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【Zatsu】ぞくっとした想い出 6

まだ小学生低学年のころ。
事後形成なのか、リアルな記憶なのか。それすらよくわからない。

男の子たちのあいだで流行っている遊びがあった。学校の近くでは団地やマンションが林立していたんだけれど、建物の屋上は常時解放されていて、だれでも登ることができたのね。今では考えられないけれど、当時はおおらかだったから屋上に鍵なんてかかっていなかったんだ。
だから、上まで登って、隣りの建物の屋上へ飛び移るという遊びがひそかに流行していた。で、プラスチック製の雨どいにつかまって壁面を滑り降りてくるという、本当に無謀というしかない。

遊びというよりも、度胸試しに近いかな。
屋上はだれでも登れるというだけでなく、フェンスが設置されていないことも珍しくなかった。いまだったら管理責任を問われて大変なことになるけれど、まあ当時はテキトーだったんだろうね。
まるでマンガみたいに助走をつけてジャンプし、建物から建物へ飛び移る。スキマは1mくらいだけど、こちらも小学生の低学年だからね、そんなに跳躍力もない。けっこうギリギリだったりする。

おまけに、建物は5階建て、6階建てなので、屋上から落ちたら、それこそただでは済まないんだ(というか、たぶん〇ぬ)。

みんな縦に並ぶと、前のやつから順番に走って向こう側へ渡っていく。内心ヒヤヒヤなんだけれど、そんなことはおくびにも出さず、向こう側へ渡ったやつは得意げな表情でこちらを見やり、後続が飛んでくるのを待っている。

ここでビビってたら、そのあと学校で何を言われるかわかったもんじゃないんだ。理不尽なんだけれど、小学校男子の世界ではそういうことになっている。だから、おれもこの「大人への通過儀礼」を日々こなしていた。

そんなある日、いつものとおり近所のマンションの屋上に集合すると、順番に走り幅跳びを始めた。その日、おれは最後尾だった。前のみんなが飛び終わり、いよいよ自分の番。とはいえ、もう慣れたものだったので特に緊張もなく、助走をつけ境界へ向かって走っていった。
ただ、利き足で踏み切る瞬間に歩幅の調整がうまくいかなかったのか、それとも飛んだ時にバランスを崩したのか、とにかくおれは中途半端な姿勢で跳躍してしまった。

向こう岸までたった1m。でもギリギリ足が届かず、そのあとはすぐに茶色い光沢のあるタイルの壁面が目の前をものすごい勢いで上へ流れていき、ジェットコースターのようなあのフワフワしたこそばゆい感覚があったことを覚えている。

ドン!!!


体が前後に揺れる衝撃があって、ハッと我に返ると、おれは屋上に立っていた。後ろから肩をつかまれていて、ビックリして振り返ると、そこには仲の良かったM君が立っていた。

「おい、早く行けって。もしかして、ビビってる?」
「え? ビ、ビビってねぇよ。ふざけんな」

肩をゆするM君に憎まれ口をたたきながら、おれ最後尾じゃなかったっけとも思いながら、今度は何の問題もなくジャンプし、向こう岸へと到達できた(ちょっと緊張したけど)。

ただ、境界へ向かって走りだした瞬間、うしろでM君が「今度は失敗するなよ」と言ったのをハッキリ覚えている。

M君とはこのあともずっと仲良しだった。小学校卒業と同時にどこかへ引っ越してしまったのだが。いま、どこで何をしているんだろうか。

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