ロスタイムチルドレン 第一話
あらすじ
自然神を宿している『器』の中に自然エネルギーを閉じ込めることに成功し、人類は自然の恐怖を克服することが出来た。人類は自然神を宿している『器』の対象者を【ロスタイムチルドレン】と呼んだ。ある時【ロスタイムチルドレン】が敵の罠により新型のウィルスに感染。バンドルドゥ総統は【継承式】を執り行うことを決めた。同時にウィルスの感染拡大を防ぐために【ロスタイムチルドレン】の居る【パノプティコン】を潰すことを決めた。【継承式】を取り仕切るオードンは総統の考えに納得できず【継承式】をテロリストに襲わせ中止にするよう計画する。そして【継承式】当日、ガラン達の前に現れたレジスタンス。果たして世界の運命はいかに…
用語解説
自然神
→自然災害の神。地震の神ポセイドン、台風の神ケツアルカトル、火山の神ペレ、大雨の神ユピテル、吹雪の神スカジ、雷の神建御雷の6種類が現在確認されている。
ロスタイムチルドレン制度
→赤ん坊に自然神の力を入れ込み、自然エネルギーをコントロールする制度。公募に選ばれた子供たちの親は一生の保証をしてもらうとの噂。18歳を過ぎると体が大人になり、自然神との調和が取れなくなるため、18歳になったら次の子どもたちに引継ぎが行われる。引継ぎを行った子供たちは命を落とす。
器
→ロスタイムチルドレンたちが自然神、自然エネルギーを溜め込める容量。人によって容量に差がある。
継承式
→次のロスタイムチルドレンに自然神を移行する儀式。18歳を迎えてから随時行われる。ロスタイムチルドレンの状況に応じて早まることもあり。
パノプティコン
→ロスタイムチルドレンが居る施設。職員は1万人が働いている。
カサ・ロサダ
→総統の居る施設。首相官邸のようなもの。
ペンダント
→普段自然神はこのペンダントに眠っている。詠唱しペンダントを開けることで自然神が出現する。自然神が出現しないと自然エネルギーを吸収できない。
継承者
→自然神を宿す継承者。
人工継承者
→総統の元で開発されたペンダントを持っている継承者。現在、『火』と『原子力』の継承者が居る。通常の継承者と違い、自然神を宿していないため能力は継承者より劣るが、ペンダントさえ持っていれば誰でも使用可能。ただし、原子力については力が大きすぎるため、所持年数が決まっている。
第一話【EPILOGUE】
〇終斎場『パノプティコン』休息の間・ガランの部屋(朝)
T「地の守護者 ガラン・ヴェーベルン」
ガラン・ヴェーベルン(17)、ベッドに横になっている。
〇同・ロンヴィの部屋(朝)
T「風の守護者 ロンヴィ・アルバレス」
ロンヴィ・アルバレス(17)、椅子に座り瞑想。
〇同・ナオキの部屋(朝)
T「山の守護者 ナオキ・ベルク」
ナオキ・ベルク(17)、腕立てをしている。
〇同・ミルの部屋(朝)
T「雨の守護者 ミル・ブーランジェ」
ミル・ブーランジェ(17)は鏡をじっと見ている。
〇同・サヴァーノの部屋(朝)
T「雪の守護者 サヴァーノ・レーヴィナ」
サヴァーノ・レーヴィナ(17)、ヘッドホンをしてゲーム中。
〇同・ハンクの部屋(朝)
T「雷の守護者 ハンク・ソフィーグラマッテ」
ハンク・ソフィーグラマッテ(18)、ナイフを空中に投げ、高速で掴む訓練中。
〇同・廊下(朝)
大音量の緊急校内放送が響く。
音声『スンシャム地方にて吹雪のエネルギー発生。大雪警報感知。ロンヴィ、サヴァーノ、ミルは出撃の準備をせよ』
〇同・ロンヴィの部屋(朝)
ロンヴィ、椅子から立ち上がり風のペンダントをつけ部屋を出る。
〇同・ミルの部屋(朝)
ミル、机の上にある雨のペンダントを手に取り、身だしなみを整える。
〇同・サヴァーノの部屋(朝)
サヴァーノ、夢中でゲーム中。
