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『メカニカル・マン』第3話

人物表(第3話)

本城一馬(32)元刑事の私立探偵。昔堅気のアナログ人間。特異な視覚能力のせいで、大のレプリ嫌い。
蓮間一舞(16)重度のレプリオタク。人気ナンバー1レプリアイドルのヒビキの熱狂的ファン。人間とレプリが共存できる社会を夢見ている。
牛尾創(28)肥満体の冴えない風貌だが、世界屈指のAI設計者にしてレプリ工学者。
斎藤美佐代(46)レプリロイド愛護協会の代表。レプリを溺愛し、かれらには人間と同じ感情があると盲信する。
ヒビキ(17歳設定)絶対的人気のナンバーワン美少女レプリアイドル。人工の歌姫。レプリのイメージアップの象徴であると評価されている。実は牛尾によって開発製造された。


本文

 聖地アキバ

〇秋葉原・駅前の大通り
歩行者天国であり、人々で賑わっている。レプリの大型量販店やパーツショップが立ち並ぶ。〈レプリメイド喫茶〉という看板も目につく。
本城と一舞が歩いている。
本城「日曜とはいえ、すごい人出だな」
一舞「レプリ産業で日本経済は復活したけど、いちばんの好景気はここアキバだから」
本城「それにしても美形レプリ連れのオタクばかりだな。人間同士のカップルは一組も見かけないぞ」
一舞「そりゃそうだよ。ここはレプリの聖地アキバなんだから♪」
本城「外国人観光客もやたら多いな」
一舞「日本製のレプリは世界中の人に愛されてるからね♡」
一舞「アキバはあたしの庭みたいなところだし、ディープなスポットを色々と案内してあげたいんだけど・・」
本城「遠慮する。仕事だ仕事」
 
