【物語】 貴婦人の予祝 《第5章》 貴婦人の直感 藍 Indigo
第5章 貴婦人の直感 藍 Indigo
《第6チャクラ》
色 藍
象徴 直感と真実
主題 第三の目
目標 目には見えないものを見る
その日の夕暮れ、私はマダムと向かい合ってシャンパンを飲んでいた。
マダムはピンクとオレンジの可憐な花模様の刺繍をあしらった、繊細な仕立てのオーガンジーのドレスを着ていた。いつになくフェミニンなデザインで、また違うマダムの一面を垣間見た気がした。仕事(彼女が言うところの処置)を終えたマダムは、花に身を寄せる蝶のように儚げに見えた。彼女は確か第二次大戦の末期に生まれたと言っていた。だとすれば年齢は五十を超えているはずだ。でも彼女の外見と存在は、女性の年齢に対する一般的なイメージを見事に覆していた。肌にはしみひとつなく、どこを見てもシルクのように艶やかで、内側から仄かな光を発しているとさえ思えた。不思議なことに、彼女は日を追うごとに美しくなっていた。まるで彼女の全細胞のすべては、日々その透明度を増す特殊な性質を持っている、とでもいうように。
「今日はありがとう」
マダムはシャンパングラスを軽く持ちあげた。私は少し驚いた。彼女にお礼を言われるなんて、思ってもいなかったからだ。
「いえ」
あの不思議な時間に身を浸しきった自分のことを思い出し、私は急に恥ずかしくなった。
「恥じらうことは何もないわ」
私の表情に気づいたマダムは、いつもの淀みない口調でそう言った。
「肉体を纏って生まれてきた以上、私たちが性の歓びを求めるのは当たり前のことよ。性愛だけではない。五感のすべてを歓ばせ、快感に浸らせて初めて、私たちは心からの幸せを実感できる。そのことを知らないまま我慢を重ねることは、生きる喜びを自ら捨てるようなもの。セクシャリティの追及も、自分のすべてを満たしてこそ、初めて健全で有機的になる。あの女性はもちろん、日々乱交を続け、時には行き過ぎたサディズムに走る彼女の夫もまた、問題を抱えていた。何かに執拗になるということは、自分が何を求めているのかを内観しないために起こる悲劇。でも彼女は今日、その牢獄から解き放たれた。そしてあなたは疑いも偏見も一切持たず、ただ、純粋な気持ちでその一助になってくれた」
シャンパンをそっと口に含んだマダムを、私は少し緊張しながら見ていた。私にはどうしても聞きたいことがあった。それを尋ねたら、マダムは気分を害するだろうか?
「お尋ねしたいことがあるのですが、その質問がマダムにとって失礼になるかどうか、私には分かりません」
私は思い切って切り出してみた。マダムにしては珍しく、興味深そうな表情を浮かべている。
「この世で私に失礼な態度をとる者はいない。そんな危険は誰も冒さないの。でもあなたは、そのリスクを覚悟の上で聞いているのね?」
「はい」
私は正直に答えた。
「いいでしょう。話してごらんなさい」
私は深く息を吸い込んだ。チャンスは一度きりだ。
「一つ目は、マダムが私に対しておっしゃった『素質』ということです。それは具体的にどんな意味なのかが知りたい。二つ目は、最後にマダムが口にした言葉の意味です。『エン・イー・ケー・マイー・エアー』。あの言葉には不思議な響きがありました。語感というか、何かの楽器の澄んだ高音のような。あの女性はその言葉を聞いた直後、快感の頂点から更に違う次元へと引き上げられた気がしました。立ち上がってローブを羽織った彼女は、まったく別の女性になっていた。あの言葉はどういう意味なのでしょうか」
私はできるだけ正直で飾り気のない言葉を選んだ。それでも私の問いかけは、彼女の秘められた領域に土足で踏み込んでしまう可能性を孕(はら)んでいた。このままマダムは無言で席を立つのだろうか。二度と私に姿を見せないという選択とともに。
「どれも、もっともな疑問だわ。あの一連の処置を経験したからこそ抱けた。ということは、この二つの質問は、この世で唯一あなただけが私に問いかけられる。セシルですら、実際にあなたのような立場では私の処置を手伝ったことはないのだから」
マダムは何かを考えるように首を傾げた。怒っているようには見えなかった。どう説明しようかと思考を巡らしているのだ。
しばらく間をとった後で、マダムはシャンパングラスを静かに置いた。
「私は生まれてくるにあたり、異なる対極のものを授かった。一つは尽きることのない富。もう一つは個人としての人間を、誰一人として愛せない性(さが)。体も、そして心も」
マダムの目が透明さを帯びてきた。彼女は、おそらく誰にも明かしたことのない彼女自身の内面について、正直に話してくれようとしているのだ。
「私の富が尽きることがないのは、そこに宿るエネルギーの大きな流れを本能的に理解しているからです。それは両親や祖先の叡智を、私が遺伝子レベルで受け継いでいるから。私の血にも細胞にも、貧しさという呪いを許さない強い意志が刻まれている。その呪いを寄せつけない結界を、私は常に意識的に張り巡らせているの。でも残念ながら、この世の大多数の人はそうではないわね。お金とは努力の成果、あるいは才能の賜物、真面目に労働することで得られる報酬。そういう概念と遺伝子が根深く絡み合っている。あなたもそうでしょう?」
マダムの言葉に、私は反論ができなかった。まさにその通りだったからだ。特に裕福な家柄に生まれたわけではない私は、真面目に働くことが労働の報酬だと思っている。自分がかけた時間、あるいは努力の成果としての報酬。それ以外の選択肢について考えたことも、教えられたこともなかった。