〇同・サヴァーノの部屋の前(朝)
ロンヴィ、サヴァーノの部屋の前で立ち、ドアをノックする。反応なし。ロンヴィ、部屋を入る。
〇同・サヴァーノの部屋(朝)
ロンヴィ、サヴァーノの肩をたたく。
サヴァーノ「何かあった?」
ロンヴィ、呆れた顔になる。
ロンヴィ「出撃だから呼びに来たんだよ…」
サヴァーノ「あ、ほんと?ごめんね、わざわざ来てもらって」
サヴァーノ、ゲームの電源を切りベッドに置く。ロンヴィ、サヴァーノの首のペンダントを見る。
ロンヴィ「準備出来てるなら行くよ」
ロンヴィとサヴァーノ、ドアを開ける。目の前に立つミル。
サヴァーノ「うわっ!ビックリしたぁ!」
ミル「…早く行くよ」
サヴァーノ、笑顔になる。
サヴァーノ「迎えに来てくれたんだ!ミルも優しいなぁ~」
ミル、溜息をつく。
ロンヴィ「ほら、早く行かないと。誰のせいで遅れていると思ってるの?」
サヴァーノ、ハッとした表情になる。
サヴァーノ「ごめん」
ロンヴィ、ミル、サヴァーノ、廊下を駆ける。
〇同・屋上(朝)
ヘリコプターが一台止まっている。操縦士、手招く。
操縦士「さぁ、早く乗ってください!」
ロンヴィ、ミル、サヴァーノ、乗り込む。
〇スンシャム地方・上空
吹雪が吹き荒れる。ヘリから流れる警告音。
操縦士「エネルギーを感知しました。まもなく、目的地で…」
ヘリ、大きく揺れる。
操縦士「申し訳ないです!これ以上は先に…」
ロンヴィ「いや、ここまでで十分。後は任せて」
ロンヴィ、操縦士に親指を立てる。
操縦士「ご武運を!ロンヴィ様、ミル様、サヴァーノ様!!」
ロンヴィ、ヘリのドアを開けて飛び出す。ミルとサヴァーノも後から続く。
〇同・地上
ロンヴィ、ミル、サヴァーノ、豪雪の上に着地。全員のペンダント、大きく点滅し始める。ロンヴィ、ミル、サヴァーノ、北へ歩く。数歩歩いた際全員のペンダントが大きく光り一筋の光を放つ。目の前に吹雪の擬人化した巨人が見え始める。
ロンヴィ「デカいな…吹雪ってこんなに大きいエネルギーになるっけ?」
サヴァーノ、顔についた雪を舐める。
サヴァーノ「これ、湿っぽいね。水分が多いのかな?」
ミル「…私が呼ばれたのはそういうことね」
ロンヴィ「これは三人同時に出現させた方が良いかも」
吹雪の巨人「タチサレ…オロカナコドモタチヨ…」
ロンヴィ、ミル、サヴァーノ、ペンダントを握る。
ロンヴィ「さぁ、我に眠りし『風』の意思。呼応せよ。いざ眼前に」
ミル「さぁ、我に眠りし『雨』の意思。呼応せよ。いざ眼前に」
サヴァーノ「さぁ、我に眠りし『雪』の意思。呼応せよ。いざ眼前に」
ロンヴィ「ケツアルカトル」
ミル「ユピテル」
サヴァーノ「スカジ」
ロンヴィ、ミル、サヴァーノ、同時にペンダントを開く。ケツアルカトル、ユピテル、スカジ、ロンヴィ達の背後に出現。ロンヴィ、ミル、サヴァーノ、右手を前に差し出す。
三人「封緘」
ケツアルカトル、ユピテル、スカジの両腕に穴が出現し、吹雪の巨人と吹雪を全て吸い込む。吸い込み終わると周りに雪化粧の景色が眼前に広がる。
サヴァーノ「綺麗~」
サヴァーノとミル、目を輝かしている。ロンヴィ、ポケットから無線を取り出しスイッチを押そうとするも止める。
ロンヴィ「もう少し、この景色を楽しんでもいいかな」
無線に連絡が入る。「バンドルドゥ総統」との表示。ロンヴィ、急いで無線のスイッチを押す。
バンドルドゥ(無線)「おい、どうした?完了報告がないぞ。何かあったか?」
ロンヴィ「申し訳ありません!報告遅れました。無事エネルギーの回収を終えました」
バンドルドゥ(無線)「そうか。ご苦労だった。今すぐ帰還しろ。もうすぐ迎えも着くはずだ」
ロンヴィ「かしこまりました」
ロンヴィ、苦い顔で無線のスイッチを消す。
