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『メカニカル・マン』第1話

あらすじ
 
 有能で魅力的なアンドロイド(通称レプリ)たちが人々に愛され、社会に浸透している時代。
 だがそんな時代に反するように、しがない探偵である本城は大のレプリ嫌いだった。どんなに人間と酷似した美しいレプリであろうと、おぞましい機械人形に見えてしまう(不気味の谷現象)特異な視覚能力の持ち主だったからだ。
 ひさしぶりの依頼である少女失踪事件の調査中に、たまたま反レプリ同盟と敵対したせいで、〝レプリ愛護派探偵〟と世間から誤解され、膨大な数のレプリ関連の依頼が寄せられるようになる。
 不本意ながらも背に腹は代えられず本城はそれらを請け負うが、やがて世界最大手のレプリ製造企業TR社の巨大な陰謀を知ることとなる──。

コンセプト
                          
本作は、〝もしこの世界に、2次元キャラが実体化したような容姿・内面とも魅力的なアンドロイドが溢れていたら、それは人類にとって悪夢のようなユートピア社会になるだろう〟というコンセプトの作品である。

人物表(第1話)
 
本城一馬(32)元刑事の私立探偵。昔堅気のアナログ人間。特異な視覚
能力のせいで、大のレプリ嫌い。
丸山陸斗(32)レプリ関連企業の経営者。
丸山彩葉(31)陸斗の妻。
丸山楓(8)陸斗と彩葉の娘。
田中太郎(37)反レプリ同盟のカリスマリーダー。
峰岸(25)反レプリ同盟のメンバー


本文

 レプリ嫌い

〇駅前の繁華街(夕)
現代とほとんど変わらない街並み。 

○マンション南徳山・外観(夕)
薄暗い裏通りの一画に立っているマンション。
                    
○同・本城の部屋・ベランダ(夕)
10階建ての7Fの部屋。男物の下着が干しっぱなしになっている。
                    
○同・本城の部屋・リビングダイニング(夕)
いかにも男の一人暮らしらしいそっけない部屋。
本城一馬(32)が、Tシャツトレパン姿でだらしなくソファーで眠っている。無精ヒゲが伸びている。テーブルには安酒に安い柿ピー。
本城、寝返りでソファーから落ちそうになってやっと目覚める。
本城「うぁ~」
ダルそうに小さくうめきながら立ち上がる。
本城「頭がクラクラする。二日酔いか? ちがう、また寝すぎたんだ」
壁の針時計に目をやると、5時すぎを差している。閉じたカーテンの隙間から差し込んでくる光は薄暗い。
本城「朝か?夕方か? どうせ何の予定もないがな」
冷蔵庫を開け、ペットボトルに直接口をつけて安い麦茶をゴクゴクと飲む。
本城「うまいな、寝起きで飲むお茶は。下手したらまた、これが今日一日で一番充実した時間になりかねん」
本城「メールチェックだ」
AI「わかりました」
若く知的な雰囲気の女性のAIの音声がこたえ、壁際にマルチスクリーンのメール画面が投影される。
AI「新着メールは34件です」
本城「仕事の依頼は何件だ?」
AI「0件です」
本城、またかとガックリとした表情。
AI「34件中、9件が広告メール。残り25件がフィッシング詐欺メールです」
本城「もういい」
AI「スリープします」
マルチスクリーンは消える。
本城「何か食うか」
                    
○コンビニ・全景(夕)
店構えは現代のコンビニと変わらない。  
                  
○同・店内(夕)
本城、Tシャツトレパン姿のまま買い物をしている。          
〈本格博多とんこつ〉のカップラーメンを手にとるが、
本城「400円か・・」
と値段を目にしてあきらめて棚に戻し、代わりに一番安いシンプルなカップラーメンを手にする。
本城「くっ、次こそは〈本格博多とんこつ〉を・・!」
本城М「仕事の依頼が乏しいせいで貯金も底を尽きかけてるからな」
本城は、他の客が並んでいないほうのカウンターに商品をおく。
カップラーメンと培養肉のレトルトハンバーグ、それにミカンを一個。
ハコフグのような顔の女の店員(28)が無言で応対する。不愛想なうえ、ダラダラと手際も悪い。
本城М「(苛ついて)さっさとしろ!」
となりのカウンターに目をむけると、年頃こそ同じくらいだが、清楚な美女店員が接客している。
美女店員「ありがとうございました」
手際よく、笑顔でこなしていく。こちらとは大違いである。当然のごとく、客はみんなあっちに並んでいる。
本城、その美女店員の顔を改めて見つめる。
本城の目には、本物の人間に中途半端に似せた、おぞましい作り物の人形のように映る。いわゆる不気味の谷現象だ。
本城は不快そうに顔を背ける。
                       