「でも真実はそうではないわ。私たちが自分を無限の富や豊かさに値すると信じるかどうか。何度かあなたに伝えたように、すべては意識の問題なのです。つまり私の意識が変わらない限り、私の富が費えることはない。一方で……」
マダムはバルコニーの向こうに広がる夕空に目を向けた。そして、深く息を吐き出した。マダムがため息をつくのを見るのは、それが初めてだった。
「私は恋人や伴侶の対象としては、誰も愛することができない。その理由は、父が拷問を受けて殺されてしまったから。その痛ましい事実が、結局は母の死にも繋がってしまった。母の死後、私はあらゆる手段を用いて父の拷問の詳細を調べたの。勤勉で実直な彼らは、驚くべきことにその詳細を丁寧に資料に残していた。それは人間が成し得る最も残酷な拷問の一つだった。まず手始めに手足の爪を一本ずつ剥ぎ取る。時間をかけて。それから、体中の穴という穴に鋭利な金属を差し込んでいく。鼻、耳、口、肛門。その後、数名で輪姦する。でもそれだけでは終わらない。その後に睾丸やペニスを激しく打ちつける。どんなに殴っても蹴っても香水の原案の在り処を吐かない父に対し、彼らはやってみたかったことの全てを試した。
薄いナイフで乳首を削る。氷水の中に何度も顔を突っ込む。体を極端に屈折させて、骨を少しずつ折っていく。それでも父は無言だった。叫び声だけが、涙声だけが、その密室に響いていた。何日も、何日も。
父を密告した男は、母の個人的なことまでは知らなかった。父は自分がユダヤ人であることのリスクを十分に知っていたから、母とは密やかに会っていたの。だから、父には一抹の望みがあった。自分が口を割らなければ、恋人とまだ見ぬ我が子だけは守り通せるという、ただ一つの望み。父には分かっていたのよ。彼らに母の居場所を言えば、彼らは母が妊娠していることなど気にも留めず、どこまでも弄んだ上で暴力的に殺すということが」
マダムはそこまで言うと、再びグラスを手にした。指先が少し震えているような気がした。
「その記録を私は一言一句、声に出して読んだ。父が実際に味わった苦しみを、頭の中でどこまでもリアルに再現した。そのサディスティック極まりない行為を、自分の脳裏に刻み込んだ。更に、この世で行われたあらゆる拷問について徹底的に調べ、学んだ。
そしてある時悟ったの。私には、その全部をやり通す残酷さがあるということを。必要に迫られたら、あるいは当時のナチスのような洗脳を受けたら、私にできない拷問などない。父と母をあんな形で失った私には、決して消えることのない復讐を望む炎が燃え盛っている。私の心の奥深くには、悪魔以上の狂気が宿っている。そのことを認めることは辛かった。でもそれは、この世の誰にでもあり得ることなのかもしれない、とも思った」
マダムは視線を私に戻した。そして私の目を鋭く捕え、離さなかった。
「拷問を実行した人間は、どこにでもいる普通の人間であることが多い。ただ、自分よりも力のある者に命じられるまま、拷問という『仕事』を与えられただけ。でもだからと言って、そんなに徹底的に、熱意を持って実行するのはなぜなのかしら? 私には『それが楽しいから』という答えしか、思いつかなかった。どこまで苦しめられるか。どこまでその余興を長く楽しめるか。どこまで残虐にできるか。
人間の闇とはそのように深い。私たちの心の闇に比べたら、悪魔など本当に取るに足らない存在だと思ったわ。だって悪魔は、『いいか。まずはその男を一週間拷問にかけ、その次に目の前で妻を強姦するのだ。複数の男で五時間にわたって。妻を輪姦したら次は娘だ。レイプの時には音楽を忘れるな』そんな具体的な指示を出すのかしら? 私にはどうしてもそうは思えなかった。なぜなら、私自身がどこまでも残酷な拷問の方法を考えることができたから。父を苦しめた男たちへの復讐を、私は何通りでも、何十通りでも思いつくことができた。しかも、耳元で悪魔に囁いてもらうまでもなく。
人間は『悪魔』はおろか、時には『神』という存在を都合のいいように解釈してまで、自分の闇を正当化する。でも私たちの所業のすべては、私たち自身の想像力、そして欲求からくるものでしかない。私たちは『役割』、あるいは『正義』という大義名分の下に、果てしなく残酷になることができる。少なくとも、やろうと思えば私にはそれができる」
突然、パン、と大きな音が響いた。私は反射的にバルコニーの向こうに目をやった。美しい夕闇に七色の火花が散った。花火が上がったのだ。遠くで華やかな歓声が聞こえる。
「だから、私は恋人を持ったことがない。誰を見ても、拷問に手を下す可能性があると思えてしまう。特に男性に対してはその傾向が強まるの。一度でもその片鱗を垣間見たら、今度は私がその相手に手を下すかもしれない。私にはそれを可能にする情熱も資金もあるから。そしてその相手を、父を極限まで追い詰めた『彼ら』に見立てて徹底的に破壊してしまうかもしれない。そんな気持ちを抱いたまま、誰かと深い関係を結ぶことは不可能だわ」
マダムが腕を組んだまま、幾人もの男たちに向かって冷徹に命令を下している姿が、ふと脳裏をよぎった。目の前で跪く、両手を後ろで縛られた裸の男たち。打ち消そうと思っても浮かんでくる映像。胸が苦しい。どうして私はその光景を、こんなにも簡単に想像できるのだろう?