ロンヴィ「タイミング良いな、ほんと…」
ロンヴィ、ミルとサヴァーノを呼びかける。
ロンヴィ「おーい!!帰還命令が出た!もうすぐヘリが来るって!!」
三人、上空を見上げる。一面の青い空。一台のヘリが見えてくる。
T「数日後…」
〇終斎場『パノプティコン』休息の間・ロンヴィの部屋(朝)
ロンヴィ、読書中。校内放送が流れてくる。
音声『ロンヴィ様。オードン医師がお待ちです。医務室に来てください』
ロンヴィ「何の話だ?」
ロンヴィ、本を閉じる。
〇同・医務室 診察室
ロンヴィ、医務室のドアを開ける。オードン・ジェルジ(52)、振り返る。
ロンヴィ「何かありましたか?」
オードン「急に呼び出してすまない。大事な話があってだな」
ロンヴィ「大事な話?」
オードン「君の『器』が、まもなく容量を超えてしまう」
ロンヴィ、目を逸らす。
ロンヴィ「…またですか」
オードン「先日の吹雪のエネルギー、相当大きくてな。想像以上に数値を悪化させている」
ロンヴィ「これは総統にも伝わりますか?」
オードン「あぁ、そうだな…ただ君は優秀だ。簡単に変わることはないはずだ。来年の『継承式』まではね」
ロンヴィ「…はい」
オードン「次の出撃はエネルギーを吸収し過ぎないよう注意してくれ。くれぐれも無理をしてミスはしないように。総統はミスが嫌いだからね」
ロンヴィ、オードンの目を力強く見つめる。
ロンヴィ「わかっています」
ロンヴィ、立ち上がる。
ロンヴィ「失礼します」
〇同・ロンヴィの部屋(夜)
ロンヴィ、ベッドに横たわる。
ロンヴィ「『継承式』、もう後1年なのか…」
ロンヴィ、ゆっくりと目を閉じる。
ロンヴィ「(呟くように)死ぬのか、もう」
〇同・職員の間 パックの部屋(夜)
深呼吸をするパック(25)。パックの手には小瓶。
パック「(呟くように)任務遂行します」
〇同・休息の間 廊下(朝)
T「来襲まで後7日」
大音量で緊急校内放送が響く。
音声『ガンダ地方にて台風エネルギー発生。嵐警報感知。ロンヴィ、ミルは出撃の準備をせよ』
〇同・ロンヴィの部屋(朝)
溜め息をつきながら本を閉じるロンヴィ。
ロンヴィ「今月は仕事が多いな」
〇同・ミルの部屋(朝)
ベッドから重々しく起き上がるミル。
ミル「…また仕事」
〇同・廊下(朝)
ロンヴィ、ミル、同時に部屋の外に出る。ロンヴィ、ミルの顔を覗き込む。
ロンヴィ「大丈夫?」
ミル「平気」
ロンヴィ、笑顔を作る。
ロンヴィ「ミルも大変だろうけど頑張ろう」
ミル、小さく頷く。
〇同・屋上(朝)
屋上にヘリコプターが1台。乗っているのはパック。ロンヴィ・ミル、ヘリに乗り込む。ロンヴィの無線に連絡が入る。
バンドルドゥ(無線)『ロンヴィ、ミルよ。今回のエネルギーは前回より巨大だ。気を引き締めてくれ』
ロンヴィ「かしこまりました、総統」
ミル「…了解」
ロンヴィ、無線を切る。
〇ガンダ地方・上空
強風と豪雨が吹き荒れる。ヘリ、強風でガタガタ揺れ始める。二人のペンダント、大きく点滅。ロンヴィ、パックに話しかける。
ロンヴィ「ここで降ろしてください!これ以上近づくのは危険です!」
パック、無視して運転を続行。ミル、不安な表情を浮かべる。
ミル「聞いてるの?」
パック「私はあなたたちをエネルギーの発生源まで連れていくのが仕事です」
ロンヴィ「ですが、これ以上は」
ロンヴィ、パックの表情を見る。パックは笑っている。
ロンヴィ「まずい!!ミル!!飛び降りるぞ!!」
パック「もう遅い!!」
パック、ヘリを台風に直撃させる。ヘリのプロペラが壊れ、落下し始める。
ロンヴィ「くそっ!!」
ロンヴィ、ヘリのドアを蹴とばす。へリのドアが開く。
ロンヴィ「ミル!!飛び降りるぞ!!」
