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イヴァン・ブーニン 『芸術家(チェーホフ)』

イヴァン・ブーニン (1870-1953)

イヴァン・ブーニンとアントン・チェーホフ (1910年)

芸術家(チェーホフ)

灰色の小石がざくざくと鳴る。彼は庭園の隅まで
そうして歩いてきた。彼の視線がさっと
池の水面をかすめる。彼は長椅子に腰をおろした。
邸宅の上方にある樹木のない峰はすぐ間近にあるようで不気味。

元気もなく気怠げに、彼のペットのツルは
暑さに気が滅入って木の茂みへと避難していく、
その足は棒きれのよう、「鳥…」彼は呟く、
「私たちもヴォルガの北のヤロスラブリにでも行こうか。」

彼は自分の棺が太陽と澄んだ青い空の下に
(それも今や喪服の灰色だ)
据え置かれて、炎は青白くなり
邸宅は鮮やかな白色に変わるのを想像して、ニヤリとしている。

「太った司祭がお香の匂いを漂わせて、玄関まで歩いてくる。
それに続けて聖歌隊。するとあのツルが甲高い声で鳴くんだ、
警告も込めてコーコーと、鳥は柵を飛び越えてきて、
棺の周りをもったいぶって歩き、棺はくちばしでつつかれると…」

彼の呼吸がゼイゼイと鳴る。通りから吹かれてきた
埃は熱を帯びて乾燥しているのだ。彼は鼻眼鏡を外して
少し咳をしてみてこう思いをめぐらす、
「そう、喜劇さ…そのほかに何の意味があるんだ。」
                        (1908)
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