「だから私は、自分で自分の体の歓びを満たす方法を知らなければならなかった。拷問について調べた以上の情熱で、私は性に関する古今東西のあらゆる秘技を学んだ。その過程で、古代エジプトのイシス神殿で仕えていた、ある女性たちのことを知ったの。
彼女たちは、体内に存在する目には見えない二匹の蛇を開放し、爆発的な性エネルギーを覚醒する術を身につけていた。彼女たちの究極の使命は、社会における男性性と女性性のバランスを取ることだった。当時の完全なピラミッド型の社会構造の中で、権威欲に走りがちな男性権力者の肉体に至上の快楽を与え、巨大で邪悪なエネルギーを反転させる。それがエゴイスティックなものであればあるほど、反転したエネルギーは拡大した愛に変わると信じられていた。
それを成し得るために、彼女たちは様々な性の技巧に修練しなければならなかった。苦痛を強いる体位の数々。相手の体を自在に刺激する繊細な指使い。吐息のつき方。声の周波数を巧みに変化させ、相手の心を捕える術。滑らかで男性の体に吸いつくような皮膚を纏うために、食事や水の摂り方にまで厳格なルールがあった。細胞自体を変容させるほどの、微細なレベルまで突きつめた身体の再構築。その他にも本当にいろいろなことを」
あの小さな部屋でマダムが見せた妖艶さを、私は思い出した。マダムの指が女性の唇にふれるだけで、彼女は究極の官能に身を震わせていた。それも、その「修練」と関わりがあるのだろうか。
「更に女性たちは、国の権力者が深い畏敬の念を抱くような、神の化身のごとき神聖さを体現することも求められた。彼女たちは、決して性の道具などにされてはならなかったから。そうなれば、その女性個人の痛みに留まらず社会全体の恐怖となってしまう。エゴや残忍さが増大された権力者を生むことに繋がってしまうの。
神殿で秘技を学ぶ女たちは、イシス神に仕える女官の中でも最高峰の女性によって、直々に選ばれたという。社会の安寧のために神に奉仕する選択をした処女の女性のみ、古代の神の声を顕現させる力を宿した透明な心を持つ者のみが、その修行に参加できた」
シャンパングラスを片手で軽く揺らしながら、マダムは少しの間、外を見ていた。
私には、遥か遠い昔のエジプトの神殿が、すぐそこに見えるようだった。真っ白な布地に身を包んだ、何人もの若い女性たち。一度の恋さえ経験しないまま、その困難な道を自ら選択し、神殿の奥深い部屋で威厳ある女性神官の前に立つ。多くの巫女たちを育ててきた彼女には、その資質を持つ者を一目で見抜く眼力がある。選ばれた女性だけに授けられる秘儀の数々。それは、私の拙(つたな)い知識の枠を超えた世界だった。
マダムが語っていることは本当のことなのだろうか。だとすれば、彼女はどうやってその知識を得たのだろう。
「その秘技を学び実践することで、私は自分の奥底に宿る狂気のエネルギーを、どうにか反転させるコツのようなものを掴むことができた。相手のない一人での行為は、徹底的に自分を愛する意志が必要とされた。憎しみ以上の無限の自己愛を体感しなければならないの。
それは、私にとっては魂の選択だった。復讐に身を投じるという願望を叶えるか、それともその負の感情を自分から根こそぎ抜き去るか。私は後者を選んだ。人が自慰行為と呼ぶようなことを、たとえ一生続けることになったとしても。父の激しい苦しみと引き換えに生み出されたこの体、この手を使って、父の命を奪った行為を繰り返すわけにはいかない。私という存在は、私のみのものではない。両親の命に匹敵するほど、それは尊い。その価値に相応しい生を生きることが、自分の宿命だという結論に達した。
私は古(いにしえ)のイシスの秘技を日々自分に施し続けた。そしてある時、あのエネルギーを授かった」
エネルギー?