 それから本城と一舞は、エンタメ系雑居ビルの地下にあるレンタルスペースに入る──
 
〇同・雑居ビル・地下のレンタルスペース・中
広々としたワンフロアの空間。レプリ用のアクセサリーや写真集等の出店もあるが、イベントというよりは立食パーティーのような雰囲気。
本城「ずいぶんと盛況だな」
一舞「レプリオタクの交流会はいつもこんな感じだよ♪」
本城、周囲を観察する。半分近くはレプリである。
レプオタABが、自分のレプリの自慢合戦をしている。
レプオタA「どうです、吾輩の嫁は?」
頭に輪っか、背中に翼の生えた美少女天使レプリを連れている。
レプオタB「素晴らしいですな、小生の嫁の次くらいに」
妖精のような衣装のエルフ美少女レプリを連れている。
本城「(うんざりと)右も左も不気味の谷だらけか。吐き気がするな」
牛尾「やあ、一舞ちゃん」
牛尾創(28)が現れる。小太りでいかにもオタクっぽい容姿の男が、ハワイアンシャツに星形のサングラスというファッション。
本城「なんだこいつは、酷いな」
それだけでなく、牛尾は異常に似合わない宝石のネックレスまでしている。
本城「何を食ったら、こんな珍妙なセンスになるんだ?」
一舞「この人が依頼主のブタタマさん。あたしのプリオタ仲間なの」
本城М「それにしても、またこの娘の知り合いか」
牛尾、星形のサングラスを外して、
牛尾「どうも、ブタタマです」
本城「ブタタマね。どういう字を書くんだ?」
牛尾「本名ではありません。クリエイターネームです」
本城М「皮肉だ」
生理的に苦手なのか、本城はどうにもつっけんどんな態度を牛尾にとってしまう。
一舞「ブタタマさんは、あの大ヒットスマホアプリ〝フェアリー・ペッツ〟の作者なんだよ」
本城М「知らん」
本城「あの反レプリ同盟から襲撃予告があったんだな?」
牛尾「はい。メールでお伝えしたとおりです」
本城「(周囲に目をやり)それにしちゃ、みんなお気楽そうだな」
牛尾「反プリからの脅迫は毎度のことですから。このくらいでビビってたら、プリオタなんかやってられませんよ」
一舞「いっつも口だけだもんね(笑)」
牛尾「でも僕は実行委員の一人でもありますから。何か形だけでも対応をしておかないとと思って」
本城「それで俺に警備を依頼したのか?」
牛尾「はい。でもやることは何もないと思いますから、探偵さんも楽しんでってください。それじゃあ、僕は仕事がありますので」
さっさと立ち去る。
本城「こんなところで何を楽しめっていうんだ」
一舞「あ、ナッツさん」
近くにいた女子大生のナッツに声をかける。
ナッツ「一舞ちゃん、おひさ~~♪」
執事姿の美少年ショタレプリを連れている。
一舞「シロ君もこんにちは~あいかわらずきゃわいいねえ♡」
ナッツ、本城の方に目をむけ、
ナッツ「あ、一舞ちゃんもついに自分用のレプリを買ったの?」
本城「?」
一舞「まさか~(笑) 買うんだったら、こんなのじゃなくてもっとカワイイのにするよ~(笑)」
本城「(やっと意味を理解し)俺は人間様だ!」
イベントのМCがアナウンスする。
МC「ここで、ヒビキの最新ライブ映像をご覧ください」
一舞「(興奮して)えっ! キャーーッ!!」
本城「ヒビキ?」
一舞「あたしたち、プリオタの絶対アイドルだよ!」
空中に投影されたスクリーンがルーム内にいくつも現れ、映像が映し出される。
 *
巨大な屋外のライブ会場。
舞台上で、ヒビキが歌とダンスの華麗なパフォーマンスをしている。
超満員の観客。すごい歓声。
ヒビキ「みんな、ありがとう!」
T『有明サマーフェスタライブ完全版 10.24 販売開始!』
 *
本城「なんだ、宣伝じゃねえか」
一舞「(うっとりと)ああ・・推しが物理的に存在してるって最高!」
一舞「ライブは抽選で落ちちゃったけど、その分、ソフトでこすり倒すから♪」
牛尾がフラッと現れ、
牛尾「ちなみに僕は、今回もS席で応援してきました」
本城М「また沸いて出た」
一舞「キーッ! 心の底から妬ましい!」
牛尾「ヒビキの活躍が僕の生きる糧だからね」
ドアを開け、血相を変えたプリオタCが駆け込んできて、
プリオタC「おい、ヤバいぞ! もうそこまで来てる!」
本城「反レプリ同盟の襲撃か!?」
拳銃を抜こうと、サッと懐に手を入れる。
みんな息を飲み、静まり返る。
そこへドアを開けて入ってきたのは、斎藤美佐代(46)である。
美佐代「失礼します! 私はレプリロイド愛護協会代表の斎藤です」
参加者たち全員が、イヤ~な顔をしている。
本城「(拍子抜けして)愛護? じゃあ、おまえらの同類か」
一舞「それが、ちょっとちがってて・・」
美佐代「このイベントで、レプリ虐待の疑惑があるとの報告を受けて調査に参りました!」
一舞「愛護派の中でも、レプリの人権を尊重するあまり、規制条例を次々と制定してしまう困った人たちなんだよ」
牛尾「主に性倫理関係の条例をね」
一舞「未成年容姿レプリの風営業勤務禁止条例も、この人たちの仕業」
本城「ようするに内ゲバか。くだらん」
美佐代「具体的には、未成年容姿のレプリに猥褻な衣装を着せているという疑いです!」
バンダナタイプのカメラを取り出して額にセットし、
美佐代「正当な調査が行われたという証拠のため、記録映像をリアルタイムで動画サイトにアップします」
プリオタD「ま、まずい・・!」
極小ビキニ赤ランドセルの女子小学生レプリを連れている。
他にも、未成年セクシーレプリを連れているプリオタはゴロゴロいて、みんな動揺している。
牛尾「これじゃあ、新たな規制条例の制定まったなしだよ~」
本城「レプリを人間扱いする感覚は理解できないが、規制には賛成だ」
自分のスマホで動画サイトを確認してみる。
本城「お、ほんとにここの映像が流れてるぞ」
画面には、この部屋の現在の様子が映し出されている。美佐代のカメラをむけられた参加者たちは、一様に顔を背けたり隠したりしている。
本城「・・?」
画面に映っている牛尾の顔がまるっきり別人なのだ。
本城、顔を上げて実物を確認するが、さっきまでと何の変化もない。
また画面に目を落とすと、やはり別人である。その顔あたりに、一瞬ながらデジタルノイズが走る。
本城「・・!」
美佐代「これからこの会場を調べさせてもらいます。私には都知事からの委任状があり、その権利を有しています」
さっそく、疑わしい幼女レプリを見つけ、キラーンと目を光らせる。
その幼女レプリを連れているMONGA(31)は、ビクッと怯える。(いかにも小児性愛者っぽい風貌)
美佐代「そこのあなた、動かないで!」
ツカツカとMONGAのほうに向かってくる。
美佐代「なんですか、その子は! まだ8歳くらいなのに淫らな・・!」
その幼女レプリは、獣人全裸姿である。
一舞「こんな可愛いレプリが禁止されるなんてまちがってる!」
我慢できず、美佐代の前に飛び出すが完全に冷静さを欠いている。
一舞「ちがうんです! この子はレプリじゃありません! 人間の女の子なんです!」
本城「(呆れて)いや、もっと罪が重くなるだろ」
美佐代「そんな姿の人間がいるわけないでしょ!」
一舞「本当なんです! MONGAさんの親戚の女の子で、学校がお休みだから連れ回してるだけなんです!」
高嶺の声「お嬢様、よろしいですか?」
長髪の美男子レプリである高嶺が、美佐代の前に進み出る。
高嶺「わたくし、レプリロイドの高嶺と申します」
美佐代、キュンとなって顔を赤らめる。
美佐代「な、なんでしょうか?」
高嶺「猥褻な疑いのあるレプリなら、他にもっとたくさんいる場所を存じています。わたくしがエスコートしますから、そちらから先にチェックして回りませんか?」
美佐代「そ、そうですわね。喜んで♡」
高嶺に連れられて、外へ出ていく。
プリオタたち「「「ふう~~~!」」」
会場全体から、安堵のため息が漏れる。
牛尾「いや~ファインプレーだよ。ポリリンさん」
ポリリン(28)は、一見するとごく普通の女性である。
牛尾「でもよかったの? 自分のパートナーが他の女性と・・」
ポリリン「かまいません。自分の愛するレプリが、ヨソの女を口説いてるのを傍目で黙って眺める──」
目を輝かせて、
ポリリン「それはそれで、すごく興奮しましたから!」
本城М「変態女め」
一舞「(ニコニコ顔で)いや~よかった♪ 一件落着♪」
本城「それはそれとして」
牛尾のほうを向き、
本城「ブタタマさんよ、そのネックレスのことだが」
牛尾「え、この安物が何か?」
本城「そいつは犯罪者が使う監視カメラスクランブルだ。その辺に売ってるもんじゃない」
牛尾、焦りの表情。
本城「おまえ、身元を秘匿して生活してるな? 場合によっては警察に通報──」
牛尾「待ってください。わかりました」
懐のポケットにサッと手を入れる。
本城「おい、その手を下ろせ!」
牛尾「は?」
星形サングラスを取り出しただけだった。
本城「チッ、まぎらわしい」
牛尾「ぼくの家にお二人を招待します。そこで僕の秘密をすべてお話ししましょう」
一舞「なんのことやら?」


