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映画感想「生きる LIVING」

黒澤明監督の「生きる」をカズオ・イシグロ氏脚本の元、イギリスで再映画化した本作
正直このバックボーンは知りませんでしたが、知らなくても楽しめました
知っているとより良い場面もあるとは思いますが

なので今回はフラットに本作の感想を述べていきたいと思います
ネタバレを含む予定なので、未視聴の方はご注意を


まずはあらすじ
舞台は1953年ロンドン
役所で働く主人公ウィリアムズは淡々と仕事をこなし、家では息子夫婦との同居で肩身の狭い生活を送っていた
自分の人生を空虚なものだと思いつつも日常に埋没していく
そんなある日、癌宣告を受け余命半年と告げられる

これをきっかけに自分の人生を見つめ直し、自分の人生を謳歌しようとお金を使ったり酒を飲み騒いでみるがしっくりこない
そんな折、かつて役所で同僚だったエイミーと再会する
彼女は彼が空虚に感じていた役所の仕事を自分なりに工夫して楽しんでいたり、新しい挑戦として実際に転職したり、バイタリティを持って生きていた
そんな彼女との時間を持つことでウィリアムズの気持ちに変化がー

とまぁこんな感じですね


・ウィリアムズの行動とその見せ方

ここからネタバレもしっかり含んでいくので注意してください
エイミーとの時間で自分の生きる意味を見出したウィリアムズ
それは仕事の中にありました
市民課で働くウィリアムズは子供の遊び場を作りたいという市民の声に対して、それまで能動的に動いてはいませんでした
ウィリアムズはこれに全力を賭けていきます

これまでの彼の働き方や役所の同調圧力とは一線を画した行動をとっていきます
粘り強く、言いづらいことも言い、足を運んで信頼を得る
そして念願の遊び場の完成を迎えました

その後場面はウィリアムズの葬儀へ
達成した後のウィリアムズの心情などは描写せず、周囲の人々がウィリアムズの行動から受け取ったものを描いていく手法を取りました

自分の寿命を唯一打ち明けていたエイミー
家族でありながら打ち明けられていなかったウィリアムズの息子
これまでの仕事ぶりとは一変したウィリアムズを目の当たりにしていた部下たち
遊び場建設時に関わった人々
ウィリアムズの生前をおそらく最後に目撃していた警察官

彼らがウィリアムズについて語り、その生き方に感銘を受け、自分の人生を再考する手法は素晴らしかったです

ウィリアムズがエイミーに自身の寿命を打ち明けた際に言った印象的なセリフ
「生きることなく人生を終えたくない」
ウィリアムズの周りの人々が受け取ったものは、まさしくウィリアムズが「生きていた」その証だといえるでしょう

誰かのために何かをする
わかってはいるけど、どれだけ体現出来ているか胸を張っていうのは躊躇することもある
でもそれこそが自分の人生に意味を与えるといってもいいのではないでしょうか

生きる意味に迷ったり、見失いかけた時、この映画は寄り添ってくれるでしょう


・名優ビル・ナイの演技とそれを活かす舞台

演技のことは門外漢なのでわかりませんが、落ち着いているけど力強いウィリアムズの心境の変化を丁寧に演じたビル・ナイは素晴らしかった
1950年代のイギリスを表現して、いわゆる英国紳士的な佇まいが似合う風景描写も相まってよりビル・ナイの芝居も活きたと思います


個人的には以前「変化のきっかけは死を意識すること」というブログをあげていたので、共感する場面もありました
まぁここまで強烈な死を突きつけられたことはありませんが

死を意識するとこれまでの人生を顧みるようになります
自分の人生このままでいいのか、今死んで後悔はないか
ウィリアムズもそこに向き合い、誰かのために成すという最後を選びました
これは多くの人に力強いメッセージを与えるものでしょう

ウィリアムズを思い出し、多くの人が彼の生き方に習っていく後半は特にグッとくるものがありました
ウィリアムズも本編で言っていますが、作った遊び場もいつかはなくなる
自分が成したことは後世に名を残すようなことではない、と
それでも彼の行動は多くの人に勇気を与え、生きる糧になった
歴史に名を残せなくても、周りの人の記憶に残る人になった
それが一番幸せで、彼は「生きて人生を終えた」といえるのではないでしょうか


ちょっと感情が多めで取り留めのない文章になってしまったかもしれません
まぁそれくらい良かったと捉えてもらえると有難いです
ぜひ多くの方に見ていただきたい作品です
それでは今回はこの辺りで
読んでいただき有難うございました

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