「あなたも感じたでしょう。私の手を通して伝わった電流のような微細な振動を。そのエネルギーが体のいくつかの部分に触れることで、この上ない素晴らしい官能と癒しがもたらされる。私自身が最も必要とするエネルギーを、私は自分で生み出せるようになったの。それは恩寵だった。そしてその恩寵を、あなたも受け取る素質がある」
「私が?」
彼女の話に聞き入っていた私は、思わずそう呟いた。マダムの端正な顔が、すっと引き締まった。
「ええ。それはあなたも私と同じだから。自分を何度も殺そうと試みるほど、何かを必死に憎んでいる。あなたは、その憎しみや残忍さを他者にぶつける勇気がない。嫌われるのが恐いからか、それとも攻撃されることを恐れているからか。あるいはもしかしたら、そういう性に生まれついただけなのかもしれない。いずれにせよ、あなたはそのはけ口として徹底的に自分を責め、嫌悪する。でもそれと同時に、そんな世界に生きるために生まれてきたのではないはずだと、心の奥底では叫んでいる。私とあなたの唯一の違いは、私がそのことに自覚的であるのに対して、あなたはまったく無自覚だということだけです」
私には何も言えなかった。確かに私はずっと自分が嫌いだった。あるいは私を取り巻く環境も、何もかも。なぜ、生まれてきてしまったんだろう。何度そう思ったか分からない。それでも心の深い部分では、今の自分ではない、もっと自由で愛に満ちた自分として生きてみたいと思っていた。その願いを、どうしても捨て去ることができなかったのだ。
ふと、マダムの表情がやわらいだ。彼女を包む空気の層が、微かに、でも確かに揺らめいた。
「いづみ。あの部屋で処置を行う前に、私はあなたの手に触れて、私が授かったエネルギーを流してみた。あなたはあの微弱なエネルギーを感じることができた。それはあなたの心が、自分の深い傷や醜い闇以上に光を渇望していることを表している。
たとえほんの僅かでも光を求める気持ちが上回るのであれば、そこには再生の望みがある。そのたった一人、この広い世界において、一粒の砂よりも小さいはずのあなたの再生は、より大きな視座で見れば、実はとても貴重な価値があるの。ある人はそのことをバタフライエフェクトと呼ぶ。バタフライ効果。たった一匹の蝶の羽ばたきが何かに与えた影響が、時間の経過とともに、いつかは地球の裏側で竜巻を引き起こすほどになる。
あなたは個人であって、ただの個人ではない。私も、そしてこの世の誰も、誰も一匹の蝶でありながら、ただの小さな蝶ではない」
マダムの言葉が胸に沁み込んでいくような気がした。心に、全身に、全細胞に。昨日のバラ水のように。
「それでも、自分の闇を凌ぐ本当の光を生み出せるのは、結局は自分の意志のみ。他人の光を追うだけでは完全には満たされない。それはいつしか、嫉妬や憎しみに転じる可能性があるから。『自分を愛する』、という意識だけが、あなたが求めていることの真の術になる。全身全霊で自分を愛すること。無条件に受け入れること。それができて初めて、他者もこの世界も心から愛せる。あなたは実はそれを知っているから、何かを求めてここまで来た。そしてルーブルのあの小さな絵に転写した私の呼びかけに反応した。だから、私はあなたに賭けてみた」
「何を、賭けたのです?」
マダムは透き通った声で、ゆっくりとその言葉を口にした。
「下なるものは上なるもののごとく、上なるものは下なるもののごとし」
不思議な響きだった。どこかで聞いたことがあるような。ずいぶんと昔、どこかで……。
「すべての願いを叶え、望む現実を創造するための真実。『エメラルドタブレット』という幻の板に刻まれた錬金術の奥義。かつてはごく僅かな者たちにだけ受け継がれていたという。
歴史上の多くの人々が、卑金属を金に変えるという錬金術に夢中になってきたことは、あなたも知っているでしょう。でも、その奥義を示した『エメラルドタブレット』の言葉が実はもっと偉大な真実を伝えていることを、ほとんどの人は知らない。錬金術に必要とされる『賢者の石』は、本当は形ある物質を指しているのではない。それは私たちの『意識』を指しているの。今、この瞬間の意識をどう用いるか。それ次第で私たちは鉛すら金に変えられる。あなたの心に抱いた意識が、あなたの放つ波動に転写され、その波動があなたの現実に反映される。天国も地獄も、作り出すのは神ではなく私たち自身。私たちの意識。この真実を理解し、いつかそれを切実に必要とする人々に伝えることができる人を、私たち(・・・)は探していた」
「私たち?」
マダムは浅く微笑んだ。
「エン・イー・ケー・マイー・エアー。私たちはあなたを心から愛しています。ある美しい星の言葉です」
気がつくと、ギヨームが扉のそばに立っていた。
「マダム。今宵はどうされますか?」
マダムは席を立った。「出席するわ。二時間後に車を」
「かしこまりました」
既に夕方を過ぎていたが、それでもこれから念入りに支度をしてどこかに出かける予定のようだ。パリの夏の夜は長い。何かの小説で書かれていたセリフを、私は思い出した。
「限られた顧客のためだけの、あるメゾンのオートクチュールのディナーショーがあるの。あまり行くことはないのだけれど、今夜はあなたのためにも出かけることにするわ。あなたは自分で思っている以上に素晴らしい価値がある。それを今夜、体感するといいわ。支度はすべてセシルに任せて」