○歩道(夕)
コンビニの袋を手にし、本城はサンダルでプラプラと道を歩いている。
携帯ゲームをしながら歩いている陰気な男子小学生や挙動不審の若者とすれちがう。どちらも本物の人間である。
横断歩道を渡って、利発そうな幼児と中年の紳士が歩いてくる。こちらは二人とも、不気味の谷のおぞましい顔。レプリだ。
本城は嫌悪の顔。
本城М「やっかいな特技だぜ。普通の人間なら絶対に見わけがつかない酷似タイプのレプリも一目でわかっちまう」
老人「あんたとちがっておれのチンポはビンビンなんだよ!」
大声で下ネタをしゃべってバカ笑いしている老人集団とすれちがう。本物の人間である。
本城М「それにしても最近の人間のだらしなさときたら・・」
暗澹たるため息をつく。洗ってなさそうな髪をボリボリと掻きながら。
                  
○マンション南徳山・本城の部屋・リビングダイニング(夕)
本城、ソファーに腰かけてさっき買ってきたものをダラダラと食べながら、マルチスクリーンに流れている夕方のTVバラエティー番組を見ている。
    *
女性芸人「今週の『あなたの街の素敵なレプリさん』コーナー!」
街角に立っている女性芸人がはしゃぎながら紹介すると、ハンサムな好青年のレプリが登場する。(テレビに映っているレプリは不気味の谷現象は起きない)
ハンサムレプリ「どうも」
女性芸人「(メロメロで)カッコイイ! ステキ! 今週も大当たりやわ~!」
    *
本城「(うんざりと)べつのチャンネルだ」
    *
──ニュース番組。
アナウンサー「世界最大手のレプリ製造企業TR社の今年度の業績は過去最高利益となり、これで10年連続の──」
    * 
本城「べつのチャンネル」
    *
──テレビショッピング。
タレント「え? 家庭用レプリの充電器がこのお値段なんですか?」
バイヤー「しかも今なら同じものをもう一つ!」
    *
本城「(嘆かわしそうに)どいつもこいつも機械人形なんかに」

本城、野生動物のドキュメンタリーチャンネルをボーッと眺めている。
AI「新着メールです」
草原でマントヒヒが威嚇の鳴き声を上げている場面に、AIの音声が割り込んでくる。
本城「仕事以外のメールはいちいち報告しなくていい」
AI「依頼のメールです。それも緊急とのことです」

