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【映画評】マイケル・ウィナー監督『狼よさらば』(Death Wish, 1974)

 マカロニ・ウェスタンのスター、チャールズ・ブロンソンが扮しているので全くそう見えないのだが、実はこれも建築家が主人公の映画である。それまで、何かを無から作り出す神のごとき存在、即ち建築家(アーキテクト)であったはずの男が、若人の命を奪う(無に帰す)ことのみに奔走する悪魔と化すというところに本作品の皮肉はあるわけだ。
 作品としては評価できるが倫理的には評価しづらい。というのも、一人自警団たるブロンソンによる連続殺人——それもほとんど「黒人」ばかりが殺される――が的確なカット割りによって魅力的に提示されるので、我々はそれを見ることを楽しんでよいのかどうか、始終戸惑わされることになるのである。作中、自己言及がなされることからも分かる通り、作り手たちはそのこと――「白人」による自警団主義の美化——に自覚的ではあるのだが。
 ブロンソンは銃を手に取るや否や自らの内なる暴力衝動の奴隷となり、妻と娘を襲った3人組を探し出し仇を討つという本来の目的をまったく忘れてしまう。いや、妻と娘の件は西部への旅行同様、ただのきっかけに過ぎず、そもそも初めから敵討ちなど彼の頭の中にはなかったのかもしれない。ただひたすら強盗たちの命を、それも有無を言わさず奪い続ける。それが狩猟本能の正しい発揮の仕方だと言わんばかりに。そのとき、ニューヨークは未開の西部と化す。
 

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