いつの間にかセシルも部屋の隅で静かに私たちを見守っていた。マダムが言葉にしなくても、彼女たちにはこの館でのすべての「頃合い」が分かるようだ。セシルはそっと歩み寄ると、エレガントに私の手を取った。
「参りましょう。衣装室でお支度をさせて頂きます」
セシルが「衣装室」と何気なく呼んだその部屋は、ロココ調のインテリアで統一された広大な一室だった。この部屋一つでも、どこかのハイブランドの店舗にできそうだ。壁の二面は深いクローゼットになっていて、見るからに高級だと分かるいくつものドレスが、優美にかけられていた。半円型の室内の五つの窓からは、アイリス色に染まった夜空が見えた。あちらこちらに姿見や椅子が置かれていて、どの位置からでも自由に自分の姿を確認することができる。
「マダムは今夜、あなたのために特別なKIMONOをご用意しています」
「KIMONO?」
私はセシルに言われるまま、服を脱いだ。セシルはまるで魔法のように私の髪を艶やかな銀色にカラーし、ゆるやかにウエーブをつけると、サイドから後ろにかけて青いバラの生花をアシンメトリーにさしていった。幻想的なロングヘアに合わせた、アイスブルーが基調の手の込んだアイメイク。深い赤のルージュ。
私はシルク地の上質のローブの上から美しい白銀の振袖を纏った。ロングドレスのように広がりを帯びる袖には、どこまでも繊細な刺繍が施されている。セシルが言ったように、それは本当に特別な着物だった。最後にセシルは私に、見事なビージングレースで仕立てたシースルーのガウンを羽織らせた。そして、私をひと際大きな鏡の前に連れていくと、誇らしげに囁いた。
「お美しいです。とても」
目の前の光景が信じられなかった。それは既に「私」ではなかった。唯一無二の天の羽衣に身を包む、たおやかで神秘的な、私以外の「誰(・)か(・)」。纏うもので、人はこんなにも変わるものなのだろうか。価値を認められ、それに見合うすべてを与えられ、大切に傅(かしず)かれる。その道を経て、初めて生み出された一人の美女。
もしかして、私は女性における「美」というものを、完全に間違って理解していたのかもしれない。「美しい人」とは、存在するのではなく、仕立てられるものなのではないだろうか。尊厳と付加価値を前提に、贅の限りと人の手を惜しみなく尽くすことによって。
マダムは既にリムジンの中で私を待っていた。青い蘭を思わせるイブニングドレス姿のマダムは、少し前までの彼女とは、また違った一面を見せていた。薄暗い車内で、ほっそりとした首にかけられた見事なサファイアが輝いている。耳元で揺れるイヤリングも、ネックレスと同じペアシェイプのデザインだった。紺碧の石の周りを縁取る無数のダイヤが、微かに青みを帯びている。ブルーダイヤなのかもしれない。簡潔に言えば、マダムは『雲の上の女性』という一つのフォルムを余すところなく体現していた。その彼女が私を一目見て微笑んだ。
「見事だわ。本当に美しい」
いつもの「合格」という無言のメッセージとは、明らかに表情が違う。私は何だか妙に緊張したまま、慣れない所作で車に乗り込んだ。
「自分が美しいことを認めなさい。肉体も心も。あなたがそれを認めることが何よりも重要なの。他の誰でもない、あなたがあなたを美しいと認めることから、すべてが始まる」
どこかの美術館のような豪華で趣のある会場では、すでに夕食会が始まっていた。名家の出や富豪と思われる人々が、いくつものテーブルで優雅に会話をしている。
しかし私たちが足を踏み入れた途端、会場は水を打ったように静まり返った。誰もが驚愕と憧れの眼差しでマダムを見ている。マダムをエスコートしているタキシード姿の男性の首筋に、いつの間にか微かな汗が滲んでいた。極度に緊張しているのだ。私もまた、大いなる注目を全身に浴びていた。「誰だい?」というようなフランス語が飛び交っている。
豪奢なシャンデリアの光に照らされたマダムは、比類なき存在感を放っていた。大きなサファイアの連なりが放つ輝きは、彼女を一国の女王のように際立たせていた。目の錯覚なのだろうか。彼女の周りを青いオーラが取り巻いている気がした。自然と会場の人々が席を立った。マダムは一度だけ会場を見渡し、優雅な微笑を浮かべた。どこからともなく拍手が湧き起こった。私は無言でゆっくりと頭を下げた。それ以外の挨拶の仕方を、思い浮かべることができなかった。
その夜、テーブルとテーブルの間をゆっくりと通り過ぎていく、極上のドレスに身を包んだモデルたちに目を奪われながら、私はマダム・ロゼの連れとして王侯貴族のような扱いを受けた。限られた人々のためだけの特別なクチュールショーが終わる頃には、マダムの存在に幾分慣れた顧客たちが、こぞってテーブルまで挨拶に訪れた。
最後に今日のショーを手掛けたメゾンのデザイナーが、マダムの前に立った。マダムはわざわざ立ち上がると、老舗の名門ブランドに抜擢された若手の女性デザイナーを、温かく、そして心を込めて抱擁した。会場に深いため息が漏れた。目の前で、マダム・ロゼの称賛を一心に受けている人物がいる。ほんの数カ月前まで、無名の彼女を抜擢したメゾンを揶揄していたという人々が、今、嫉妬と羨望の入り混じった目で彼女を見ていた。
