ロスタイムチルドレン 第二話

第二話『粛清』

〇終斎場『パノプティコン』 会食の間(朝)

T「来襲まで後3日」

ハンク、一人でステーキを食べる。眠たい顔をしたサヴァーノ、隣に座る。

ハンク「珍しいわね。あんたが人と一緒に食事するなんて」

サヴァーノ「そう?いつも食べる時にみんなが居ないだけじゃん」

ハンク「あんたが、いつまでも食べないからじゃない…一体いつ朝を食べてるのよ?」

サヴァーノ、考え込む。

サヴァーノ「13時かな」

ハンク、呆れる。

ハンク「それってお昼って言うんだけど…朝ごはんじゃないわよ、それ」

サヴァーノ「起きてから初めて食べるのが朝ごはんじゃないの?」

ハンク「あんたと話すと疲れるわ…」

ハンク、溜息をつきステーキを食べる。

サヴァーノ「朝からステーキ食べるの?」

ハンク「なによ、悪い?」

サヴァーノ「よく食べられるね」

ハンク「訓練してたら腹が減るのよ」

サヴァーノ「ミル、お腹が減ってないかな…」

サヴァーノ、泣き始める。

ハンク「ちょっと!!急に泣かないでよ!!」

サヴァーノ「ミル、まだ目を覚ましてないんだって…ロンヴィも会えないし…」

ハンク「泣いてたってしょうがないでしょ。しっかりしなさい」

サヴァーノ「だってぇ」

ハンク「あんたが治せる力が今すぐやってきなさいよ。でも出来ないでしょ?」

サヴァーノ「そうだけど…」

ハンク「なら治ることを祈りなさいよ」

サヴァーノ、ハンクのナイフが震えていることに気が付く。

サヴァーノ「ハンクも本当は心配なんじゃないの?」

ハンク、目を逸らす。

ハンク「うるさいわね」

サヴァーノ「ハンクも泣いて良いんだよ」

ハンク「うるさいって言ってるでしょ!!」

サヴァーノ「ハンク…」

ハンク「あんたと飯を食うと不味くなる!!」

ハンク、ステーキを持って自室に戻る。

 
〇同・職員の間 ユニウスの部屋(朝)

白衣を身に着けるユニウス。ドアのノック音が聞こえる。


ユニウス「はい」


オードンの声「私だ。中に入っていいか?」

ユニウス「構いません」

ドアを開けるオードン。

ユニウス「どうしましたか?」

オードン「君なんだろ?」

ユニウス「はい?」

オードン「君が外部に情報を流している犯人なんだろ?」

ユニウス、白衣の下に忍ばせていたナイフを取り出そうとする。

オードン「ここで責任を追及するつもりはない。私が話に来たのは別の理由だ」

ユニウス、怪訝な顔になる。

ユニウス「何です?」

オードン「継承式の準備を手伝って欲しい」

ユニウス、目を丸くする。

ユニウス「私にですか?」

オードン「荷が重いか?」

ユニウス「いえ、今の流れから私に継承式を手伝わせることに違和感がありましたので」

オードン「普通は裏切り者に手伝わせるはずがないと?」

ユニウス「私が先生の立場ならそうします。ましてや継承式は一番シークレットな内容です。敵に知らせてはならない情報。それを裏切り者と思われる者に頼むなんて…」

オードン「そうだ。だからこそお願いしている」

ユニウス「先生?」

オードン「この計画を阻止して欲しい。私からの最後のお願いだ」

 
〇レジスタンスアジト『ノア』・バジェットの部屋

パソコンで作業しているバジェット・ブリッツスタイン(27)。一件のメールを受信する。発信元は「ユニウス」。バジェット、偽装メールかチェック。本人と判明。メールの中身を見る。

バジェット「これは…」

 
〇同・戦略室

パノプティコンのホログラムを見るユダ。ドアを開け入ってくるバジェット。

バジェット「継承式、3日後だ」

ユダ「ユニウスからか?」

バジェット「あぁ、そうだ」

ユダ「しかし、情報を掴むのが早いな」

バジェット「あぁ、それなんだが、どうやら継承式を取り仕切ってるオードンって奴から依頼を頼まれたらしい」

ユダ「おい、それって」

バジェット「あぁ、バレてる。ユニウスを始末するつもりだ」

ユダ「マズいな」

バジェット「ったくあいつしくじったな。情に流されやすいから、ロスタイムチルドレンに同情でもしたんだろ」

ユダ「あいつから連絡は?」

バジェット「ない。あいつは始末されていないだろうが、その分目立った動きが出来ねぇんだろう。パックの件で手当たり次第怪しい奴を始末してるな」

エリウスの声「始末するのは裏切り者だけじゃない」

エリウス、部屋の中に入る。

エリウス「奴は…バンドルドゥはパノプティコンの全員を粛清するつもりだ」

 
〇終斎場『パノプティコン』 職員の間(夜)

