「センスのあるコーチ」ってどんなコーチのことですか?(スポーツ教育学のおはなし)

こんばんは!ジョゼ佐藤です。
今年もよろしくお願いいたします。

新年一発目の今回は、
「センスのあるコーチ」の話です。

早速ですが、始めましょう。
よろしくお願いいたします。

質問:自分は高校の指導者3年目のまだ『新人』という自覚のある指導者です。自分の指導力について、まだまだ努力をするところがたくさんあるのですが、逆に「センスのあるコーチ」という方は自分のような新人コーチとは、どのようなところが違うのかなと疑問に思うようになりました。佐藤さんはコーチの「センス」について、どのようにお考えでしょうか?

先日このようなご質問をいただきました。
この方(以下、Aさん)はふだんの指導の中で、

「オマエはセンスがねーよ(笑)!」

などと上司から言われたことがあって、ご自身のセンスに悩んでいたそうです。
その上司に言われたことに対して、Aさんが、

『ではセンスってどんなことをセンスというのですか?』

と聞き返したところ、上司は、

「そりゃあオメェ、センスはセンスだよ(笑)。要はセンスだよ(笑)」

とだけ返答をされたそうです。
これは酷い返答ですね…

(Aさんからの質問の答えになってません)

上司からこのような酷い返答をもらっても、Aさんはご自身にセンスが無いことを自覚し、責任を感じ、悩まれていたそうです。

そこで私は、Aさんからお話を伺い、Aさんになぜセンスが無いとみなされてしまったのか?Aさんの指導実践の様子を聞いてみることにしました。

新人コーチのAさんの指導実践

指導対象:高校サッカー部
練習内容:3対2、ゴールつきの攻防
練習時間:20分
練習人数:10名(2グループ)+GK2名

【Aさんの選手へのコーチング内容】

◎得点をした選手には「ナイスシュート」、アシストをした選手には「ナイスパス」と声かけをした
◎攻撃側の選手のボールを奪ったDFの選手には「ナイスカット」「ナイスDF」と声かけをした
◎練習を一時中断し、選手全員を集めて、「攻撃側はパスミスが多いから、パスミスが起きないように気をつけてみて」「DF側はマークの受け渡しが遅いこともあるからマークの受け渡しに気をつけてみて」

以上の声かけを行い、トレーニングを終了させました。

では、Aさんの声かけのどこが「センスが無い」と言うのでしょうか?

これのどこが「センスが無い」というのか?

検証してみましょう。

一般的に、スポーツ指導者は、

“その経験が浅い人ほど、選手の「できた・できない」といった選手の成果に対するフィードバックしか送れず、選手の具体的な『ミスの予兆』の指摘ができない。逆に、熟練した指導者ほど、選手の具体的な『ミスの予兆』の指摘を多くできる”

と言われています。

ここで言う『ミスの予兆』とは、たとえば、子どもが跳び箱の運動を行う時にミスをする原因、

❶助走が少なかった
❷踏み切りのタイミングが悪かった
❸踏み切り板を踏む強さが足りなかった

といった、「ミスを引き起こす原因」のことを言います。
練習中にこの、『ミスの予兆』にできるだけたくさん気づき、矯正(もしくは修正)を行うことが、子どもの跳び箱の成功率を高める要因にもなります。

つまりは、指導者が『ミスの予兆』に気づけば気づいているほど、子どものミスは少なくなり、プレーの成功率が高くなるのです。

“これができるようになったら、あなたはもっと跳び箱が上手くできるようになるよ!!”

といった『ミスの予兆』の指摘事項の数が、熟練した指導者のほうが多いということです。

それでは。

Aさんの声かけは、どのくらい、『ミスの予兆』に気づいていたのでしょうか?

【Aさんの『ミスの予兆』の指摘内容】

練習を一時中断し、選手全員を集めて、

⓵「攻撃側はパスミスが多いから、パスミスが起きないように気をつけてみて」

⓶「DF側はマークの受け渡しが遅いこともあるからマークの受け渡しに気をつけてみて」

結果:上記の2点のみだった。

のでした。

確かに『ミスの予兆』ということでは数が少ないですし、また、指摘の内容もどこか漠然とした、具体性に欠けたものになっているようにも思います。

この、Aさんの「ミスの予兆の指摘が少なかった」ということは、スポーツ教育学研究の調査・研究でも実際にエビデンスとして報告をされていることもあります。

スポーツ教育学研究より

この画像の表は、小学生の跳び箱指導における「新人指導者」と「熟練指導者」の、一授業あたりのつまずきの予兆の気づきの量のちがいになります。

なんと!

一授業あたりのつまずきの予兆の気づきの量において、新人と熟練とでは、《倍以上も》差があったのです。

《倍以上!》です……

熟練指導者のほうが、

“これができるようになったら、あなたはもっと跳び箱が上手くできるようになるよ!!”

の指摘の数が新人よりも倍以上多いのです!

これは結構な差ですよね…

そしてこれが、新人と熟練の「センスの差」なのだと思います。

では、元の練習の話に戻って、Aさんはどんな『ミスの予兆』の指摘があれば、「センスのあるコーチ」とみなされたのでしょうか?

