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インディペンデントアーティスト、『教養としての決済』、宇多田ヒカルの言葉、リファレンス、オルタナティブ、

『教養としての決済』はめずらしく刺さった。

月に30冊程度の本を読んでいるものの、そのうち半分以上は特に何も残さずに職場に置かれる(そして職場に遊びに来る友人たちのうちの誰かが持っていく。)。それは一般的な相場だろう。

序盤にある「決済のネットワークは単数であると同時に複数でもある。つまりインターネットのように。気が遠いうなるほどの数のサブシステムをつなぎ合わせた一つのシステムなのだ」(P6)は非常に示唆的だ。

音楽もまさにそうだろう。

どこからどう分かれたかも判然としないものが連綿と繋がっている。あるのは「リズム」「メロディー」「ハーモニー」。30代になっても「さびしさ」が日々のビジネス上の/私的な「意思決定の要素」として入り込んでしまう自分にとって、音楽制作はいつまで経っても心を救う営みだ(なお、音楽の4要素目は「音色」だと考え、私は「LOFI ALTERNATIVE」な音楽を作っている。)。

「私はメインストリームなもの、あまり知られていないようなオルタナなもの、昔のラップミュージック、クラシック音楽、分け隔てなく聴いてきました。全てジャンルは違えど「音楽」という認識しかなく、音楽をつくる要素は同じだし大した意味のある違いはないと考えます。」と以下の記事で宇多田ヒカルさんが語っていたのも印象に残っている。

個人アーティストの強みのひとつは「リファレンス」から逃れられる点にあると思う。

予算をかける音楽は「リファレンス(参照曲)」なしには制作できない。これは他のメジャーエンターテイメントでも同様だ。「成功した先行事例」が記載されていない商業出版書籍や映画の企画書は存在しないはずだ。

私たちインディペンデントアーティストは違う。

ギターを掻き鳴らして興が乗れば翌朝にはTuneCoreに配信申請を行うことができる(実際に私はそのようにして9月に毎週末リリースをした。1,2,3」「Night Long」「消えそうで眠れない)。

これがどれだけ心を救ってくれるか。TuneCore Japanをはじめとするディストリビューターに心の底から感謝を。同じ気持ちのインディペンデントアーティストはおそらく無限に思えるほど存在しているだろう。

もっとも、誰への目配せも要らないかといえばそうではない。

聴かれない音楽の寂しさ。伝わらない音楽の寂しさを耐えることはむずかしい。「予算を投じるステークホルダー」の反応を見ないで済む代わりに、誰の予算も借りない代わりに、リスナーの反応が強烈な道標となっている(もちろん多くの場合それは「凪」である。)。自分の心とリスナーの反応。ここにはそれしかない。

「消えそうで眠れない」のMVが1週間足らずで700再生を超えたことが本当に嬉しかった(ここ数年でいちばん嬉しかった。)。ここまでLOFIな筆致でも(もっと正直に言えば「自分を曲げずに届けても」)少しは届くのかと。

なお、この曲はサザンの「真夏の果実」のサビとほぼ同じコード進行のループである(リファレンスしたわけではないが桑田佳祐さんは好きだ。心の奥底のどこかで何かがつながっていると想像するのは面白い。そういえばこの夏休みに先輩と朝サウナに行った時、先輩の運転する車の中で「真夏の果実」がかかっていた。)。

予算が大きければ慎重な工程をとらざるを得ないという点では、ゲームの世界も同様である。

「ウォッチドッグス」シリーズや「アサシンクリード」シリーズ」を制作するUbisoftは非常に厳格な「Green light process」を通じて制作に入っていることで有名だ。量産工程に入る前(大量に予算をかける前)にこれでもかとチェックを行い、何重ものチェックを超えた先でやっと本格的な開発に乗り出す方式である。各工程に信号機を設置し、Green Light(青信号)が灯れば次の工程に進むことができるというわけだ。

最初の企画立案に早速まず信号機が立ち塞がる。Green Lightが灯れば次に。プリプロ、バーティカルスライス(特定の1ステージをまるまる作る工程)と予算を絞った審査が何度も行われていく。詳しくはFF14プロデューサーの吉田直樹さんの以下の著書にも書かれています。働く者として共感できる部分が多くすべてのビジネスパーソンにおすすめの一冊です。

エンターテイメントの営みはそれほどまでにビジネスであり、投資である。これはメジャーな音楽も同様だ。できる限りリスクを減らす必要があるのだ。

これも余談だが(むしろ本論はあったか?)、リファレンスではないかもしれないが、BoyWithUkeの「Toxic」が流行り始めて、これは日本でもメジャーが取り入れるだろうと予感した。その後、コード進行に類似性のある「Habit」が6ヶ月遅れでここ日本でも非常に流行った。一聴しただけでは多くの人が類似性を認識しないようなつながりが(もしかしたら)あると考えると興味深い。

(BoyWithUke良いですよね。私も覆面アーティストなのでこういうデジタルな仮面を作れるという方がおられましたらTwitterかインスタからご提案ください。)

ということでインディペンデントアーティストは我が道をいくしかない。誰も予算を投じてくれない。楽しみながら(泣かないようにしながら)進むのみである。

明日(10/2)新曲を配信リリースをするのでよかったら一聴して帰ってください。いつもありがとうございます。


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