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【Zatsu】世の中をひっくり返すもの7

1.伝播時差

生成AIの世界で劇的な技術革新があったのはここ最近のこと。

ChatGPTの名を耳にしない日はなく、ニュースでも連日報道されている今、存在を知らないという方は少数派だと思う。
存在は知っている。
じゃあ、会社の仕事で使っているか? 職場でビジネスへの適用を前提とした話題があがっているか? もし答えがYESであれば、その職場はかなり先進的な気がする。

うちの会社の事業はこの生成AIの影響をモロにうける業界。
にもかかわらず、だれもこの話題を持ち出さない。
これが一般的な企業の実態ではないだろうか。
DXだ、効率化だ、という言葉がいまだに社内を飛び交っている一方、まもなく新年度の事業計画が発表されるが、しかしそこに生成AIの話題が盛り込まれる気配もない(残念ながら、おれは意見できる立場にない)。

企業にお勤めの方は、ご自身の職場を見渡してみるとよくわかると思う。動きがない場合、拙速な行動によるリスクを警戒してまだ自制している組織なのか、危機感/好機感を吟味せず何もしていない組織なのか。
ノーアクションという結果は同じだが、この急激な環境の変化のなかで次の波が来た時の振る舞いには大きな差が出ることになる。

だから、もし組織が動かなくても、個人的な準備くらいはしておいたほうが良いように思うんだ。

2.生成AIの衝撃

2023年3月9日にJDLA(日本ディープラーニング協会)主催で実施された公開ウェビナーのアーカイブをさっき見ていたんだ。途中で何度も止めて、あれこれ考えを巡らせるだろうと思っていたので、あえてリアルタイム視聴ではなくアーカーイブにした。大正解😁。

純粋に学術的探究心でやられている研究者の先生方には頭がさがるけれど、おれはユーザー側なので、その成果を自分の仕事にどう活かすかとか、自分の周りがどう影響を受けるのかとか、世の中のトレンドがどう推移していくのかとか、そういう予想にこそ興味がわく。

よく「何をやるかより、誰とやるかのほうが重要」というでしょ? 全部自分でやるよりそれぞれが得意なことをやったほうが効率がいいし、それによる相乗効果を得られるということもあるしね。
"WHO knows WHAT" なんてのもうんざりするほど聞くね。組織の中で情報処理効率を上げるためには、要するに分散型のデータベースで管理して、INDEXでアクセスを高速にしたほうが目的にかなう、ってこと。

そこに「但し、これまでは」という但し書きがつくようになったのが最近の流れじゃないかと思っている。

いままでは全員野球(おっさんビジネス用語を使ってみたよ。わーい😆)。いかに各人の知識やノウハウを結集して最大化するかが、チームリーダーの腕の見せ所だった。
しかし、そこにChatGPTというスーパースターが登場したんだ。
こいつはマルチプレーヤーで全方位カバー型、得意不得意のムラがない。
おまけに、聞けば即答してくれるぜ。しかも無料と来ている。ウヒョ。
つまり、早い、うまい、安い、の3拍子そろった名選手。
「何をやるかより、誰とやるかのほうが重要」だっけ? だったらもうGPTくんだけでいいよ。GPTくんと仕事するわ。
そういう社長さんがでてくるかもよ😛

でも、これは冗談じゃなく、可能性としてはあり得ると思う。
起業直後とかで資金力に乏しい時期、GPTくんを右腕参謀として抱えるのは容易に想像できるパターンでもある。
中小企業でも、社長が社員を信じなくなり、対話の減少と反比例するように社長室にこもってGPTくんとの会話が増えていく、とかね。
そして学習データに仕込まれた巧妙な罠。デジタルスパイがでてくるかもね。参謀と考えていたGPTが裏切る日、そのX-DAYはいつ訪れるか。


3.ありうる未来(清水亮さんの視点)

ウェビナーのなかで清水亮さんが話されていた懸念は、ありうる未来の姿のひとつと感じた。
AIは結果的にゴミ情報によってゴミ教育を施され、そのレベルの人たちの興味を満たす存在へとなり下がっていく。そして本当に価値ある情報は、一部の人たちの中でのみ共有される未来。

ここ10年で機械学習が大きく進展した理由のひとつは間違いなく深層学習ディープラーニングにあるし、深層学習の進展の背景には膨大な学習データをインターネットから取得できるようになったことにある。しかし、これからは収集情報ソースがWebであることが逆にネックになってくるのでは、ということを清水さんは問題提起していた。

これは非常に的を射た指摘だと思う。

インターネットは黎明期から情報の海として、量によりその価値を上げてきた。玉石混交でありつつも、圧倒的な学習データにものをいわせてきた。肥大化するにつれノイズが増加したが、役に立つ情報(真実)は相変わらず含まれていたんだ。( 以前の記事 参照)

しかし、今後は真実(価値ある情報)が作為的に有料化され、壁の中に退避される可能性がある。
地上波テレビがなぜ無料で受信できたのか考えてみればいい。
それは大衆マスに対する一斉配信という広告効果によるものだったはずだ。無料のコンテンツとそこに群がる大衆という構図があり、無料番組という撒き餌に引き寄せられた大衆に向けて企業は広告を投下する。
もちろん番組は制作会社が製作し、テレビ局が放送するわけだが、その費用の多くは広告企業が番組提供という形で負担する。しかし、集まってくる大衆の物量と、そこへ一斉配信するテレビCMという広告の費用対効果が圧倒的だったため、情報の制作・放送費用を負担して余りあるほどのリターンを得ることができた。