廊下を歩くユニウス。後ろからの気配を感じ、振り返る。誰も居ない。再び前を向く。目の前に立っているブール。

ユニウス「珍しいですね、カサ・ロサダから出てこないのかと思いました」

ブール「今回は緊急事態ですので」

ユニウス「私に何か用ですか?」

ブール「えぇ、そうですね」

ブールの背後から複数の兵士が現れる。腕章には「ウォーロック」と記載。

ブール「始末しに来ました」

ユニウス「そうですか」

ユニウス、白衣の下から拳銃を取り出す。直後、ユニウスの左腕が焼き切れる。右手で抑えながら倒れこむユニウス。

ユニウス「ぐあぁぁ!!」

ブール「簡単に死なせませんよ。より地獄を味わって貰いましょう。死ぬまでね」

ユニウス「(苦悶な顔で)何をした?」

ブール「教えるとでも?」

ブール、ハンカチをユニウスに当てる。気を失うユニウス。ブール、ペンダントを閉じる。

ブール「やはり、継承者は素晴らしいな」

T「火の継承者 ブール・シュテファン」

 
〇同・医務室 ロンヴィ病室前(朝)

T「来襲まで後2日」

サヴァーノ、部屋の前に立つ。

サヴァーノ「ロンヴィ、聞こえる?」

ロンヴィの声「サヴァーノ?聞こえるよ」

サヴァーノ「体は大丈夫?」

ロンヴィの声「…正直わからない。これが元気なのか、僕にもわからないんだ」

サヴァーノ「そうなんだ…」

ロンヴィの声「そういえば、看護師さん見てない?」

サヴァーノ「看護師さん?」

ロンヴィの声「話が聞きたかったんだけど、昨日ここに来なかったんだよ」

サヴァーノ「聞いてこようか?」

ロンヴィの声「お願いしてもいい?」

サヴァーノ「わかった」

サヴァーノ、ドアから離れる。直後ドアに口を当てるサヴァーノ。

サヴァーノ「待ってるよ、ロンヴィ」

ロンヴィの声「…ありがとう」

 
〇同・医務室 ナースステーション(朝)

サヴァーノ、看護師に話しかける。

サヴァーノ「すみません」

看護師「なんですか、サヴァーノ様」

サヴァーノ「ロンヴィの部屋に行ったことのある看護師さん居ますか?」

看護師「ロンヴィ様は基本隔離されてますので、出入りした看護師は限られていますが…ユニウスという看護師ですかね」

サヴァーノ「その人居ますか?」

看護師「実は急遽、異動になったみたいで…私たちも事情はわからないんですけど」

サヴァーノ「異動?」

サヴァーノM「どういうこと…?」 


〇同・会食の間

ガランが一人食べている。ナオキが隣に座る。

ガラン「向こうで食え、狭いだろ」

ナオキ「まぁ、気にするなって」

ナオキ、食事をする。ガラン、席を立ち、一つ隣の席に移動。

ナオキ「離れなくたっていいじゃないか」

ガラン、無視。

ナオキ「ありがとうな」

ガラン「何が?」

ナオキ「俺が間違ってたわ」

ガラン「だから何が?」

ナオキ「俺は自分が死ぬ覚悟出来てないからこの制度がおかしいと思ってたんだなって」

ガラン「あっそ」

ナオキ「ガランは死ぬのが怖くないのか?」

ガラン「怖くないな」

ナオキ「どうして?」

ガラン「どうせ死ぬんだからそれが早いか遅いかだけだろ。何をビビる必要がある?」

ナオキ「やり残したこととかないのか?」

ガラン「やり残したも何も何をやりたいんだよ、お前は」

ナオキ「俺は…家族を作りたい」

ガラン、噴き出す。

ナオキ「笑うなよ」

ガラン「こんなの笑わずにいられないだろ」

ナオキ「俺は、幸せを感じたいんだよ。一人ではなくみんなで」

ガラン「大層な夢なこった」

ナオキ「ガランは本当にやり残してることないのかよ」

ガラン「面白いことをやってくれる奴が居たら、そいつの面白い結末を見てやりたい。それくらいだな」

ナオキ「なんだそれ」

ガラン「お前よりわかりやすいだろ」

ナオキ「どこが?」

ガラン「理解できないならそれまでだ」

ガラン、席を立つ。

ナオキ「やっぱあいつ、よくわからないな」

 
〇同・昏迷の間 ダブの部屋(夜)

目を覚ますユニウス。目の前には皮膚が爛れたアーノルド(41)。横で無邪気に笑うダブ・スクリャービン(9)。

ダブ「やっぱりこれだけ爛れるのは面白いね!!」

ユニウス、体を震わせる。

ユニウス「あなたは…誰?」

ダブ「僕はダブ。よろしくね!僕と友達になって!!」

ユニウス「ふざけないで!!あなた、人をこんな姿にして…」

ユニウス、突如苦しみだす。

ユニウス「ゴホッゴホッ!!」

ダブ「なんで、お姉さんそんな意地悪言うの?そんなこと言われたら」

ダブ「お姉さんも殺しちゃうよ?」

T「原子力の継承者 ダブ・スクリャービン」

ユニウス「まさか…あなたも継承者なの?」

ダブ「けいしょうしゃ?なにそれ?」

ユニウスM「(アーノルドを見て)この爛れ方…人の力じゃない。もしかしてこれが例の人工継承者の一人!これはバジェットさんに伝えなくては…」

ユニウス、右腕がただれていることに気が付く。ユニウス、顔面蒼白になる。

ダブ「お姉さん、あんまり動かない方が良いよ。すぐに死んじゃうから」

ダブ、満面の笑みを浮かべる。

ユニウスM「私は…一体どこで間違えたのかしら…

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