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【エッセイ】夏の樹

次に子を授かることがあれば名を夏樹としよう、とほとんど決定事項のように思い描いている。
男の子だったら夏生まれでなくとも夏樹。青々と繁る葉をたくわえて晴天の下でどっしりと枝を広げる大樹のように、この世で生を堂々と過ごしてほしい。女の子だっていけるんじゃない。でもでも「樹」だと男の子過ぎるかな?

由来は?
朝吹亮二の『opus』00 から。

「夏の樹/朝の果実のための/その枝のわかれわかれひとつひとつに沿ってここの視線を贈る/うすい爪で皮をむき/くだものを砂糖で煮る/空白/書物を叩く音、埃がたって/光に揺れる」
(『opus』朝吹亮二,1987年,思潮社)

「ひとつの名を抹消することから始まる」詩集は何度読んでも新しい発見があり雑に言えばコスパが良い。若いときの小樽新潟間の船旅でお伴に選んだのはこの詩集だった。opus 00から99までの概要をノートに書き出しそこにどんなトリックがあるのか、伏線は?この言葉の意図は?探るのが23歳の私の快楽だった。朝吹亮二は感覚的に言葉選びをしていてそこには意図した伏線はないのかもしれないけれど。
ちなみに末っ子の名前は詩集『まばゆいばかりの』から着想を得て名付けたのだった。愛する詩を口ずさむように愛する子の名を呼べる幸せ。何て名前かは内緒。

「ママ、もう赤ちゃんはいらないんじゃない」
宿題をやり終わってホットミルクをすする娘が上目遣いにこちらを見ている。
赤ちゃんがいる生活を2回も味わった娘は、ママが女性ホルモンに翻弄される姿を夫よりも近いところで見てきている。圧倒的弱者の赤ん坊がママの隣を独占する時間の思いがけない長さも充分に知っている。「基本的に上の子優先で」なんて核家族にとって無茶な話で、授乳が必要なうちはどうしたって赤ん坊にかまいがちになる。二人でマイクラをプレイできる心の余裕ができたのだってここ数ヵ月になってようやくだ。
うーんでもなあ、女の子なら「はな」ちゃんなんてどうかなあ、と本棚の前で別の詩集に指をかけて違う想像の枝を広げ出した私に、「もうママったらきいてるの」と呆れた目をする娘。
子育ての尊さを教えてくれたのはあなたなんだよ。子どもなんてなんぼいてもいいものですからね。
とは言え確かにこれからもう一度とつきとおかの妊娠と新生児育児をやり抜く自信はない。同じ詩集を何度だって新しい気持ちでいとおしむように、今は3人子どもの育児を何度だって楽しむしかない。

とつきとおかの妊娠中のママさん、名付けにお悩みでしたら、夏樹、おすすめです。

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