見出し画像

映画感想文 狼をさがして

1974年から75年にかけて連続企業爆破事件を起こした東アジア反日武装戦線のその後を描いたドキュメント映画である。監督は私と同じ歳の韓国人女性キム・ミレ。

画像1


東アジア反日武装戦線が爆弾闘争をやっていたとき、私は小学生だった。だから、彼らの起こした事件の記憶はない。
私が初めて「爆弾」を知ったのは中学生の時だ。何年生の時だったかは忘れたが、私の通っていた中学校に爆破予告があり、全校避難になるという事件があった。非常ベルが鳴り響き、「逃げろ」「早くしろ」と教師たちに追い立てられて学校から走って逃げたのを覚えている。遠くから振り返りと、学校の周りはパトカーや消防車でいっぱいだった。
結局、何も起きなかったが、当時は全国のあちこちでこんな事件が起きていたようだ。

東アジア反日武装戦線を知ったのは、大学に入ってからだと思う。松下竜一の『狼煙を見よ』を読んで居ても立っても居られなくなったのか、あるいは、支援連に関わっていた先輩に誘われたからか、その辺の経緯はよく覚えてないが、彼らの獄中闘争を支援する集会にも参加したことがある。
支援者の中心は、大道寺将司さんのお母さんだった。とっても穏やかな方で、「癒しの母」という感じだった。
支援者の半分はキリスト者、半分はアナキスト。全く思想性の異なる両者を繋いでいるのが、大道寺母をはじめとする家族たち。たしか、そんな構図だったと思う。
映画『狼をさがして』にも、荒井まり子さんのお母さんが登場する。その姿を見て、あの頃の記憶がよみがえった。

さて、映画『狼をさがして』は、荒井さん、浴田さんなど、東アジア反日武装戦線に結集した女性を中心に描いたものだった。桐生夏生の『夜の谷を行く』は連合赤軍に結集した女性戦士を中心にしたもので、「女から見た連合赤軍」という感じだったが、『狼をさがして』は「女から見た東アジア反日武装戦線」という感じで、これまで、そういう視線で彼ら、彼女らの戦いを追ったものはなかったので、実に新鮮だった。女性の目を通すことで、これまで男の私には見えなかった大道寺将司さんや斉藤和さんの一面が少し見えたような気がした。

考えてみると、東アジア反日武装戦線の男女比はほぼ半々。1970年代で、この女性の多さは特異だ。彼ら、彼女らの意識が、同時代の左翼の中で群を抜いて高かったことがこの一事からもうかがえる。
彼らの闘争マニュアル『腹腹時計』には、他の左翼とは一切関係を絶つと書いてあったが、女性問題もその理由の一つだったのかもしれない。DVやセクハラの蔓延、常態化した運動や組織と一緒にできることなどなかったのだろう。

『夜の谷を行く』や『狼をさがして』の好評を受け、これから、「女性の目から見た◯◯」は増えるだろう。
東アジア反日武装戦線は女性の視線に耐えられるものだったが、左翼の運動や組織にはそうでないものも多い。「女性の目から見た◯◯」が増えると、左翼の歴史は大きく書き替えられることになるだろう。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?