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伊藤計劃×円城塔「 屍者の帝国 」【 本の紹介 】

 いよいよ読書の秋ですね。みなさんが今読んでいる本は、どんな本でしょうか?

「 屍者の帝国 」伊藤計劃×円城塔

今夜、オススメするのは、「 屍者の帝国 」というSF小説です。簡単に内容を紹介すると、時は19世紀末(今から150年ほど昔)、フランケンシュタインという人がさらに100年前に創造した技術によって、一度死んだ人がよみがえらされ、労働や戦争などにかり出されていた時代の話です。

 イギリスでは、シャーロック・ホームズの助手をつとめることになる、ジョン・ワトソンという医学生がいたのですが、彼が「 死人を生き返らせる 」技術を学び、国家のスパイとして、とある任務をまかされるところから話が始まります。気づいた人もいるでしょうが、この作品の中には、ワトソンやフランケンシュタインといった人物を筆頭に、物語の世界の人物がたくさん登場します。それらの本を読んだあとだと楽しさも倍増するでしょう。

 さて、このように怖いようなドキドキするような話を、一体どんな人が書いたのでしょうか。この作品は伊藤計劃と、円城塔という二人のSF作家が書き上げました。伊藤計劃は5年前のデビュー作で日本SF大賞を受賞し、円城塔は同時期に芥川賞を受賞しています。しかし、伊藤氏は3年前に34歳という若さで病いに倒れ、この世を去ってしまいます。

 つまり彼が亡くなったあとに、この作品は完成されたのです。

 一体どうやって? そうです。円城塔が、例の「 禁断の技術 」を使って、伊藤計劃をよみがえらせ、作品を書き上げたのです。というと趣味の悪い冗談のように聞こえますが、彼自身、作品を出版させたあとのインタビューで、次のように話しています。

 「 伊藤計劃の名前で商売している 」と言われてもいいんですよ。死体を働かせる話なので「 そうだ 」と言える。こぢんまりとしてた話が大きくなって、しかも大きくしたのは伊藤計劃自身で。


 朝鮮のことわざに< 虎を死して皮を残し、人は死して名を残す >とあります。

 伊藤計劃の未完の作品が、親友である円城塔によって、遂に素晴らしい作品として日の目を見たのです。

 今、わたしたちも目を開きましょう。はたしてどのような冒険が私たちを待ち受けているのでしょうか。(完)

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