マダムは彼女に、「友人のいづみです」と私を紹介した。アジア系の出身と思えるそのデザイナーは、涙ぐみながら私の手を握った。そして英語で、
「私のデザインしたKIMONOをこんなに素晴らしく着て頂いて、本当にありがとう。心から感謝しています」
と言った。彼女と同じような肌の色や外見を持つ私は、自分でも気づかないうちに、その後の彼女のキャリアにおける揺るぎない成功のエッセンスになっていた。マダムはそれも意図していたのだろうか? 限られたメゾンだけが参加できるという、格式高いパリのオートクチュール界。選ばれたとは言え、アジア出身で無名の、しかもまだ若い女性デザイナーの肩身の狭さは、私にも想像できた。マダムはその審美眼で、謙虚で小柄なこの女性の才能をいち早く見抜いたのかもしれない。そして後ろ盾のほとんどない彼女のために、一夜限りの最も効果的な演出をデザインして、最大限の保護を与えたのだろう。
固唾を呑んで自分の一挙一動を見つめるゲストたちに向かって、マダムは胸に手をあて、軽く視線を落とした。引き上げる時間のようだ。
その瞬間、それまで私たちに最も近い席で静かに座っていた老齢の男性が、おもむろに席を立った。少し長めの白髪を丁寧に整え、上質の光沢を放つタキシードを身に着けたその男性は、マダムに歩み寄ると静かに両手を広げた。マダムは感慨深そうに首を振ると、男性の抱擁に身を任せた。やがてゆっくりと腕を解いた男性に、マダムは私を紹介した。男性は私の手を取り、そっと口をつけた。
「メルシー。マドモワゼル・いづみ」
私は驚いた。私を見る彼の表情には、明らかに深い敬意が滲み出ていた。目にはうっすらと涙まで浮かんでいるようだ。
帰りのリムジンでも、メルシ―、という男性の声が耳元で響いていた。彼は何に対してあんなにも感謝をしていたのだろう?
「彼から何を感じたの?」
マダムには私の心が読めるのだろうか。あるいは、すべての人の心が。
「私はただ、直感を鍛えてきただけです。上質の環境に身を置き、優れた良書を読んで智慧をつけ、五感を研ぎ澄ますよう訓練した。そして内観に贅沢に時間を使ってきた」
今まで聞いてきたマダムの言葉の中でも、それは私の心を深いレベルで捉えていた。彼女のように生きることができたらどんなにいいだろう。でも、今の私にできることは、正直になることくらいだった。私がどう思ったのかを彼女は尋ねているのだ。
「なぜか私に深く感謝しているように感じました。マダムに対してだけではなく、私個人に対しても。他の人々は、マダムのそばにいる不思議なアジアの女性に対して、ただ、興味を抱いているだけだった。でもあの方は違いました。だとすれば、今朝の出来事との繋がりしか思い当たることがありません。あの儀式に深い関係がある方、ということでしょうか?」
私の返答に、マダムは少し感心しているようだった。
「あなたの直感も、精度を上げてきているのね。彼は今夜のメゾンのオーナーで、私とは古くから親交がある人物なの。その彼が、数年前に私を訪ねてきた。とても個人的な事情で。彼は愚かな夫に狂ってしまった最愛の一人娘のことを案じていた。見ていて気の毒なほどに」
「その方が、今朝のあの女性……」
「そう」
マダムの声には珍しく疲れが滲んでいた。
「この世に起きる出来事の多くは、それに対峙している本人の意識の反映。私は彼にそう伝えた。彼女自身が自分を救いたいと心から望まなければ、何をやっても無駄なのだと。彼女は一人娘で、両親はこれ以上ないという程、娘を大切に育てていた。それにも関わらず、彼は、『今は何をやっても無駄だ』という私の言葉を受け入れた。なぜかは分からない。娘が自殺を図った後で、彼は初めて娘に懇願された。自分を救いたい、でもどうすればいいか分からない。どうすればいいのか教えてほしい、と。彼は、お前自身の力でマダム・ロゼを訪ねてみなさい、とだけ伝えた。そして彼女は私に辿り着いた」
「あの方は、今日の儀式の内容を具体的に知っていたのでしょうか」
「私が何をしたか、という点では、彼は何も知りません。彼女にも他言無用、と伝えています。ですが、今日の午後に彼から電話がありました。何があったかは分からない。でも娘は別人のようだ。呪いが解かれた王女のように神々しい輝きに満ちている。あなたがして下さったことは、おそらく私の理解を遥かに超えた偉大なことなのだろう、と」
「マダムはあの処置を、これまでに他の女性にも施したことがあるのですか?」
「彼女で5人目です」
マダムは言葉を慎重に選んでいるようだった。
「私の元に辿り着くのは、決して容易なことではないの。私は社交というものをほとんどしないし、今夜のように稀に外に出ることがあっても、そこには明らかな価値がなければならない。あの女性の父親は、あらゆる面で大きな力を持っている。だから、その気になれば娘の夫を徹底的に潰すこともできた。でも、彼は私の言葉を真摯に受け入れ、娘が身も心も滅ぼしていく数年を、ただひたすら注意深く観察し続けた。日々、深く祈りながら。彼は娘の悲惨な現実に対処するよりも、その魂を永遠に救うことを選んだの。
