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関東大震災時の朝鮮人大虐殺を記録した本と映画【 本と映画の紹介 】

「関東大震災」吉村昭


昨年、九月一日から、一月かけてじっくり読みました。

二年前に読んだ「証言集 関東大震災の直後 朝鮮人と日本人」の記憶がよみがえりながら、何が起こったのか、立体的に理解できました。(後述します)

天災と人災が引き起こした禍根。無実ながらに、風説を元に虐殺された同胞たちの恐怖と無念を思います。

悪意を持ってデマを撒き散らす輩と、情報源が不明のままにその情報を拡散するメディアの問題は、今も変わらないままですね。(ますます酷くなっているようにも感じます。)

国と行政の在り方、市井のひとたちが教訓とすべきこと。それが、今を支え、新しい未来を作る礎となるはず。過去を繰り返そうとする流れには、抗わなければなりません。


吉村昭の既読本は「熊嵐」「漂流」に次いで三作目ですが、どれも強烈なインパクトが残りました。冷静な視点と血の通った文章が、凄みを醸成しています。また、他の作品も探してみたいと思います。


「証言集 関東大震災の直後 朝鮮人と日本人」西崎雅夫、編(その他29)ちくま文庫

1923年、関東大震災による死者は約10万5385人。未曾有の大災害でした。

そこへ「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「放火した」などの、流言蜚語が起こり(内務省が積極的に流言の拡大を果たした)、武装した軍隊、そして民間人たちによる自警団が、数日間に渡り朝鮮人を虐殺しました。その数は、政府が事実の隠蔽を謀ったため、正確には不明のままですが、千~数千人規模だったと、編者は計算しています。しかも、「朝鮮人暴動」は事実無根のデマだったのです。

子どもの作文、当時の文化人たち(芥川龍之介、志賀直哉、黒澤明、木下順二......)、朝鮮人と市井の人びとの証言や公的資料に残された記録が、95年前の、凄惨な地獄絵図を鮮明によみがえらせています。

虫けらのように殺されていった祖先たちの無念を想いながら、歯をくいしばりながら読み進めました。

植民地下の、朝鮮人たちは、人間以下の扱いだったのか。国がないとは、こういうことなのか。

今、何が変わって、何が変わらぬままか、しっかりと検証して、二度と同じようなことが起こらないように、教訓を学ぶ必要があると思います。

過去から教訓を学べないのなら、もはや、人間ではないでしょう。


映画「金子文子と朴烈」


原題の「朴烈」に、「金子文子」を加えて正解ですね。

関東大震災のときの朝鮮人虐殺の場面は、本では数冊読んでいますが、映像化されると観るのが辛かったです。

植民地時代に、朝鮮人が朝鮮人であることの難しさと貫き通す強靭さ、それを支え闘い続けた日本人女性の凛とした美しさが、胸を打ちました。

大虐殺を隠蔽するために、意図的にデマを拡散し、朴烈を暴動の首謀者にでっち上げた大逆事件の真相。金子文子の自伝も読んでみたいですね。(完)

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