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いつ使う何なのか考えたい言葉

 雑音や揺れが大きくて、眠たいのに眠れない。俺は電車の中から流れる景色を眺めながらとりとめのないことを考えていた。





殆ど使うことがないのになぜか覚えていてふとした時に頭に浮かんでくる言葉がある。それが

「いきしちに」

 俺はこの言葉を使ったことがない。一応説明すると、「いきしちに」とは五十音表の「イ」つまり「i」を母音とする言葉の順番を数えるための言葉だ。つまり、「あかさたな」のバージョン違いだ。そう、この言葉「あかさたなはまやらわ」を知っていれば覚える必要がないのだ。(五十音表を横に覚えている人がいれば別だが…)証拠に続きの、「ひみいりい」に関しては一回「はまやらわ」を経由しないと思い出せなかった。(「や」行と「わ」行代替品だし…)

 この「いきしちに」をなぜか偶に思い出してしまうのは。『少し意味がありそうだから』だろう。何となくどこか意味が通っていそうだから思い出してしまう。なので今日こそ、この呪いめいた言葉から自分を解放するために、この「いきしちに」について考えてみようと思う。
 意味について考えるのなら漢字に変換してみるのが有効だろう。先ず最初に浮かぶのは「行きし地に」だ。この漢字は「行った土地」、または「これから行く土地」との並々ならぬ因縁があることを想起させる、その土地にて一体何があるのかと、とても興味がわく。
 次の変換は「生きし血に」だ。恐らくこの後に何か言葉が続くのだろう。俺はなんとなくこの後に『乾杯』が付きそうだなと思った、「生きし血に乾杯」、…意味はよく分からないが、凄い発見をした考古学者集団の飲み会みたいで乙なものを感じる。
 次は「粋、質に」はどうだろう、「一度プライドを売って買い戻す」みたいな意味の慣用句の冒頭みたいで良い。
 一度文を区切るのがありならこんなのもある。「行き!死地に!!」だ。これは、まぁ、うん、無しだ。母さんが俺に殿しんがりを命じてるみたいな印象を受けた。(命じられたことはない)殿を引き受けるなら自分から申し出たい。

 そんなどうでもいいことを考えていると俺は目的地についた。俺は乗っていた電車から降りると昔を思い出した。この街は昔、俺があることを成し遂げるため戦い続けた言わば戦場で、俺は数年前ここから逃げて別の町で暮らしてきた。しかし、ただ逃げたわけではない、俺は力を蓄えてここに戻って来た。あの頃の俺とは違うのだ。戻ってきたこの街で「俺は今度こそやってやる」と意気込んで、町の市街に向けて歩き始めた。そう…俺の

いきしちに…
 


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