ロンヴィ、ミルの手を握りヘリから飛び降りる。直後ヘリは爆発。二人のペンダントが大きく光り一筋の光を放つ。嵐の巨人が現れる。ペンダントを握るロンヴィとミル。
ロンヴィ「さぁ、我に眠りし『風』の意思。呼応せよ。いざ眼前に」
ミル「さぁ、我に眠りし『雨』の意思。呼応せよ。いざ眼前に」
ロンヴィ「ケツアルカトル」
ミル「ユピテル」
ロンヴィとミル、ペンダントを開ける。ケツアルカトル、ユピテルが二人の背後に出現。ミルとロンヴィ、右手を前に差し出す。
二人「封緘」
ケツアルカトル、ユピテルは両腕から穴を出現させ、エネルギーを吸収。直後にロンヴィ、吐血。
ミル「ロンヴィ!!大丈夫!?」
ロンヴィ「(血を吐きながら)大丈夫だから」
ミル「まさか、『器』が限界なの!?なら吸収するべきじゃないわ!!」
ロンヴィ、意識を失い急降下し始める。
ミル「ロンヴィ!!」
ケツアルカトル「おいおい!!お前に死なれちゃ困るんだぞ!!しっかりしろ!!」
ロンヴィ、返事をしない。
ケツアルカトル「ブーランジェ」
ミル「なに」
ケツアルカトル「こいつに全身憑依する。エネルギーの回収を頼んだぞ」
ミル、ケツアルカトルをじっと見つめる。
ミル「わかった」
ケツアルカトル「それと、後で総統に上手く言い訳してくれ。禁忌使うんだから」
ミル「それは無理」
ケツアルカトル「無理なのかよ」
ミル「あの人、何考えているかわからない」
ケツアルカトル「俺らじゃ継承者にしか話せないんだから頼むぞ」
ミル「…ロンヴィを救ってくれる?」
ケツアルカトル「当たり前だろ」
ミル「わかった。何とかする」
ケツアルカトル「よしっ、それじゃいきますか!!『曁体 躯{キタイ ムクロ}』」
ケツアルカトル、ロンヴィの肉体に侵入する。ロンヴィの姿がケツアルカトルに変化する。ケツアルカトル、台風の巨人に掌をかざす。
台風の巨人「オマエタチデハカナワナイ…」
ケツアルカトル「あっそ。『風起雲湧{フウキウンユウ}』」
ミル「封緘」
ユピテルの腕から穴が出現する。ケツアルカトル、掌から竜巻を作り台風の巨人にぶつける。ぶつかり爆風が起きる。爆風と同時にエネルギーを吸収し始めるミル。
ミル「ごめん、容量オーバー」
ミル、ユピテルを引っ込める。残りのエネルギーにより爆風発生。ロンヴィとミル、空中で飛ばされ海へ着水。海に沈んでいく。
ケツアルカトル「おいおい…結局死ぬのは勘弁だ…」
ケツアルカトル、意識を失う。
〇同・地上
ロンヴィ、呼びかけに気付く。
隊員「…ンヴィ様、ロンヴィ様、ロンヴィ様!」
ロンヴィ、目を覚ます。
ロンヴィ「ここは…」
隊員「目を覚ましましたね!!よかった…」
ロンヴィ「…僕は」
隊員「爆風に巻き込まれたんです…覚えていますか?」
ロンヴィ、首を横に振る。ロンヴィ、咳き込む。
ロンヴィ「ゴホッゴホッ!」
ミル、ロンヴィに近づきハンカチを手渡す。
ミル「…無理しないで」
ロンヴィ「ミル!無事だったか!?」
ミル「…それ私のセリフ」
ロンヴィ、表情が緩む。
ロンヴィ「そりゃそうか。ごめんね」
隊員、ロンヴィとミルの間に割って入る。
隊員「ミル様がロンヴィ様を引き上げてくださいましたよ」
ミル「余計なこと言わないで」
ミル、隊員をにらむ。
ロンヴィ「さすがミルだね。ありがとう」
ミル、小さく頷く
隊員「さぁ、ロンヴィ様。『パノプティコン』で治療をしましょう。応急措置だけでは悪化してしまいますので」
ロンヴィ「そうだね。帰ろうか」
ロンヴィ、パックのことを思い出す。
ロンヴィ「僕らは狙われた…」
隊員「狙われた?」
ロンヴィ「今日の操縦士、僕らを殺そうとしていました。一体誰が…」
隊員「それって…」
隊員の声色が変わる。
パック「こんな顔じゃありませんか?」
隊員の顔がパックに変わる。
〇終斎場『パノプティコン』会食の間(朝)
