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ドイツの生活は日本より良いのか?

有休消化率100%で、日本人よりも労働時間が短いのに、
日本人よりも生産性の高いドイツ人。
仕事よりも家族や自分のための時間を大事にし、
夏には2~3週間のバカンスを楽しみ、
素晴らしいワークライフバランスを謳歌している。

そう言われると、日本人からするとドイツの生活はとても理想的に見え、「日本もドイツを見習うべき」という声も聞こえて来そうです。

しかし、日本生まれ日本育ちの私からすると、「まぁ、国が違ったら文化も違うし」程度の認識で来ると痛い目に遭うのがドイツ、だと思います。

本当、「日本人とドイツ人は似ている」なんて誰が言ったの?

日本とドイツの生活の違いは、結局私たち日本人とドイツ人の国民性や価値観の違いに根差しているので、表面的に真似は出来ません。
語弊を恐れずに言えば、日本人の美徳を棄てなければドイツ的な生活は送れないのです。

今回の記事はこんなテーマで書くので、「日本人は」「ドイツ人は」という大きな主語で書くことになりますが予めご了承ください。

私の印象からすると、ドイツ人は良くも悪くも素朴です。
例えば、余暇の楽しみ方も、
「川で泳ぐ」「野原に寝そべる」「散歩する」「バーベキュー」
など、殆ど文明の力を借りないで楽しむことができます。
多分、100年前の人の余暇もそう違わなかったんじゃないかな。

日本の、あんなにイベントやら遊園地やらと、とにかく人工的に余暇の機会を設けて、そこにお金を使って……というのとは大違いです。

飲食も素朴で保守的なイメージです。
清涼飲料水を例に挙げると、あらゆるメーカーが新商品を出すとは言え、「レモネード(レモン、とオレンジ)」と「コーラ」の既存の枠から外れることは殆どありません。

ドイツ料理は、美味しいのですが毎日は食べられない、重たく不健康な料理が多く、しかも外食は高いです。

一般家庭では、晩御飯はパンにディップを付けて食べる冷菜などで済ませることが多く、質素です。冷たい食べ物とビールという食文化の国で、一方ではフィットネスや健康に気を付ける人が多いのは何とも皮肉です。

そして、私が指摘するまでもないですが、サービス精神の無さ。
日本にいると当たり前だった「サービス」、中には「これってサービスだったんだ?」と思うこともありますが、ドイツに来るとそれがよく実感できます。

店員さんがお客さんを優先しないのは当たり前で、基本彼らはマイペースで仕事をします。物の扱いも雑ですし、デパートでも接客する気があるのか?というくらい無愛想な店員にもよく合います(だからこそ、最低限の接客をされると僕のその人に対する評価が爆上がりします)。

「人によって対応が違う」というのが、ドイツ生活で肝に銘じておくべき鉄則です。

アマゾンも郵便配達も時間通りに来ることはまずないばかりか、予定日より早く届くこともあります。そして不在届が投函されて近くの郵便局まで取りに行かないといけなくなることは日常茶飯事(だからこそ、受け取りロッカーサービスの導入は画期的でした。しかししょっちゅう別のロッカーに配達されます)。技師の方は人手不足で捕まらないばかりか、基本こちらの都合に合わせてくれません。

…と、滝のようにドイツをディスってきましたが、「ドイツ人の方が日本人より生産性が高い」は、私にとっては当たり前だと感じています。

何故なら、日本人目線からすると「やるべきこと」を彼らがやっていないからであり、社会もそれを認めている(求めていない)からです

すべきことが少なく、目指すべきノルマが低くて良いのなら、日本人だって明日にでもドイツ人の生産性を追い抜かすことはできるでしょう。

ただ、それは日本人が日本人であることを棄てる時だと私は思います。

日本人が働きすぎな理由の1つに、僕は「人に奉仕することは良いことだ」と日本人が幼い頃から教え込まれていることがあると思います。

相手に配慮し、相手の行動を先読みして動く、人様に迷惑をかけないようにする。

「滅私奉公」が決してネガティブな意味で使われないように、私たち日本人はどこかで「人の役に立てること」を喜びとして働いているところがあります。

ドイツ人にもその要素はゼロではないと思いますが、彼らの多くは「生活のため」「自分のため」に仕事をしていると思います。

「人のために働きたい」という人も、日本人が同胞に求めるような高いレベルの奉仕をしようと考えている人は少ないのではないでしょうか。

もしも、明日から、

レジ打ちの店員さんが椅子に座って2リットルのコーラを飲みながら、長蛇の列が出来ているにも関わらず、隣のレジの店員さんと雑談していたり、

ハエがたかるパンを、硬貨を触った手で直に触れながら売っていたり、

閉店間近の店に入ってきた客に明らかに嫌そうな顔をして、挙句には早く出て行けと客に言ったり、

住所が見つからなかったからと言って配達員が荷物を持って帰ってしまったり、

「担当者が休暇に入ったので全く引き継いでいません。何か用ですか?」と窓口で真顔で対応されたり、

夕方のラッシュ時にも関わらず、運転士が病気で欠員になったという理由で電車が間引かれたり、

こんなことが日本で起きるようになったら、ネットやメディア上で大炎上し、日本は瞬く間に火の海と化してしまいそうです。

そして、「これは日本人としてあるまじきこと」とモラルや日本人論を振りかざす人も出てくることでしょう。

ただ、これはドイツではごく普通なことなのです。
当事者たちはもちろん苛立ちはするでしょうが、最後は「まあ仕方ないよね」と済ませることが多いです。

ドイツが日本より生産性が高いのは、同じ土台に立った上でドイツの方が生産性が高いのではなく、日本で当然とされているサービスや生活様式の多くがドイツでは求められていないためです。

ドイツにいる人の多くは、他人に期待せず、良くも悪くも諦めています
そして、良いことがあれば、日本人以上に喜ぶのです。

電車が遅れを取り戻して車内で拍手喝采が起きることが日本でありますか?

日本とドイツを見ていると、「サービスの良さ」「ワークライフバランスの良さ」と言う両国の長所はトレードオフなんだなと感じます。

陰で見えない犠牲が出ているからこそ、良さが際立っているわけです。

質の高いサービスを提供するには、多くの人的・物的労力が割かれます。

決まった時間しか働かなくて済むのなら、それによる仕事の遅延や生活の不便は受け入れなければなりません。

日本人はサービスをするのも受けるのも好きでしょうし、
ドイツ人は仕事は最低限、そこから受ける不利益は気にしません。
日本人は余暇にお金をかけて美味しい物や楽しいことをしますが、
ドイツ人は質素に余暇を楽しめます。

結局のところ、どちらを重視するかの違いなのだと思います。
全てを満たす理想の地なんて、どこにもありません。

以上が、結論なのですが、最後に補足すると、
ドイツでもサービス残業をしている人は少なくありません。
確かに目に見えるところでは日本みたいな超過勤務をしている人は少ないかもしれませんが、夜22時を過ぎてもメールをやり取りしていたり、無償の残業を強いられる労働者はドイツにも存在しています。
なので、「ドイツ人は日本人より生産性が高く生活も充実している」というのは、あくまでも平均的なイメージということなのでしょう。

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