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【映画評】フランソワ・トリュフォー監督『終電車』(Le dernier metro, 1980)

 監督のフランソワ・トリュフォーが少年時代を過ごした灯火管制下のパリを舞台とする時代劇である。モンマルトル劇場の新支配人にして看板女優マリオン(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、ユダヤ人の夫を舞台裏ならぬ舞台下に匿っている。そこへグラン・ギニョル座出身のベルナール(ジェラール・ドパルデュー)が主演男優として雇われて、何やら策動を開始する。
 ヌーヴェル・ヴァーグの旗手たちはクロード・オータン=ララの映画を「良質の伝統」の典型として嫌っていたが、彼の『パリ横断』(1956)だけは認めていた。これはやはりナチ統制下のパリを舞台とする作品で、主人公の二人組が闇夜に「闇」豚肉を運ぶ。『終電車』で言及される「闇」生ハムは、だから引用とは言えないまでも、作家トリュフォーの「良質の伝統」への接近を想起させるのである。 
 印象的なのはラストの病院での場面だ。自然光を取り込んだロケーション撮影によるシーンだったはずが、カットが重ねられる内にいつのまにか舞台上のライト・アップによる撮影に移行している。ヌーヴェル・ヴァーグ的屋外撮影から映画作りを始めた作家がセット撮影へ回帰したことを、このシーンは象徴するように思われる。『映画に愛をこめて アメリカの夜』(1973)と比較しつつ見たい。

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