しかし、今後は情報が作為的に有料化され、しかるべき対価を支払った人のみがアクセスできるようになる可能性がある。
何かを知りたいとき、検索するという行為自体がなくなってゆく。それはGoogleをはじめとした検索エンジンサービスの終焉であり、いま流行りのインスタやTikTokなどのSNSによる情報収集の退廃でもある。

知りたければ、知っている人に聞けばいいじゃん。
だれに? 何でも知っているGPTくんがそこにいるじゃん。
GPTくんがすぐ教えてくれるから、自分で情報を拾いに行く必要ないね。

それを受けての情報有料化は、出し手(販売側)からすれば当然の行動。
いままではたくさんの来訪客があったから、情報の無料公開にも一定の意味はあったんだ。それは、大衆を引き付ける撒き餌としての効果だ。地上波テレビと同じ構造だね。無料につられてやってきたお客さんに、ついでにあれこれ広告を見せたり、ついで買いを誘ったり、なんなら出会いの場が形成されてファンになってくれる人が出てくれば儲けもの。そういうリターンが見込めるからこその、無料情報の提供は一種の投資だったんだ。
でも、みんなが自分で情報を探しに行くことをやめ、GPTを通じて入手する2次情報に依存するなら、情報の無料公開を続けても立ち寄ってくれるのはGPTくんだけで、一般客の訪問はなくなり広告効果もなくなる。
しかも、GPTくんは用事がすんだらとっとと帰ってしまうという、ヒジョーに淡白なお方。こっちとしたら、商売あがったりだ。


4.悪環境から脱出する未来

圧倒的な「知の巨人」にみんながぶら下がることになる。この状況があるかぎり、情報の有料化は止められない(本質的には、無料/有料が問題ではなく、Web上にあった一般情報が劣化していき、悪貨が良貨を駆逐するがごとく、Webが非常に濁って臭いもキツイ汚染された情報の海になってしまうことと、汚水の中で生まれ、自分を取り巻く環境を知りながら、あるいは知らずして生活する人がかなりの割合で発生することと、価値ある情報が一部の人にのみ共有され、部分最適が進んでしまうこと、が問題だと思う)。

オープンソースと同じで、みんなが自分の能力を出し合い、同時にそれらが相乗効果をもたらして、全員がアウトプットを享受できるならばいいが、フリーライダーが横行した時点でこのモデルは機能不全に陥る。
そして、みんなが自分で情報を探さずにGPTくんに依存するのは、時間コストや心理コストが大きい。GPTに聞くのも自分でGoogleで調べるのも無料という点では同じだけれど、要するに面倒くさいんだよ。パッと聞いてサッと教えてくれるなら時間もかからないし、探すストレスもない。そっちのコストメリットが圧倒的だから、大多数の利口な人●●●●は「知の巨人」にぶら下がることになる。これは避けられないんだろうな。

であれば、情報の偏在は受け入れるとして、あとは巨人に何を求めるか。百科事典的な物知り博士としての役割か、進むべき道を指し示す作戦参謀か。

前者であれば世間的に評価の定まった情報をもとに情報収集を効率化することでビジネス上のメリットを享受し(その使い方がうまければ自社の競争力となる)、経営判断は人間が行うことになる。
後者について、いまの生成AIはまだ不得手だ。GPTくんに聞きたいのは経営判断の決め手となる材料、根拠の情報なんだけれど、それらは未知あるいは一部の人しか知らないし、その真偽もあやしい。場合によってはガセネタ。その情報を入手し真偽を見極めるだけの判断能力を大規模言語モデルに求めることもまだできない。この解決も将来的な課題だね。

やがて、GPTくんによる的確な情報提供により精度の高い判断はできるようになるのだろうが、こんどは

  • 人が間違えることが減り、間違えることによる学習の機会も減る

  • 試行錯誤が減り、試行錯誤の無駄の中から生まれる未知の発見、出会い、ひらめき、が減る

  • 全員の思考が画一化する、いや、GPTの提示した枠の中で思考するようになり、思考の機会そのものが減るのかも

イノベーションはどこから生まれるのか?
多様性はどこで担保されるのか?

そして学習データに仕込まれた巧妙な罠。デジタルスパイがでてくるかもね。参謀と考えていたGPTが裏切る日、そのX-DAYはいつ訪れるか。
――という話につながる。


5・そしてGPT-4へ

GPT-4の登場によりマルチモーダル化が進む。
本人認証対策は? イタチごっこによる技術進歩という側面もあるだろうが、きりがないことも分かっている。技術は使い方次第で善にも悪にもなるからだ。

切れ味鋭いナイフで食材を切るか、人に向けるか。
それは使う側にゆだねられており、使う側に善と悪がいる以上、このいたちごっこのPDCAに終わりはない。

安全性に主眼を置くなら、このレースから離脱するしかないだろう。つまり、Webからの脱却だ、といったら極論だろうか。
長期的に考えると、人の幸せはつまるところ「利便性の先には存在しない」のかもしれない。


https://www.youtube.com/live/TVaB5R4-uOE?feature=share



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