「センスのあるコーチのミスの予兆の指摘」

あなたがもしも同様のトレーニングを行った場合、選手の『ミスの予兆』をどのくらい指摘できるのか、考えてみてください。

言い出しっぺの私も考えてみることにします。

攻撃側:

◎選手によっては、集中力が無い
◎自分がボールを保持していない時の目線、体の向き、動き出しのタイミングなどの、身体の使い方が悪い
◎選手によっては、運動量が低いので、ボールを受けられるだけの走り出しを行っていない
◎選手によっては、ボール保持者の求めていることを理解できなくて、パスを受けることができない
◎ボール保持者の時に、他の2人の選手とのコミュニケーションが上手くとれないので3人での連携が上手く取れない

守備側:

◎ボール奪取への意欲が低い
◎選手によっては、1対1の奪い合いにおいて気が引けて敬遠してしまっている
◎マークの受け渡しの際に声かけを行わないため、連携が遅くなってしまっている
◎DFにおけるプレッシングの原則を理解していない
◎GKの選手も守備の一員であるのに、GKの選手との連携が取れていない

私がパッと考えたのは以上です。

ざっと考えただけで、攻撃側、守備側、それぞれにおいて5コずつ挙げられることができました。

新人コーチの方の5倍、『ミスの予兆』の指摘ができました。

他にも様々な『ミスの予兆』が考えられますが、指導者に知識や競技経験のある方ほど、この『ミスの予兆』の指摘事項は多く見つかることだと思います。
つまりは、「センスのあるコーチ」ほど、選手の『ミスの予兆』の指摘事項が多く見つかるということです。

これをお読みくださった方も、

「自分にはセンスがないからダメだ…」
「自分はサッカー未経験者だからダメだ…」
「サッカー経験が豊富でないからダメだ…」

などとお嘆きになる前に、

“これができるようになったら、あなたはもっと◎◎が上手くできるようになるよ!!”

の、『ミスの予兆』の指摘事項が見つけられるよう、その知識や経験を今から増やす努力をされてみてはいかがでしょうか。

補足として:さらに気をつけること

これをお読みくださった方に、さらに気をつけてほしいことが1点あります。

それは、

“熟練の指導者ほど、選手の『ミスの予兆』の指摘を一度にたくさんせずに、最優先すべき『ミスの予兆』の指摘だけをしている”

ということです。
この話にも、エビデンスがあります。

スポーツ教育学研究より

なんと!

小学生の子どもの跳び箱運動の指導において、新人の指導者と熟練の指導者とでは、『ミスの予兆』の対応の量が倍近くも違うのです。

つまりこれは、

新人の指導者:ミスの予兆の気づきは熟練の半分しか気づかないのに、ミスの予兆の対応は、熟練の倍近くも行ってしまっている

熟練の指導者:ミスの予兆の気づきは新人の倍以上も気づいているのに、ミスの予兆の対応は新人の半分の対応しかしていない

のです。

新人の指導者ほど、熟練の指導者よりも『ミスの予兆』に気づいていないのに、

“君のあそこはダメで、君のこれができなくて、君はそれもできなくて…”

などと『ダメ出し』が多くなってしまっているということなんです…

逆に、熟練の指導者ほど、新人の指導者よりも『ミスの予兆』に気づいているのに、

“今の君は◎◎さえがんばれば、プレーは今よりもきっとよくなるから!がんばれ!”

などと『ミスの予兆』の指摘がシンプルで最低限の内容になっているのです。
また、選手の『ミスの予兆』の気づきがたくさんあるのにも関わらず、

“今、真っ先に最優先で直したほうがいいところ”

を的確に捉えて、選手の気分ややる気を損ねずに、

“今の君は◎◎さえがんばれば、プレーは今よりもきっとよくなるから!がんばれ!”

などと伝えているのです。

あなたの周りにもいませんか?

「オマエはここができなくて、○○が足りなくて、△△ができないからダメなんだよ」

などと選手にダメ出しばかりしてしまって、選手の気持ちをダダ下がりさせてしまう指導者…

つまりは「センスが無い指導者」になってしまっている人。

これでは選手のやる気や自信を下げている上に、選手の上達の速度を遅くしてしまい、選手もなかなか上達ができずにいるようになってしまうのではないでしょうか?

指導者としてはこれを避けたいですし、

“今の君は◎◎さえがんばれば、プレーは今よりもきっとよくなるから!がんばれ!”

などと、最優先の指摘事項を最低限の量で伝えられるコーチになったほうが、選手のやる気や自信も損ねずに、選手が気分よく自分の上達(成長)に集中することができる「センスのあるコーチ」になれるのではないでしょうか。

おさらい:「センスのあるコーチ」になるために気をつけたほうがいいこと

繰り返し申し上げてしまいますが、大事なことなのでおさらいをしてより理解を深めましょう。

はい、それではおさらいです。

❶『ミスの予兆』をできるだけたくさん指摘できるように知識や経験を貯めていく

❷『ミスの予兆』がたくさん見つかったとしても、一度にたくさん伝えるのではなく、最優先の指摘事項を最低限の量にとどめる

❸『ミスの予兆』を指摘する際にも、選手のやる気や気持ちに配慮する

これに気をつけることです。

これに気をつけることができれば、あなたも新人のコーチから熟練のコーチに変身するための『センス』を手に入れられるようになるのではないでしょうか。

そしてあなたも、『センス』を手に入れたコーチになったほうが、あなた自身の自信ややる気も上がることになり、日々の指導がよりいっそう、楽しくなるのではないでしょうか。

この話の言い出しっぺの(課題提言者の)私としましても、この文章をお読みくださったあなたがそのような『センスのあるコーチ』になってくださると、すごく嬉しく思います。やっぱり世の中が『センスのあるコーチ』で溢れたほうが、日本の未来のサッカーは明るいですし、いいことだと思っておりますし、日本の未来のサッカーは必ず明るくなると信じております。

この記事をお読みになってくださったあなたのよりいっそうのご活躍、成長を祈願しております。

このたびはご清聴を誠にありがとうございました。またの機会がありましたら、是非よろしくお願いいたします。

以上

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