〇同・正面入り口・前(夜)
タクシーが停車する。
                    
○同・本城の部屋・事務所(夜)
リビングダイニング以外にもう一つだけある部屋を、事務所兼応接室として使用している。
客用ソファには、丸山陸斗(32)丸山彩葉(31)の丸山夫妻が寄り添うように腰かけている。お互い両手を握り合い、悲愴な面持ち。二人とも身なりは良い。 
本城「どうも、粗茶ですが」
無精ヒゲを剃った本城は、ガラでもない愛想笑いを浮かべて二人にお茶とお茶菓子を出すと、センターテーブルをはさんで対面のソファーに腰をおろす。  
本城「規則ですので、お二人の身分証明書を確認したいんですが」
陸斗「これを」
陸斗が社員証を差し出す。
本城はそれを確認しながら、タブレットPCで企業のサイトを検索する。トップページには、ビジネス笑顔の丸山夫妻の写真が掲載されている。
陸斗「レプリの部品を製造しているTR社の関連企業です。夫婦で経営しています」
本城М「身元に怪しいところはなさそうだ。大金持ちというほどではないが、わりと裕福な身分だな」
本城М「レプリ関連の会社ってのは気に入らんが、このさい目をつぶろう。
報酬をふっかけられるぞ」
本城「ちなみに、どうしてウチを選んでくれたんですか? 探偵事務所は他にもいっぱい
あるのに」
陸斗「(気まずそうに)有名な事務所はどこも予約がいっぱいで。すぐに対応してくれる
ところが都内ではここしか・・・」
本城「(苦笑い)そ、そうですか。ウチは依頼者を待たせない迅速さがもっとうで」
陸斗「それに、元警察官だとお聞きしまして」
本城「ほう・・では依頼の内容はどういうものですか?」
陸斗「(悲痛に)誘拐された娘をさがしてほしいんです!」
本城「誘拐・・!」
ピリッとした緊張感のある顔になる。
本城「娘さんの写真はありますか?」
彩葉「はい。いなくなったときと同じ服装のものです」
本城、差し出された写真をうけとって確認する。
ワンピース姿の可愛らしい少女が、自分の部屋らしき場所で幸せそうに写っている。
本城М「これ一枚で、何不自由なく育てられてるのがわかるな」
陸斗「名前は楓です。今年で8歳になります」
本城「楓さんがいなくなったときの状況は?」
彩葉「近所の公園で遊んでいたんですが、ちょっと目を離した隙にいなくなってしまって。三日前のことです」
本城「警察へ届け出は?」
陸斗「その日のうちに捜索願いを出しました。でも何も進展がなくて・・・」
彩葉「(悲痛に)あの子が何かあったらあたしは・・・!」
陸斗「娘を捜してください! 引き受けてもらえますか?」
本城「もちろんです。全力で捜索にあたりましょう」
本城М「失踪した少女の捜索か。こいつはひさびさにでかいヤマだ・・!」
                 
○公園
市民の憩いの場になっている中規模の都市公園。
本城はベンチに腰かけて、公園の様子を注意深く観察している。目の前には緑の芝生が広がっている。
本城「その日、夫人はここに腰かけ、愛娘が遊んでいるのを見守っていた──」
 * 
──本城のイメージ。
楓が小型のドッグロイド(犬型のレプリ)と芝生で無邪気に遊び、それを微笑ましく見守っている彩葉。
そこへ突然、白いシェパードが駆け寄ってきて、ドッグロイドをくわえて雑木林に入っていく。
楓「あ、だめだよ!」
あわてて追いかけて雑木林の中に消えていく。
彩葉「楓ちゃん!」
驚いて、すぐに彩葉もそのあとを追って雑木林に入る。
ドッグロイドは機能停止して地面に転がっている。
だが周りを見回してみても静かに木々が広がっているだけで、楓の姿はどこにもない。
 *
本城「娘の姿は忽然と消えてしまった。白いシェパードとともに・・・」
本城も雑木林の中にいて、周囲を見回している。  
本城「何らかの事故が起こるような環境じゃない。やはり誘拐の線か」
雑木林を出ると、職員の制服を着た青年タイプの旧式レプリが公園の掃き掃除をしているのが目に入る。
本城「(横柄に)おい、そこの」
旧式レプリは仕事の手を止め、従順に駆け寄ってくる。
旧式レプリ「はい。なんでしょう?」
一目で人工物であることがわかる角ばったデザインの顔。
本城「この公園でどのくらい稼働してる?」
旧式レプリ「3年と4カ月になります」
本城「その間に白いシェパードを見たことあるか?」
旧式レプリ「はい。一度だけですが」
本城М「ホワイトシェパードは日本では数が少ない。手がかりになるかもしれん」
本城「日付は?」
旧式レプリ「今月の21日です」
本城「娘が行方不明になった二日前だ。犯人が下見に来たのかもしれん。飼い主の姿は?」
旧式レプリ「見ていません。この公園は犬のノーリード散歩を許可していますので、注意
をはらいませんでした」
本城「そのときの映像記録があるだろう。警察には提出したか?」
旧式レプリ「いえ、特になにも要請されていません」
本城「警察も怠慢だな。おれにその犬の映像データをよこせ」
映像データを受け取るために、スマホを取り出す。
旧式レプリ「私に記録されているデータの開示や譲渡は、所有者である市の許可がなくては──」
本城、探偵の免許証を提示し、
本城「探偵の免許証だ。個人情報保護の対象とならない犬のデータなら許可はいらないはずだ」  
旧式レプリ「わかりました。ご要望のデータを譲渡します」
                    