T「来襲まで後6日」
ナオキ、ハンク、ガラン、食事をしている。
ナオキ「ロンヴィが失敗するとはな」
ハンク「ミルがしっかりサポートしていないのが原因ね」
ナオキ、不敵に笑う。
ナオキ「おっロンヴィの肩を持つのか」
ハンク、ナオキを睨む。
ハンク「なによ?」
ナオキ「いや、なんでもないぜ。相変わらずミルが嫌いなんだな」
ハンク「なにそれ、関係ないでしょ?それに今回は連帯責任でしょ?」
ナオキ「たしかにそうだけどよ…」
ハンク、不敵に笑う。
ハンク「やっぱミルの肩を持ちたがるのね」
ナオキ、ハンクを怪訝そうに見る。
ナオキ「何が言いたい?」
ハンク「いいえ、なにも。それよりガランはどう思うの?」
ガラン、無視し食事を進める。
ハンク「無視しないでくれない?」
ナオキ「ガランが会話に参加しないのはいつものことだろ」
ハンク「だからって無視は良くないでしょ」
会食の間に放送が響く。
音声『ガラン様。【プロテクト】の会長ウェイク様がお見えです』
ガラン、席を立つ。
ナオキ「またあいつだぞ?相手するのか?」
ガラン、無視をして会食の間を出る。
ハンク「…ねぇ今日一段と無口じゃない?」
ナオキ「もしかしたら、ロンヴィがしくじったのショックだったのかもな…」
ハンク・ナオキ目を見合わす。
二人「それはないか」
ナオキ「それにしてもよ、気にならないか?」
ハンク「何が?」
ナオキ「裏切り者の件。いつから侵入してたんだろうな」
ハンク「気にしたところでどうしようもないでしょ」
ナオキ「でも、次に狙われるのは俺たちかもしれないぞ?」
ハンク「その時は…」
ハンク、ナイフをステーキに突き刺す。
ハンク「殺せばいいだけよ」
〇同・謁見の間(朝)
ガラン、椅子に座る。ガラス越しには座っているウェイク(67)の姿。
ウェイク「どうだね?やっぱり私と行動してくれないか?」
ガラン「断る」
ウェイク「なぜだ!!君たちもおかしいと思わないか!?バンドルドゥは君たちの命を捨てて平和を保っている!18歳という若者の命を犠牲にして成り立つ平和は正しい平和と言えるのか!?」
ガラン、欠伸をする。
ウェイク「『器』が子供にしか出来ないなんて、嘘に決まっている!あいつの支持者は年寄りばっかりだ!だから子供が邪魔で仕方ないんだ!!」
ガラン、頭をかく。
ウェイク「私たちと立ち上がってバンドルドゥを倒そう!!そうすれば君たちも死なずに済む!!だから、私たちに協力してくれ!!」
ガラン「演説は以上か?」
ガラン、席を立とうとする。
ウェイク「待ってくれ!!協力してくれるから話を聞いてくれたんじゃないのか!?」
ガラン「あいつらがくだらない話をしていたから暇つぶしで来ただけだ」
ウェイク「そんな!待ってくれ!!君たちの力さえあれば…」
ガラン「協力してほしけりゃ」
ガラン、ガラスを殴りウェイクを睨む。
ガラン「お前の力を示して仲間にさせてみろ」
ガラン、席を立つ。
〇『カサ・ロサダ』総統の間(朝)
T「来襲まで後6日」
ブール・シュテファン(31)、ドアを開ける。目の前には座っているバンドルドゥ・アイヴァー・フォールモーレン(55)。
ブール「バンドルドゥ様。ロンヴィ様の容態は回復されましたが、未知のウィルス感染により隔離状態です。ミル様も同様に隔離しています。ただ症状は重体です」
バンドルドゥ「そうか。ロンヴィとミルの替えを用意しとけ」
ブール「バンドルドゥ様。ということは…」
バンドルドゥ「継承者から降ろす」
ブール「彼らは優秀です。体調も次期に回復しウィルスの抗体が出来れば今後に役立つと思いますが…」
バンドルドゥ「しくじって敵にやられる奴を有能とは呼ばん。所詮あいつらは凡才だ。それに抗体は死体からでも採取できる」
ブール「…かしこまりました。次の継承者の募集を行います」
