にんにん

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死なないためのことば集

きみの恋人の懐かしい個別性の中にしか 人類の温い深みがないように きみの学問と創造の特殊性の中にしか 世界の美しい真実は ありえないはずなのだ。 わたしは あなたの 避けがたいさまざまの汚濁が 宝石のまわりにむしろしっかりと残り どんなものにも犯されない透明な性質を こころない眼から 守りとおすことを願う。 あなたは愛される 愛されることから逃れられない たとえあなたがすべての人を憎むとしても たとえあなたが人生を憎むとしても あなたは降りしきる雨に 愛される 微風に揺れ

    • 愛に関する雑考察

      出典元であるプラトンの饗宴の中に、愛についてこのような指摘がある。本来人間は統一された一つの存在だったが、度重なる神への不遜により、それが男と女の二つに分断されてしまった。私たちの目的はその魂の片割れを探すことであり、それに恋という名前が付けられている、という記述。この書の中のテーマは恋(エロース)である。 ラカンの著書、エクリに関する記述。産まれたばかりのまだことばも知らない赤ん坊は自分と母親の区別がつかない。それはさながら「原始のスープ」の中にあるような状態である。赤ん

      • ノートについて補足

        自分のノートに登場する、私、君、僕、などの一人称は全て自分ではない。書いている人間の感情に関して述べる際は〈自分〉という一人称で統一しており、同様に、あなた、君、恋人などの呼称もまた誰のことも指さない。特定の客体や主体についてを書くことはない。自分はあくまでモチーフについてしかことばを紡ぐことができない。絶対的な別離を前提とした他者にしか恐ろしくて触れられないからである。情けない。

        • ことばについて

          小説は開かれた孤独だと思う。紙に印刷されたテクストにずっと救われてきた。温度や手触りがなく究極まで削り取られた鉄骨のようなことばにだけ向き合うことができた。それは私を裁かないから。生身の人間から発されることばは怖い。生身の人間が怖い。彼らが内に持つ秤が怖い。その点、テクストは私をけして傷つけない。誰にも宛てられていないことばというものはだから平等にやさしい。水面に石を投げるように放たれることばというのは、しかしながらそれが誰の心にどんな波紋をえがこうがそのことばの預かり知ると

        死なないためのことば集

          不在について

          不在について考えています。それは愛について考えることと等しい。 目の前の対象について想いを馳せること、「思い出す」以外の方法で人を想うことができない人を詩人とするのなら、エモいというカルチャーを主軸としたあらゆるインターネットネイティブ達は限りなく詩人に近い存在なのではないでしょうか。私たちは詩的感傷以外で人を好きになることができないという絶望的な事実に、みんながうっすら気づき始めたこの時代。 不在に勝る実在なんてないのではないかと思います。目の前の実体のあなたは真実過ぎ

          不在について

          反社会的詩学のすすめ

          詩について考えています。毎日。それと同じくらい、愛について考えています。生きている間じゅうずっと。 みなさんにとって詩は、詩人とはなんですか。ポエマー(笑)ですか。痛い厨二病ですか。あながち間違っていません。詩がどこまでもナルシスティックな営みであるということに関して全く異論はありません。詩は、限りなく個人的な試みです。作者以外の一切の出入りをその詩の世界に許しません。詩の中に存在するモチーフは、いかなる名詞であっても、例えば椅子やみかんや道路や黒髪、君やあなたや〈僕〉です

          反社会的詩学のすすめ