彼の祈りは届き、彼女は暗闇の底で目覚め、再び自分の足で立ち上がった。時にそういう瞬間に巡り合うことがある。人間の最も崇高な光を垣間見る瞬間に。直感がそれを私に教えてくれる、この時を逃すな、と。処置を施すことで、私は彼女たちだけでなく、絶え間なく芽生える自分の狂気の浄化も行うことができるのです」
マダムは静かに目を閉じた。すべては終わった、というように。
「今夜の会には、あの女性の夫も出席していたのですね」
思わず言葉が出ていた。マダムの疲れの原因は、あの処置の後の疲労によるものだけではなかったのだ。彼女の横顔がそれを物語っていた。マダムは自分自身の意識も浄化するために、あえて今夜のパーティーに出席することを選んだのだ。
旧友の最愛の娘を破壊の寸前まで追い詰めた男。その男に対して芽生え始めていた「狂気」を摘み取り、そのすべてを「浄化」するために。
「そうね。いたかもしれないわ。でも、どうでもいいことなの。きっと遠からずそうなるでしょう。あの親子にとっても」
マダムから醸し出されるやわらかな空気が、その「狂気」が既に見事に消え失せたことを告げていた。きっと困難な挑戦だったに違いない。だから彼女は、いつも以上に自分に負荷をかけなければならなかった。あの女性とその父親。今夜のデザイナー。そして、私。彼女を取り巻く事象に対し、多彩で美しい表現で対峙することで、今回もどうにか切り抜けることができた。今回も、どうにか。その声にならない魂の囁きが無言の車内を深く満たしていく。
もしかしたら、あのデザイナーを抜擢するようメゾンのオーナーに働きかけたのも、マダム自身だったのかもしれない。彼女はあらゆる瞬間に美と愛を発見し、創造しようと直感を働かせている。
一瞬たりとも休むことなく。自分の心を、決して邪悪な感情に引き渡すことのないように。
静かなロールス・ロイスの車内で、マダムの胸元のサファイアが、時折美しく輝いては夜の闇に紛れた。夜空に輝くシリウスのように気高い青。マダムの望む、まだ見ぬ奇跡のバラの色。
でも私にとっては、彼女の存在そのものの方が遥かに眩しかった。深い藍色に染まった美しい夜のパリで、その光はひと際気高い輝きを放っていた。
~第6チャクラ・サードアイ~
・チャクラ名……ブラウチャクラ (第三の目・サードアイ)
・サンスクリット語……アージュニャー(知覚する・知る)
・色……藍色(インディゴ・ブルー)
・関連する体の部位……目・脳・松果体・下垂体等(自律神経節、感覚器官)
第6チャクラの象徴は「直感」・「真実」・「知恵」です。
人間には「視覚」「聴覚」「嗅覚」「触覚」「味覚」の五つの感覚があります。それぞれ大切な感覚ですが、その五感で直接感じ、認知できる範囲を超えた世界を見ることができると言われているのが、この第6チャクラです。
見えない世界を察する第6チャクラは、「第三の目」(サードアイ)とも呼ばれ、私たちの誰にでも備わっています。このチャクラは、眉間の中心辺りに位置するエネルギー場で、脳の松果体にも通じていると言われています。松果体からはメラトニンというホルモンが分泌されますが、メラトニンは、私たちの生体リズムを調整し睡眠を促すなど、重要な働きをしてくれます。また、老化や癌、しわ、しみなどの原因になる「活性酸素」から体を守る抗酸化作用にも関係しています。
第6チャクラ(サードアイ)は、現実的な感覚と違い、開眼していないと機能しないと言われています。サードアイが覚醒すると、五感だけでは見たり感じたりすることのできない、「物事の本質」が見えるようになると言われています。また、集中力がつき、無心に何かに夢中になることができるようになるため、クリエイティブな才能も開花します。
私たちが受けてきた日本の教育は、知識や思考力の育成に重点を置く一方で、感性や直感力などを軽視しがちな傾向にあります。しかし、あまりにも知識や論理性だけを重視すると、時に考え方が狭まり完璧主義的な傾向に陥ってしまいます。感情的な部分は無視され、目に見える事実と論理的な思考だけに囚われてしまう。それでは、まだ開花していない自分の可能性や才能を見過ごしてしまうことになります。
ただ、チャクラは体の上部にいくに従って、超意識や高次の意識と繋がるエネルギー場になるため、無理にこの第6チャクラだけを開こうとするのは、リスクを伴います。なぜなら、現実の社会でしっかりと根を下ろさないまま見えない世界だけを見ようとすると、逆に生き辛くなってしまうからです。
ですから、あなたの現実をより良くしていくためにも、しっかりと現実社会でグラウンディングをしながら、七つのチャクラをバランスよく整えるという視点を大切にしてほしいと思います。
そのことを踏まえた上で、あなたの第6チャクラのバランスをとる方法をご紹介しましょう。
まず、眉間の間に人差し指を置き、チャクラの場所を意識します。そして、目を閉じてチャクラによい「氣」を送ることをイメージしながら、ゆっくりと何度か深呼吸します。普段の心配事や心を煩わせる出来事を忘れるために、深い呼吸に集中します。何も思い浮かばなくなった状態が、あなたの「ニュートラル」な意識の状態です。最初はこのようにして、大切な植物に水をあげるような気持ちで、深い愛をもってあなたのサードアイの目覚めを促してください。無理やり開眼しようとするのではなく、日々の生活の中で、そこに「第三の目」があるという意識を持つことから始めます。
