働くとは① 〜○○はやめとけ〜

 30歳を過ぎて、マジックのタネあかしのように世の中のギミックが少しずつわかるようになってきた。自分は小さい頃から、テレビマンやミュージシャンや映画人にものすごく憧れを持ちあまりにも純粋に華やかな世界だと考えていた。逆に小さい頃から弁護士や公務員になりたいとか、地元を出る気がない人を地味だと思っていた。いま、どんな仕事も地味であり必要な仕事なんだということを昔より理解できるようになってきた。むしろ自分が憧れていた世界の方が生活に不必要なものとされやすい。

 自分が学生の頃は、いわゆるアーティスト的な人はなんらかのアティチュードを持って行っているものだと信じていた。お金よりも前にやりたいこと、信念を貫き通している人だと思っていた。いや、一部の人たちは本当にそういう人たちがいるかもしれない。ただ、大半の人は当たり前だが生活のためだ。自分はあまりにもピュアなので、本当に『これがロックの生き様だ!』みたいなのを本当にカッコいいと思っていた。しかし、現実はプロデューサーによりしっかり方向性を決められ、マーケティング戦略をした上で曲や服装を決めてブランディングし、宣伝を打つのである。バンドマンは表舞台に立って演じるという点では俳優と変わらない。昔、バラエティ番組の裏話で矢沢永吉本人が打ち合わせ時「それって、矢沢的にダメなんじゃないか。」みたいな発言をしたことを笑い話として紹介されていたが、今はその理由がよくわかる。”ロックスター矢沢永吉”像が崩れるのではないかというのを省略して言ったのだろう。

 もちろんそうやったからうまくいってるわけではない。そうやって人手をかけて練られた結果、ほんの一握りの人がスターダムに駆け上がる。そういう意味ではバンドマンも一種のベンチャー企業みたいなもんである。よくバンド名を決めるために、ファミレスや居酒屋で打ち合わせをする青春のワンシーンがあるが、前か後ろに株式会社をつければ、なんかカッコよさそうな名前もいかにもベンチャーっぽい会社になる。株式会社ミスターチルドレン、株式会社ずっと真夜中でいいのに——。俳優や芸人の卵みたいな人も、個人事業主みたいなものか。ある程度売れてくるとレーベルを作ったり、事務所から独立したりするのは大人の事情があるのか、と分かってくる。

 そんな憧れを持ってそんな世界で働くことを夢見ていたが、色々考えた挙句辞めた。その色々は話すと段々脱線するので別の機会にでも話そうと思う。

 ただ、夢を諦めても、とりあえず働かないといけないのだが、いざ現実に目を向けると、この現代社会にユートピアが存在しているか分からない。銀行、不動産、インフラ、公務員…etcお堅い職業を勧める人は多いが、だいたいそこで働く人に聞くとやめとけという。そのほか、儲かるIT?やめとけ。比較的人間関係のトラブルが少ないメーカーのルート営業?やめとけ。定時に帰れる事務職?やめとけ。ネットの意見を見るたびやめとけとしか言わない。もちろん、鵜呑みにする気はないが本当に働いたことのある業界や職種をみるとうなずける意見もあるので口コミもバカにならない。じゃあ本屋に行って、情報収集すると、自己啓発本や成功者の本ばかり並んでいてきつい。”やめとけ”という意見はもう散々聞いた。ただ、ネットでやたらおすすめしてるような情報は危険だ。本当に建設的な意見はないのだろうか。

 これは僕の予想では、多分そういう建設的な意見は存在しない。おそらく、業界研究した上、吟味してそこで働くことを決めたのならその時点でそれが最良の選択だったのだろう。というより、雇われの身で、これと言ったコネもなく、一芸に秀でているわけでもない人が持つ悩みはほとんど共通だ。住みたくもない勤務地で、やりたくもない職種に異動し、行きたくもない上司の食事に付き合わされ、時間を浪費するという行為は、華やかな業界だろうが地味な業界だろうが変わらない。ただ、それらの振り回され方や拘束時間の違い、あとは本人のストレス耐性で違うだけだ。

 その中で自分のスキル、ストレス耐性、得手不得手を自己研究という名で研究しミスマッチを防いでいく。が、果たしてそれで良いのだろうかと最近思う。

 この前、近くの商店街を散歩していると八百屋の店主と常連のおばちゃん?が座ってずっと話し込んでいた。お客さんもまばらである。そんな光景を見ていると、ひたすら思い悩んで自己研究とか言ってる自分が少し真面目過ぎる気もしてくる。もちろん、あの店主もドラマがあり相当な苦労を重ねてその位置にいるかもしれないので、勝手なことは言えないが。

 もっと、お金とか社会的にこうあるべきとか、そういうのを取り除いて本当に純粋な気持ちでやりたいことをこなしていくことが自分のキャリアにつながるのではないか。自分がこの現代社会において出世するタイプではないと分かったので、一つそういうことを自分で証明できることが労働との接し方だと思いたい。

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