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日曜の夜、2時間だけ、私たちは姿を変える

黒いジャケットがはためく。ヒールがステップを踏む。歓声が上がる。篠原涼子の『恋しさと切なさと心強さと』が流れる。観客はいない。でもその空間は、ステージさながら輝いていた。


日曜の夜、月曜が始まるほんの少し前の、ほんのわずかな時間。主婦や会社員や学生や母親なんていう肩書きをかなぐり捨てて、私たちはただ音楽に身を委ねる。私たちの心は丸裸になっていた。

大変な毎日かもしれない。きっと身も心も疲れている。忙しすぎてうんざりしているだろう。すり減らす日々を送っている。他人に見せるための仮面を着けては変え、着けては変え、いつしかどの姿が本当の自分なのか、見分けがつかなくなった。

だから私たちには、たった2時間、ダンスを通して“私自身”に姿を変える時間が必要なんだ。

仮面を脱いで裸になると、私たちはプリズム体になる。踊りながら光を屈折させて、どんな自分にも変身できる。本来の自分を取り戻す人、憧れの女性になる人、現の世界とはまったく別人になる人、さまざまだ。

篠原涼子『恋しさと切なさと心強さと』は異様な盛り上がりを見せた。一体誰から始まったのか、振り付けのない部分もみんなで踊ったり、ダンスバトルが始まったり、ディスコ状態になったり、歓声が止まらなかった。

そんな日曜の夜の2時間が大変盛り上がるものだから、部長は言った。「映像作品作りましょう」と。

振り付けパートを決めて、衣装を着て、ヘアメイクをしてもらって、リハーサルをして、映像の撮影をする。

ダンスの経験がある人ならステージ上で踊ったことはあるだろう。だけど、プロダンサーやタレントでない限り、間近でカメラを向けられて映像作品を作る経験はほとんど無いと思う。

これこそが、CLUB THE SEAHOUSEの成せる技だ。

取るに足らない一般人でしかない私たちを、ダンスとヘアメイクと映像を通して主役に仕立ててくれる。誰かにとっての特別ではなく、自分にとっての特別な私になれる。

撮影の日、私たちは髪をなびかせるためのヘアメイクに、黒いジャケットにパンツスーツ姿でカメラの前に立った。その装いもそれぞれの個性が出ているから面白い。

よく見知ったメンバーによく知っている振り付けなのに、1人1人の表情にドキッとした。心臓がバクバクしていた理由は、緊張感だけじゃないと思う。

自信と色気あふれる表情で踊る女性は、こんなにも美しくて。

過ちは恐れずに進んで、戦うことを選んだ女性たち。やりかけの青春も経験もそのままにしてしまったけど、日曜の夜の2時間を積み重ねて、私たちはここまで来た。

篠原涼子の歌詞にピッタリハマる私たちが作り上げた作品。完成が楽しみだ。

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