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【覚書】ディズニー・アニメーション『美女と野獣』(1991)の同時代史

90年代の「エイズ危機」

 ディズニー・アニメーション版『美女と野獣』はエイズ危機のど真ん中に公開された。故にハワード・アッシュマンによる「モブ・ソング」中の歌詞、「野獣を殺せ」を、当時、死に至る病であったエイズに関連付けて考える者もあった。野獣が人間に戻る場面についても、エイズで苦しんだ人が救われる様を表現しているというわけだ。アッシュマン自身が映画が完成する8か月前にエイズで死んだことも、そのような解釈(エイズに対する誤解・恐怖)を助長したのかもしれない。ことの真偽はさておき、そのような議論がなされたこと自体、この91年版が子供だけでなく大人にも広く受け入れられたという事実を示している——ポスターも大人向け(左)と子供向け(右)の両方が作られた。
 そもそも、おとぎ話が子供の読み物になったのは19世紀以降のことで、18世紀のヴィルヌーヴ夫人版『美女と野獣』も若者向けに書かれたにもかかわらず、実際にそれを読んでいたのは大人であった。子供だけでなく大人に訴えるという今日のディズニー・アニメーションのスタンス(文化的シフト、ジェンダー、フェミニズム、人種観への対応)は、存外、かの時代の出版物に潜在/存在していた要件で、ディズニーはそれを受け継いでいるのかもしれない(Burchard 49:要約)。

ガストンのナルシシズム

 キャラクターとしては、ガストンは数々の面で例外的で、制度を超えた人物だ。快活で男らしい若者であり、優れた狩人で、かつディズニー気質に反
する悪役でもある。彼は決然とベルを追跡し村娘たちを性的に魅了するが、彼の描写のうちに典型的なゲイ的ナルシシズムのサブテクストを見て取る批
評家もある。「彼は典型的キャンプ(気取り屋)だ」とロスは記述する。「彼が本当に興味を持っているのは男性の視線に対してだけなのであり、男
しかいないロッジの真ん中で活気づいて、自分の筋肉を賛美しながら、拍手喝采でショーをストップさせるほどの名演を見せる」。ゲイであることを公
言しているこの映画のアニメーター、アンドレアス・デジャは、ジムで見かける「得意げな西ハリウッドのマッチョのそっくりさん」としてガストンを
様式化したと言う(Pinsky 144-145)。

 2017年度(実写)版におけるガストンとル・フーの同性愛的描写はそこで突然なされたのではないということだ。

出典:Burchard, Wolf, Inspiring Walt Disney: The Animation of French Decorative Arts, The Metropolitan Museum of Art, New York, 2021. 
Pinsky, Mark I., The Gospel according to Disney: Faith, Trust, and Pixie Dust, Louisville, Kentucky: Westminster John Knox Press, 2004. 

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