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【Zatsu】恐るべき魔術師たち

マジックって根強い人気があるよね。最近だと高橋匠やKiLa、マリックさんも現役だし、プリンセス天功もいまだに第一線で活躍している。このあいだもテレビで年末マジックスペシャルみたいなのをやっていた。
じつはおれが子どものときもブレイクして、マジック入門とか買ってみんなやったもんです。

小学生のとき、学校で自由研究の発表会があった。おれは友人数名とチームを組んでマジックを発表することにしたのよ。ほかのチームは体育の教科書のうしろに載ってる「よろこびの踊り」とか、音楽の教科書に載ってる「グリーングリーン」とか、そんな愚にもつかない出し物らしい。そんななかでマジックが成功するところを想像してみてください。もうおれたちは学園ヒーローです。モテモテですよ(小学生なりに)。

おれたちの手元にはマジック入門があり、巻末に超魔術がいくつか載っていた(いまにして思えば、タイトルに入門とついている時点でお察し)。どれをやろうかと話し合ったんだけれど、いちばん人気だった「爆発する自動車から奇跡の大脱出」、これはタネ明かしが載っていないという理由でボツ。
でも、どうせならデカイやつをやりたい――。
すると、載ってるじゃないですか、デカイやつが。当時、大仕掛けマジックの花形といえばギロチンですよ。あの、箱に入っておなかをまっぷたつに切断するやつ。タネ明かしもばっちり載ってる。

じつは箱にはふたり入っていて……。

本物のマジックは絶対にこんな仕掛けじゃないはずだけれど、子ども向けの本ですからね、こんなタネが載ってるわけです。「こ、これは」衝撃のタネ明かしを知ったオレたちは、この時点で勝利を確信しました。
さっそく道具作りにはいります。といっても子どもなのでベッドを買う金なんてありません。近所のスーパーからダンボールをもらってきて、すべて手作りです。

いよいよ発表の日、体育館に全校生徒が集められ、参加チームがそれぞれ発表をおこなっていく。オレたちとしては、予選をやってもらいたかったね。とうぜん勝ち残る自信はあったし、「よろこびの踊り」なんかと同系列に並べて欲しくなかったんで。そんなの、魔術師のオレたちに失礼でしょ。

順番が回ってきて、いよいよ出番。司会役の生徒が高らかにチーム名を告げると、舞台袖からあらわれたのはミステリアスな男たち。

メンバーのひとりが観客に向かって声を上げる。
「これから世にも不思議な魔術をお見せします。いでよ!」
その声に導かれて舞台袖から現れたダンボール製の超魔術ベッド――。ダンボール製のわりには、こども4人くらいが必死に押しています(なにせ下段に人が入ってるんで)。ようやく舞台中央に到着。

「いまからここに、人が入りまぁす」

仲間のひとりがそっと上段に身体を滑り込ませ、タイミングよく下段の仲間が足を出します。これが予想外の負荷だったらしく、補強も何もしていないダンボールベッドは、この時点で結構ひしゃげました。なんかギシギシいってます。

「この人間が、なんとなんと、いまからまっぷたつに――」

こっちが必死で演技しながらしゃべっているんだけれど、観客の生徒たちは人の話もロクに聞かず、ジーッと下段の箱を見つめてるんだよ。どうも、ダンボール箱が露骨に2段重ねになっているのが怪しかったらしい。
その下のスペースはなんなんだ、と。下の箱をはずせと。
指さしてとなりとヒソヒソ話しているやつもいる。ヤバイな。ちょっと思ったけれど、いまさらどうしようもない。強行あるのみ。
オモチャの刀を振り上げ、

「このサーベルを、ここに、こう! こう差し込むとーッ!」

「ぎゃぁ~」 メリメリ。ギシギシ。

「これでもかー」

「ぐわ~」 バリバリ、ミシミシ。

上段の仲間が迫真の演技でひねりだす叫び声と呼応するかのように、貧弱なダンボールを留めていたガムテープも悲鳴を上げています。

「生きてる、生きてま~す!」(どうですか~お客さ~ん?)

言い終わらないうちに、仲間4名が深刻な崩壊の危機を迎えていたベッドに駆け寄り(下段のやつはタスケテと言っていた)舞台袖までそっと押していきます。もう病人のベッドみたいです。会場からわきあがるあたたかい拍手。おれたちの思い描いていたエンディングと形式上は同じなんだけれど、いまいちヒーロー気分になれない、いやーなカンジだったことを克明に覚えています。