○マンション南徳山・本城の部屋・リビングダイニング
本城はソファーに腰かけ、目の前のマルチスクリーンを見つめている。
    *
再生されているのは、公園をうろついている白いシェパードの動画。ほんの数秒のものだ。公園にいた旧式レプリの記憶データである。
    *
本城「この犬に類似した画像を検索してくれ。一致率は90パーセント以上。すべてのSN
Sを対象にしろ」
AI「わかりました」
AI「──13件ヒットしました。すべて同じIDでインスタメントに投稿された画像です。
高確率で、すべて同一個体と思われます」
    *
画面に、白いシェパードが写っている画像が13枚表示される。
    *
AI「このうち7件は、飼い主と思われる男性といっしょに写っているものです。投稿したのも、飼い主の男性自身だと思われます」
本城「飼い主の顔をいちばん確認しやすいものをピックアップしてくれ」
    *
白いシェパードと飼い主の男性である峰岸(25)が、部屋の中で写っている画像が拡大される。
    *
本城「どこにでもいる、暗めの青年といった感じだな。こいつが、飼い慣らした自分の犬を使って楓ちゃんを誘拐したのか?」
本城「この男の特定できる個人情報は?」
AI「キャプションによると、この部屋は写真の男性の自宅になります。窓の外の景色を画像解析すれば、高確率で住所を割り出すことができます」
    *
画像の端の方に窓があり、住宅地らしき外の景色が写っている。
    *
本城「うかつな奴だ。やってくれ」
AI「わかりました」
本城「どうやら事件解決は早そうだな」
                    
○アパート・外観
平凡な住宅地に建っている、寂れた外観の2階建てのアパート。

〇同・前の道路
本城、目の前のアパートを観察している。
本城「このアパートの203号室か」
                    
○同・峰岸の部屋・玄関ドア前
本城、インターフォンを押すが返事はない。
本城「いないな」
ポケットから万能鍵を取り出し、あっという間にドアを開ける。
本城「安アパートはセキュリティがユルくて助かる」
                    
○同・根岸の部屋・中
本城が警戒しながら忍び込んでくる。
小さなキッチンと風呂・トイレがあり、そこを抜けると八畳ほどの部屋がある。
本城、窓の方に目をやる。
インスタメントの写真に写っていた景色とそっくりである。
本城「窓の外の景色は画像通りだ」
部屋には、餌皿に首輪に大きなトイレトレイもある。
本城「犬を飼っている様子もある。ここで間違いないな」
風呂やトイレや収納や冷蔵庫の中を手早く調べていく。
本城「腐敗臭はしないな・・」
怪しいものは何も見つからない。
本城「少なくとも楓ちゃんはここにはいない、と」
本城М「だがあの男が、変態の性犯罪者である可能性が消えたわけじゃない」
本城「ん?」
壁に貼られている絵画ポスターのデザインに気づく。敵であるレプリ軍団を破壊してスクラップの山を築き、人類が平和をとりもどして歓喜している場面をドラマティックに描いたものだ。〝レプリをこの世から排斥し、人類の尊厳をとりもどす!〟というスローガンがデカデカと書かれている。
本城「反レプリ同盟か・・」
玄関のドアが開かれる音。
本城「!」
さらに、犬の吠え声が響いてくる。
峰岸「ジョン、何を興奮してんだ?」
本城はあわてず、入口から死角となる壁際に身をひそめる。
そして胸ポケットからコンビニの袋を取り出し、生肉を床に放り投げる。
白いシェパードが部屋に飛び込んできて、ガツガツとあっというまにたいらげる。  
ジョン「クゥン・・・」
そのまま眠り込んでしまう。
峰岸も部屋に入ってきて、
峰岸「ジョン、何を食べて──」
本城はその背後に素早く回ると、ナイフを峰岸の喉元に当てる。
本城「動くな」
峰岸「(怯えて)だ、だれ・・!?」
本城「探偵だ。丸山楓を誘拐したのは、おまえか?」
峰岸「は、はい・・!」
本城М「あっさり認めた。素人か?」
本城「彼女は無事なのか?」
峰岸「た、たぶん・・」
本城「どこにいるんだ?」
峰岸「もう仲間にわたして・・」
本城「仲間? 何の──」
さきほどのポスターが目に入り、
本城「反レプリ同盟か」
峰岸、うなずく。
本城「同盟の指示で誘拐したのか? いったい何のために!?」
峰岸「同盟の思想を・・世間にアピールするため・・」
本城「あの子の両親がレプリ関連の会社を経営してるから、ヘイトの対象なのか!?」
峰岸はまたうなずく
本城「バカな!? そんな理由で! おまえたちは狂ってる!」
本城「仲間の居場所はどこだ!」
                    