 4話~結末までの展開

 世界最大手のロボット企業であるTR社に、本城が陰謀の影を感じとったのは、世間を騒然とさせた〝マンション爆破テロ事件〟がきっかけだった。
 危険な調査の末、現在のTR社を実質的に動かしているのは人間ではなく、世界屈指のロボット工学者である界外波瑠彦(35)が、自らの精神を量子コンピュータにアップロードして誕生した超々高度AI〈ゼウス〉であることを突きとめる。そして本城はついに陰謀の全容を知ることとなるが、それはにわかには信じがたいものだった。
 〈界外=ゼウス〉は、人間をレプリロイドに依存させることで人類を滅亡させ、代わりにレプリを始めとする金属製の機械で全宇宙を覆い尽くすという狂気の夢を実現しようとしていたのだ。
 本城とその仲間たちは苦闘の末、辛くも〈界外=ゼウス〉に勝利し、その陰謀を打ち砕く。
 この人類存亡をかけた未曾有の戦いは公にされたものの、人々は反省することもなく、あいかわらず魅力的なレプリに溺れて勝手に衰退していくのだった・・。 
 後日談。実は本城は、TR社の刺客にすでに一度殺されていた。本城が瀕死状態のときに、牛尾によって人工脳に意識をアップロードされていたのだ。それは牛尾の長年の悲願であった感情を持つことができるまったく新しいテクノロジーだった。ボディも最新鋭の戦闘用レプリのものだ。本城は自分でも知らない間に、自分が最も嫌っていた人間そっくりのレプリにされてしまっていたのだ。
 牛尾の新技術により、人間は感情のあるレプリに生まれ変わって半永久的に生きられるようになった。工場で造られたレプリにも感情を持たせることができる。ロボットと人間の差は僅かになった。将来的には完全に融合してしまうだろう。これですべての問題は解消されるのだ。


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