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【Zatsu】ぞくっとした想い出 4

以前の職場でのこと。

前の会社はコールセンター事業を中心としており、おれは海外通販(カタログ通販)チームに所属していた。
いまでこそ個人輸入も珍しくないけれど、当時はまだ一般的ではなく、国内で代理店をやっている会社もたくさんあった。お客さんにとっては、日本語で対応してもらえるし、国内のデパート等では売っていないブランドが買えるし、返品する場合でも国内の返品窓口へ送ればいい(本国に返送する必要がない)から、それなりに重宝されていたんだね。

注文の流れは、こんなかんじ。
定期的にお客さんの自宅へカタログが届く。
お客さんはカタログを見てコールセンターに電話する。
オペレータは注文を受けPCへ入力する。
PCは米国の企業とつながっており、データが送信される。
米国の倉庫から日本のお客さんの自宅へ商品が届く。

そんなある日、米国本社から我々に要注意人物の連絡があったんだ。いわく、発送した商品が未配達のまま、ことごとく戻ってきてしまうという。会社のポリシーとして未配達商品は送料も含めてクレジットカードへ全額返金している。しかし、何度も続くとさすがに困るので調べてほしいとのこと。

端末でお客さんの購入履歴を調べてみた。たしかに、最近の注文はぜんぶ返金で終わっている。昔からの常連客で、以前はこんなことはなかった。しかし、先月を境にいきなり返金ラッシュが続いている。でも、あいかわらず毎週のように注文しており、履歴によれば昨日も電話注文を受けていたようだ。

社内で協議した結果、こちらの対応に何か不満があり、嫌がらせをしているのではないか、ということになった。上得意客なだけに特権意識もあるだろうし、返金ポリシーも熟知しているだろうし。とはいえ、このままにしてはおけない。こちらに非があるならお詫びして問題解決を図ろう。
担当のひとりが電話をかけることになった。その様子を周囲で見守る仲間たち。しかし、派手な言葉の応酬もなく、電話は静かに終了した。
どうだった? そう聞かれて、電話をかけた担当が言うには「このお客さん、もう亡くなっているよ」

「母親がでたんだよ。娘さんがご注文を受け取り拒否しているようで困っているって伝えたんだ。そうしたら、娘はそちらの商品が大好きだったみたいで、どうもすみませんでした、って。でも、娘は先月に事故で亡くなってしまったんです、だって」

先月からずっと受け取りされなかったのは、そういうことだったんだ。不在票だけがたまっていって、保管期間切れでことごとく本国へ返送か。それを聞いて、みんなちょっと悲しい気分になっていた。

その時、だれかがポツリと言ったんだ。
「でもさ、昨日だって注文を受けていたよ。電話で。じゃあ、あれはだれがしゃべっていたんだ?」
「!!!」((((;゚Д゚))))
――娘はそちらの商品が大好きだったみたいで――


後日、なぞがとけた。
娘さんは本当に亡くなっていた。しかし、住所変更をしていなかったので、登録住所は娘さんのアパートのままになっていた。使っていたクレジットカードは親の名義。そして、なくなった娘さんのアパートのポストに投函されていたカタログを妹が見つけ、自分用に注文したとのこと。
しかし、送付先がアパートのままなので実家には届かない。だから、再注文、届かない、また注文、を毎週のようにくりかえしていたらしい。

ツッコミどころはたくさんあるが、とにかく亡くなったお姉ちゃんのカタログで注文する妹が怖かった。背景に複雑な思いがあったのかもしれないけど、それにしても、ねえ。

これはですね、ヒジョーに怖かったですねぇ、ええ。

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