○廃車場
町はずれにある広い廃車場。廃車が大量に並べられ、廃タイヤが山のように積まれている。現在は使われていないらしく、廃車場にしても荒れ果てている。林に囲まれており、外界から隔絶された雰囲気。
本城は、周囲を警戒しながら奥にむかっている。
本城「ここが、反レプリ同盟の拠点の一つか」
両腕を切断されたレプリが地面に倒れているのを見つけ、ハッと足を止める。
見上げると、廃車を何台も積み上げて10メートルもの高さになっている場所(廃車タワー)があり、その最上部に数人の人影がある。
本城は警戒して物陰に身を潜める。
人影の中心には、気味の悪い(スケキヨ風の)ラバーマスクを被っている田中太郎(37)がいて、激烈にアジっている。
田中「ドロイドを造るな!買うな!破壊しろ! 奴らに世界を乗っ取られるぞ!!」
本城「あれが親玉の田中太郎って奴か」
田中の周りには、(KKK風の)布マスクを被った手下数人の姿が確認できる。手下の一人がカメラを手にして、田中を撮影している。
本城「有名な処刑動画を撮影中か。こんな場面に出くわすとはな」
田中「さあ、次のオモチャだ!!」
両腕を手錠で拘束された男性型レプリが、手下の一人によって田中の前に引っ立てられる。
田中「これがおまえらの大好きなレプリロイドの正体だ!」
男性型レプリの胴体を、高温のバーナーで横半分に切断していく。切断面からは機械が露出し、レプリは狂ったように全身を痙攣させる。ホラー映画のような残酷な光景。
本城「これじゃ、反社勢力として国民から忌み嫌われてもしかたあるまい」
本城「信条的には同調するが、こういう趣味の悪さが俺とは致命的に合わん」
処刑されたレプリは田中に蹴り落とされ、10メートル下の地面に叩きつけられる。
田中「さあ、どんどん行くぞ!」
次に引っ立てられたのは、楓である。引っ立ててきたのは、子供のように小柄な人物だ。
田中「見た目の可愛さなんか関係ない。中身はすべて機械だ!」
本城「おい、ウソだろ⁉」
あわてて内ポケットから拳銃(違法)を取り出し、メンバーたちに見える場所に姿を現すと、空にむけて発砲する。
田中「!?」
メンバーたちは驚いて、本城のほうに顔をむける。
本城「やめろ! その子は人間だ!」
田中太郎とその手下たちは、楓をおいて一目散に逃げてしまう。
だが一人取り残された小柄な人物は、背中を押して楓を突き落としてしまう! 
本城「!!」
猛ダッシュし、落下してきた楓をなんとか両腕で受けとめる。楓は無事である。
本城は痛そうに左肩を押さえ、
本城「左肩が外れたか・・」
さきほど処刑されて上半身だけになってしまった男性型レプリが、その様子をジッと見つめている。
本城「⁉」
楓の顔が、不気味の谷である。(写真では、本城でも人間かレプリかを判別するのは難しい)
本城「おまえ、レプリか?」
楓「うん」
楓を突き落とした小柄な人物は、今頃になって逃げ出す。
本城「そうはいくか」
と駆け出す。
廃車タワーの裏側には、廃車を段々に重ねて作った階段のようなものがあり、本城はその下で待ち構える。
小柄な人物が地上まで下りて来たところを、襟の後ろを引っつかんで捕まえる。
本城「観念しろ、ちっこいの」
とマスクをひっぺがす。
本城「!」
小生意気そうな顔があらわになる。体格通りの十歳くらいの少年だ。
本城「おい、ボウズ。誰にあんなことしろと言われたんだ? 親か兄弟が同盟のメンバーなんだろ?」
少年は怒りの表情で大きくかぶりを振る。

