、この役割のおかげだ。
申し訳ないが、入学式中の弟の様子は、まったくもって記憶にない。





「入学」の日は、いつか息子にもやってくる。

ほかの人たちに混じって、桜の下の踏切を電車が通過するのを見ながら、手をつないでいる長男の顔をそっと見た。

もう4歳か。

あと、2年もすれば、一年生。
わたしもいよいよ、親として、「入学式」に参加するのだ。

自分でも、姉でも、6年生でも、教師でもない。
お母さんとして、初めての入学式。
きっとわたしの胸も、長男に負けないくらい、ドキドキと音を鳴らすんだろう。

そのとき、桜は咲いているだろうか。

あわよくば、今年の桜のように、長男の入学を祝ってほしい。
そして、親の顔をしたわたしと長男が、並んで写真を撮るときには、その優しい薄ピンク色で、何もかも包んでもらいたい。


まだすこし先になる、我が子の入学式を思い浮かべながら。
わたしは長男と手をつないで、桜の見える駅の前に電車が停まるのを見守った。


_________

虎吉さんの企画に参加しようと書いていたら、応募期間を一日過ぎてしまいました‥!

虎吉さん、遅れましたがタグをつけても良いでしょうか?
問題があれば外しますね。

一応、企画も載せさせていただきます。
春らしい、美しい「お題」でした。

この記事が参加している募集

子どもの成長記録

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?