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夏はすぐそこ

扇風機を出した。6月に入ってから、暑いなぁと思いながら眠りにつき、夜中に目が覚める日が増えた。暑い。息苦しい。密閉された空間で複数人が寝ているから、部屋の中が二酸化炭素で充満しているんじゃないか。部屋のドアを開ける。冷房をつけるほどではない。窓を開けたら夜風が入ってきて涼しいだろう。しかし防犯のためにそれはできない。スパイダーマンみたく、誰かがよじ登ってきたらどうするの。

納戸からダンボール箱を出す。手順に従い、扇風機を組み立てる。この扇風機は、2代目だ。1代目は、雑に扱った瞬間、少し壊してしまった。気に入っていた扇風機だったため、全く同じものを買った。

家電量販店でこの扇風機と出合ったとき、この扇風機の売り文句は、“打ち水のように”、涼しい、ということだった。3,000円の扇風機と10,000円以上する扇風機と、なにが違うのさ、とその時は思っていたし、今も少しはそう思うことはあるが、その時お店で感じたことは、打ち水のように涼しいなぁ、だった。家電量販店内では冷房が効いていて、すでに涼しい環境だったはずなのだが。しかし、“打ち水のように”、という言葉に心を奪われ、これはすごい、これまでにはなかった風の心地よさだ、と感じてしまった。

実際、この扇風機からの弱い風が心地よい。扇風機の風を頭部に当て、頭を冷やすとぐっすり眠れるようだが、今はベッドの配置上、足元に風が当たるようになっている。それでも十分、体感温度が下がる。ずっと風に当たっていると、足が冷えたと感じるから、扇風機ってすごい。

扇風機は出した。あとやらなくてはいけないのが、冬用の掛け布団をしまうことだ。冬用の掛布団をしまう場所は、この家にはない。掛け布団を選ぶとき、買うときは楽しい。モノ全般にいえることだが、買うときは明るい未来への高揚感と期待感が高まり、前向きな気持ちになっているのだが、モノが家に入ってからが、大変なのだ。モノが増えたことで部屋が狭くなるし、モノのお手入れを頻繁にしなければ、それは汚れていく。

私の体はたぶん大丈夫なのだが、咳が出やすい家族のためにも、冬用掛け布団はきれいにしてから保管したい。クリーニング店で布団クリーニングを依頼する。布団の圧縮も依頼する。圧縮した布団さえ、しまう場所がないのだけれど。ベッドの下なら空いているか。ベッドの下は、のぞく度にほこりが落ちている。これは布団から出たほこりなのか。このほこりは、いつもどこからやってくるの。

ベッドの下にモノを置いたら、そのモノの上にほこりが溜まることになる。そんな部屋で寝るのは体によくなさそうだ。だから、布団保管サービスを利用するか。毎年これで悩む。

この出費はなにのカテゴリーに属するのだろう。娯楽レジャー費用などではもちろんなくて、清潔、健康維持費用。ベッドシーツや枕をせっせせっせと洗濯機で回すために使う電気代も、清潔、健康維持費用。洗濯機にダニバスターコースという、洗濯前に約65℃の熱風を洗濯物にあてるコースがある。電気をたくさん使いそうなため、滅多に使わないが、もしもダニバスターコースを使ったとして、その電気代は光熱費なのだけど、具体的には、清潔、健康維持費用。

布団保管料は1,000円。夏という季節が長くなってきているのだし、6月中旬〜10月中旬の4ヶ月間、どこかの広い倉庫で冬用掛け布団をクリーンな状態で保管してもらえるなら、1,000円は高くはないか。1,000円を払って、自宅のクローゼットと心の中に、空きスペースを保つことにする。清潔、健康維持費用。これらは安定した日常生活を営む上で必要な経費ということにしよう。

6月ももうすぐ終わる。寝室で冷房を使う日々がすぐそこまできている。それまでのあいだ、打ち水のような涼しい風に体を冷やしてもらう日々が続く。冷房を使い始めたら、電気使用量がグンと上がってしまう。あと何日、扇風機だけで眠れるだろうか。

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