ブール、頭を下げ部屋のドアに向かう。
バンドルドゥ「それと」
ブール、振り向く。
バンドルドゥ「オードンにも伝えろ。早急に継承式を行えるようにしろと」
ブール「かしこまりました」
ブール、退室。バンドルドゥ、ロンヴィの様子をモニターに写し眺める。
バンドルドゥ「ウィルス使うのは…あいつの仕業か」
〇同・医務室 ロンヴィの病室(朝)
T「来襲まで後5日」
ロンヴィ、ベッドで横になっている。体温計が鳴る。体温計の数字が測定不能と表示。ロンヴィ、血の気が引く。
ロンヴィ「どうなってるんだ、俺の体…」
〇同・医務室前(朝)
サヴァーノ、ユニウス(34)と話す。
サヴァーノ「ロンヴィと会わせて!!」
ユニウス「なりません。隔離の意味がないですよ」
サヴァーノ「なんだよ!けち!!」
ユニウス「けちではありません」
サヴァーノ「…ならミルの手を握らせて。ミル、まだ目を覚ましてないんでしょ…?」
ユニウス、目を逸らす。サヴァーノ、泣く。
サヴァーノ「ミルもロンヴィも助けてよ…大事な友達なんだよ…」
ユニウス、サヴァーノの頭を撫で抱きしめる。
ユニウス「もちろんです。必ず助けますから、今日はお部屋に戻ってください、サヴァーノ様」
サヴァーノ、号泣する。
〇同・医務室 ミルの病室(朝)
目を覚まさないミル。
〇同・鍛錬の間
T「来襲まで後5日」
ナオキ、ベンチプレスをしている。ガラン、隣でベンチプレスで開始。
ナオキ「おっ、珍しいな」
ガラン「たまたまだ」
二人で黙々とトレーニングをする。
ナオキ「もう一年なんだよな」
ガラン「は?」
ナオキ「いや、寿命が」
ガラン「あぁ、それがどうした?」
ナオキ「何だかさ、好きなことやってるから気にならなかったけど俺ら来年にはもう居ないってなんか想像つかないな」
ガラン「今更それを言うのか」
ナオキ「ガラン、お前はおかしいと思わないのか?『ロスタイムチルドレン制度』…俺たちがどうして死ぬ必要あるんだよ?ウェイクも言ってるけどよ、俺らが死なないと保てない平和って本当に平和なのか?」
ガラン「お前、あいつに感化されたか?」
ナオキ「答えてくれ、ガラン。お前はこの制度、平和をどう思ってる?」
ガラン、溜息をつく。
ガラン「お前がここに来た理由を考えろ」
ナオキ「俺がここに来た理由?」
ガラン「お前がここに来たのは親に売られたからだろ?」
ナオキ「…」
ガラン「その親がまずこの制度で得してるんだよ。一生安泰の金を手に入れたんだからな。そして俺らは天涯孤独と一緒。俺らが死んでも親がまず悲しまないんだから他の奴らが悲しむ訳がない。だから死んでもいい。それで平和が成り立つんだから、そりゃ他の人間から文句なんか出る訳ないだろ」
ナオキ「…やっぱ頭いいな」
ガラン「理解するのが遅いな、まぁバカだから仕方ないか」
ナオキ、ガランを睨む。
ナオキ「言い過ぎだぞ」
ガラン「もしお前がこの制度を本気で変えたいなら」
ガラン「あの会長でも利用することだ」
ガラン、鍛錬の間を出る。
ナオキ「あの人、お前としか会う気ないだろ」
〇レジスタンスアジト『ノア』 戦略室(夕方)
T「来襲まで後4日」
エリウス・ジェラール(??)、『パノプティコン』のホログラムを眺めている。エリウスの元にユダ・レーヴィナ(40)が近づく。
ユダ「パックは任務成功し海に投身した」
エリウス「そうか」
ユダ「ミルは重体。ロンヴィは容体を回復したみたいだ。ユニウスからの情報からだから間違いない」
エリウス「順調だな」
ユダ「本当に良かったのか?新型のウィルスに感染させるなんて。万が一あいつらが死んだらとんでもないことになるぞ?」
エリウス「これくらいしないと隙が生まれない」
ユダ「もっと毒性を弱めるとかそういう…」
