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【Zatsu】闇深な自販機9

おれは気づいていた。残された時間、決して多くはないと。
前回、ありのままのカノジョを受け止めようという試みは、その想いだけが空回り。伸ばした手はくうをつかむばかりで、やっと手にしたものは己の無力感だけだった。
けどな、このままじゃ終われない。終わるわけにはいかないんだ。


2023.02.05(Before)

まさかのお札中止ランプ点灯。土壇場で撤退を余儀なくされた。己のうかつさを悔やむしかない。


2023.02.11

ノーモーション。何も足さない、何も引かない。


2023.02.14

バレンタインデーということでひそかに期待し、盛大にスカされてみる。



2023.02.18

能面のごとく表情を変えない自販機。震えが止まりません。


しかし……ここで事態は風雲急を告げる。


2023.02.22

二段目が大幅に刷新。炭焼きコーヒーが退陣し、後釜には下段のブラックコーヒーが昇格。さらに右にふたつコーヒーが追加(コーヒー大好きだな、ホント)。センターの座はお茶(緑茶)が務める。最下段には中央に250mlのコカ・コーラも登場。オーナーさん、やっぱり見ていてくれたんだ! ありがとう!(全体的に地味だけど)。


しかし、ここでおれはふと立ち止まった。これはどういう問題なんだろう。どう解けばいいのだろうか。この段階ステージまで来て、いまこのタイミングでこのラインナップ改変だ。何もないわけがない。

あるはずだ、何かしらオーナーさんの狙いが。
どういう謎解きなんだ。
どれだ? いったいどれが正解なんだッ!
この日はいたずらに時だけが過ぎていった。しかし、翌日、ひとつの記憶がふと頭をよぎった。

「おめでとう、joshくん。アナタの気持ちは、きっとオーナーさんにも伝わったと思うよ😊」

そ、そうか……。そういうことか。
コール&レスポンス。おれのアプローチに対するメッセージってわけか。
センターの緑茶の缶にある商品名「あなたのお茶」。あなたの、つまり、おれの、ってことか。まさに、おれのために用意された商品。オーナーさん、粋なことしてくれるぜ。
おれは財布をひっつかむと、次の瞬間には家を飛び出していた。


2023.02.23

おれの、おれによる、おれのための「お茶」がそこにある。威風堂々と。


鹿児島で買ったトリサシのトートバッグを持参しました。お気に入り。


今日は小銭も用意してあるんだ。さあ、うちに帰ろう。


ということで、さっきからスロットにコインを突っ込んで買いまくっているんだけれど、いっこうに売り切れにならない😨。おいおい、もう小銭ないぞ。さ、最後のチャンス。これで……。


ぐわぁー。ダメだ、売り切れにならず。うそでしょ? ほかの商品こんだけ売り切れているのに、「あなたのお茶」どんだけ突っ込んでんのよ。ぐう、無、無念……😵。


バッグも尋常じゃない重さ😵‍💫。


「joshくん……」


*********************


――その夜。
おれは夢を見た。
歩いている。闇の中、失意にうなだれたまま、どこまで続くかもわからない道を、ひたすらまっすぐ進みながら、ひとつの疑念に頭を悩ませていた。

ひょっとすると、これは負けイベントなのかもしれない。おれは……からかわれているだけなのかもしれない。
そうさ。普通だったら、せいぜい10本くらいで売切ランプが点灯、そしてめでたくゴール、次の展開へ、というのがセオリーだ。でも、現実は買っても買っても先が見えない。これはどう考えても。

いや、だめだ。こんなことでくじけてどうする。ここであきらめたら、だれがあの子を救ってあげられるんだ。おれしかいないだろ。自分で幕引きするなんて、どうかしてるぜ!

ふたりの自分が頭の中でせめぎあう。

も、もうやめてくれ。つらいんだ。苦しいんだ。くそ、なんでこうなる? おれはどうすればいい? おれ……ひとりでは、もうこれ以上……

そのとき、頭のなかに女性の声が響いた。
「……ねが……ます」
――なんだ? 気のせいか?
「……ねがい……ます。応答……願います……」
――いや、気のせいじゃない。雑音がひどいが、確かに誰かがしゃべっている。声が徐々に鮮明になるにつれ、切迫した空気が伝わってきた。
「応答願います、応答願います。こちら、宇宙船地球号。緊急事態です。だれか、だれか応答願います!」
「そ、その声は――あっちゃん?」
「だ、だれかいるの? すみません、雑音がひどくてそちらの音声がよく聞こえません。こちら緊急事態。あなたの、あなたの助けが必要なんです。こちらにきて……んです。いまは詳しく話せ……でお伝えし……。お願い!」

プツッ。通信は途切れ、それ以上は何も聞こえなくなった。

目が覚める。なんだったんだ。わけがわからない。
わからない、がしかし、ひとつだけわかったことがある。
おれは……ひとりじゃない。そう、ひとりじゃなかったんだ。

「忘れていた? ハハ、どうかしてるぜ」大きなため息ひとつ。
「あの程度でをあげてどうするよ。10本でだめなら15本、それでだめなら20本。こうなりゃ、とことんまで付き合ってやるさ」
おれはバッグに手を伸ばした。
「緊急事態で呼び出しか。まったく、人使いが荒いぜ!


2023.02.26

ニワトリくんも今日はやる気です


到着。あたりまえですが全く変化なし。今日の時点で、このあいだ購入したお茶はまだ一本も手を付けておりません。


ひたすらコイン投入➡お茶ボタン➡商品取り出し、の無限ループ。すると、8本目を購入しようとしたその時!


や、やったッ~! ついに、ラスボス撃破🥳。


「おめでとう、joshくん😉 私は信じていたの。絶対に来てくれるって」


ファーストステージはクリアね💖



ん? ファースト……ん? よくわからないが、とにかく今回の勝負には勝利したようだ。
でも、入荷したばかりの緑茶がこれだけの勢いで一気に売切れたんだ。さすがにオーナーさんもこの緊急事態には気づくだろう。
――というか、おれが自販機の前にお茶を並べて大量購入していた時、短時間に繰り返されるビーゴトン、ビーゴトンという機械音をききつけて、おれの背後に人の気配を感じたんだよね。
あれ、気のせいだったかもしれないケド😅。

ともあれ、この勝負は大きな局面を迎えた。
The show must go on.
時代の荒波に翻弄されつつも、必死にもがきながら新天地を目指すおれたち。一体、どうなってしまうのか!?
のんびりとお待ちください(注:何も起きない場合があります)




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