第6チャクラの存在が身近に感じられるようになったら、次のステップを試してみましょう。第6チャクラの目覚めをより促すために、自然の力を利用します。
第6チャクラを象徴する色は藍色、もしくは深い青色なので、これらの色のパワーストーンなどを身近に置くこともお勧めです。アメジスト、ラピスラズリ、タンザナイト、ソーダライトなどの石は、第6チャクラと共鳴すると言われています。
また、ジュニパーやローズマリーなどのアロマも、このチャクラを整える手助けをしてくれます。
ジュニパーはお酒のジンの香料として有名ですが、古くから浄化の力があるとされ、チベットやギリシャなど様々な場所で使われてきました。人が最初に利用した植物の一つとも言われ、眠っている間に勇気と守りを与えてくれると考えられてきたハーブです。ローズマリーは記憶力や集中力を高めてくれるハーブと言われ、ローマ時代から医療や宗教で活用されてきました。脳の記憶を司る海馬に働きかけ、記憶力や集中力を高めてくれる効果をもたらします。
目を閉じてこれらの香りをゆっくりと吸いながら、眉間の間を意識して静かな時間を過ごします(妊娠中の方や疾患のある方は、使用に際しては医師に相談して下さい)。普段忙しく働いている視覚や聴覚を休ませ、第6チャクラの存在にフォーカスします。静寂に慣れてきたら、自分の心が心地よくなるような想像をしてみましょう。例えば、旅行に行きたい場所の景色を思い浮かべる、会いたい人の笑顔を思い浮かべる、など。
こうして、第6チャクラの存在を日常的に意識できるようになったら、次はゆったりとした時間をとって、より未来にアプローチした想像をしてみます。アロマや心地よい音楽などで環境を整え、自分をリラックスさせながら、将来の夢や自分が望むことについてイメージしてみます。
ここで大切なことは、夢を叶える方法を考えるのではなく、自然と浮かんでくるビジョンに集中することです。
それはパンを焼いている自分かもしれないし、誰かに何かを教えている自分かもしれません。ビーチで寛いでいる自分、大勢の前でスピーチをしている自分。もしかしたら、今の自分とは全く関係のないビジョンかもしれません。でも実はそのことこそ、あなたが潜在的に願っていることや、幼い頃にやりたかったのにそれが叶わなかったまま、心残りになっているといった可能性があるのです。
第6チャクラを整えると、自分との対話が深まります。ビジョンが浮かんできたら、できるだけ早く小さなアクションを起こしてみましょう。よく言われるのは、三日以内に行動すると効果的だということです。インターネットで検索してみる、旅行のパンフレットを手に入れる、自分がスピーチしたいことについて原稿を書いてみる、など。その小さな行動から、すべての現実化が始まります。
チャクラを整えることにお金は必要ありませんが、丁寧に意識を向ける時間は必要かもしれません。日々の忙しさの中では難しいことかもしれませんが、それぞれのチャクラや体、心を大切に思い、整えることで、「あなた」という器がよりあなたらしさを出し始め、ありのままのあなたで、理想とする現実への働きかけを始めていくことができるのです。「引き寄せの法則」も、ポジティブな方向に働くことが多くなります。また、体調の面でも情緒の面でも、安定した健やかな状態を維持できるようになります。
私も瞑想を通してチャクラを整えるように意識し始めてから、感情がより穏やかになったと思います。いろんな物事にも、軽やかに取り組めるようになりました。その結果、自分を取り巻く現実も良いものへと変わり始めました。幼少期から思春期にかけて味わったトラウマや心の傷、人生でのたくさんの失敗や恥……。そうした負の記憶を手放す大きな助けにもなりました。
私は完璧とは程遠い人間で、これまでお話ししてきたように課題もとても多かった。ですがそれも含めて、今では自分のすべてを、そのままの姿で受け入れられるようになりました。
マダムにしても処置を受けた女性にしても、また彼女の父親にしても、秘められた事情を知らなければ、私にとっては手の届かない世界に住んでいる「雲の上の人」でしかなかった。でも、マダムのそばにいたことで、この世に完璧な人はいないのだと知りました。
マダムは一度、私を彼女と同じステージに立たせてくれた上で、その真実を体感させてくれたのです。頭で理解するだけではなく、心の深いところで私たち「人間」の本当の姿を理解できるように。
私たちは個人であって、ただの小さな個人ではない。互いに共鳴し影響を与え合う大きな存在です。誰もが自分の内面と深く向き合って初めて、自分と他者を理解できる。他人との比較で自分を理解するのではなく、もっと本質に根差した真実の自分を理解することで、その可能性や才能にも気づくことができるのです。
自分への理解。他者への理解。人生への洞察力。濁りのないクリアな未来のビジョン。そして直感力。あなたのサードアイの目覚めはこうした能力の開花を促し、その力を高める助けとなってくれるでしょう。
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