エリウス「あいつらを継承式までに殺すことはない。毒性が強くても確実に命を引き延ばす。それに毒性が強くなきゃ治される可能性がある。治ったら作戦が元も子もなくなる」
ユダ「あいつらの医療技術に懸けているってことだな?」
エリウス「そういうことだ」
ユダ「治らなかったらどうする?」
エリウス「パノプティコンを侮っているのか?」
ユダ「そうじゃないが…」
エリウス、深呼吸をする。
エリウス「いずれ、彼らは死ぬ。一人で死ぬか、全員で死ぬかだけだ」
ユダ「エリウス…」
エリウス「私はヒーローじゃない。それはお前もわかっているだろ?」
ユダ「そうだな、俺たちはテロリストだ」
エリウス「私たちはどんな卑劣な手段でもあいつを殺す必要がある。私の、いや私たちの命を奪ったあいつを」
ユダ「…すまない。弱気になっていた」
エリウス「気にするな。それとあの継承者は見つかったか?」
ユダ「バジェットからの報告では上がっていない。恐らくパノプティコンの隠れ部屋のどれかには居るんじゃないかってことだ」
エリウス「なら襲撃時にそいつらの回収はやめておこう。時間がかかる」
ユダ「そうだな」
エリウス、ユダ、パノプティコンのホログラムを見つめる。
エリウス「絶対成功させるぞ」
ユダ「わかっている」
エリウス「あいつを仕留める」
〇(回想)ガンダ地方 地上(朝)
隊員の顔がパックとなる。パック、持っていた瓶を開け、中の液体をロンヴィとミルにかける。ミル、口に液体が入り意識を失う。
ロンヴィ「ぐっ!!」
パック「油断したな」
ロンヴィ「貴様!!」
ロンヴィ、体の力が入らないことに気が付く。
ロンヴィ「何をした…?」
パック「私が教えることはない」
パック、海に飛び込む。
ロンヴィ「待て!!」
ロンヴィ、意識が朦朧とする。
ロンヴィM「まずい…このままでは…」
〇終斎場『パノプティコン』 医務室 ロンヴィの病室(夜)
ロンヴィ、目を覚ます。同時に嘔吐をする。全身防護服を着たユニウスが薬を持って駆け寄る。
ユニウス「うなされていたわね」
ロンヴィ「申し訳ありません…」
ユニウス「これを飲んで。落ち着くと思うから」
ロンヴィ、ユニウスから渡された薬を飲む。
ロンヴィ「ありがとうございます…」
ユニウス「気にしないで」
ユニウス、ロンヴィの隣に座る。
ロンヴィ「あまり近づかない方が良いかと…私は、新種のウィルスに侵されてるんですよね?」
ユニウス「良いのよ、あなたがこうなのも私たちのせいなんだから」
ロンヴィ、驚く。
ロンヴィ「どういうことですか?」
〇『カサ・ロサダ』総統の間(夜)
バンドルドゥ、モニターで通信をしている。相手はオードン。オードン、怒りの表情を浮かべる。
オードン「お前、本気で言ってるのか!?」
バンドルドゥ「私はいつでも本気だ」
オードン「継承式を早めるのはそれが目的なのか!?ふざけんな!!うちらを…職員を何だと思ってる!?」
バンドルドゥ「当たり前だ。リスクを回避するのが私の仕事だ」
オードン「こんな命令に…」
バンドルドゥ「逆らっても良いんだぞ?」
オードン「はぁ!?」
バンドルドゥ、不敵に笑う。
バンドルドゥ「独裁国家であれば、反逆する者はいずれ出てくる。そいつらを殺めて平和を維持してきた。お前たちに残されてるのはテロリストとして死ぬか、私に従順して死ぬだけだ」
オードン「おい!!ふざけ…」
バンドルドゥ、通信を切る。
バンドルドゥ「反逆でも何でも構わん。どうせ」
バンドルドゥ「パノプティコンを粛清するのだから」
バンドルドゥ、ブールを見る。
バンドルドゥ「ヨゼンに出撃準備を伝えろ」
ブール「かしこまりました」
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