夕方になり、連絡を受けた丸山夫妻が駆けつけてくる。
本城は、楓と少年の二人といっしょに迎えを待っている。
彩葉「楓ちゃん!」
楓に駆け寄り、抱きしめる。
彩葉「ありがとうございます! ありがとうございます!」
陸斗「あなたは一生の恩人です! 料金は規定の二倍! いや三倍支払わさせてください!」
丸山夫婦は泣いて喜んでいる。
本城「料金のことは後ほど。その前にお聞きしたいことが」
陸斗「なんでしょうか?」
本城、少年の肩に手をおき、
本城「この男の子のことなんですが。カイト君と名乗ってます」
少年は無言で、その顔に怒りと悔しさをにじませている。
本城「(半信半疑で)この子が言うには、彼はあなたたちの実の息子で、ちょっとわがままな性格というだけで児童施設に入れられたとか・・」
本城「あなたたちはその代わりとして、少女型のレプリを楓と名づけて娘として養育しているという」
陸斗「とんでもない! あんなひどい男の子が、私たちの子供のはずありませんよ」
彩葉「そのとおりです」
本城М「(ホッとして)そりゃそうだ」
陸斗「正式に親子の縁は切ってますから」
本城「!」
思わず陸斗を殴り倒してしまう。
                   
○マンション南徳山・本城の部屋・リビングダイニング
本城はあいかわらず、ソファーでだらしなく眠っている。テーブルには、空の缶ビールと散乱した柿ピー。
また寝返りでソファーから落ちそうになり、目覚める。  
本城「うぐっ・・」
いつものようにダルそうに立ち上がるが、思わずうめき声をあげて負傷した左肩を押さえる。
本城М「パンチ一発で依頼料はご破算か。医者代を損しただけだ」
壁の針時計に目をやると、時刻は9時半。
本城「太陽が出てる。まだ午前か。とはいえ、今日も何の予定もないがな・・」
本城「メールチェックだ」
AI「わかりました」
壁際にマルチスクリーンのメール画面が投影される。
本城は冷蔵庫を開け、ペットボトルの安い麦茶をゴクゴクと飲む。
AI「新着メールは40万4561件です」
本城「・・何件だって?」
AI「40万4561件です」
本城「はあ? 表示してみろ」
ほんの一部ながら受信メールのリストが次々と表示されていく。
〝猛烈に感動した!〟〝私も見習いたい!〟等の件名が目に付く。外国語も少なくない。
本城「なんだこりゃ? 誰と間違えてんだ?」
AI「動画データを添付しているメールがあります」
本城「再生してみろ」
    *
『最高にカッコいい! レプリ愛護派探偵!』というタイトルが出る。
続いて、廃車タワーから落下する楓を、身をていして助ける本城の姿が映し出される。
    *
本城「あのときの・・」
AI「この動画は複数の有名動画サイトにアップされ、すでに世界中で五千万回以上再生されています」
本城「誰が撮影したんだ?」
AI「投稿者の説明によりますと、処刑されながらも稼働していたレプリの記録データを入手してアップしたそうです」
本城「じゃあこの大量のメールは・・」
AI「動画を視聴した感想のメールが、およそ99・9パーセントを占めます。その大多数が熱烈なレプリ愛護派の人物と推測されます」
〝身をていしてレプリを守った。感動した!〟
〝命も投げ出す情熱的な愛護派探偵!〟
本城「ふざけるな!」  
本城「まてよ、仕事の依頼はあるのか?」
AI「422件あります。すべて愛護派の人物からの依頼と推測されます」
本城「(顔をしかめて)なんてこった」


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