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介護のお仕事をしてる人から見た映画「月」の感想

 映画館からの帰り道。心の中にうごめく思いをどこかに書き殴りたい。そう思ったら衝動的にノートの登録をしていた。いつものようにTwitterに書けばいいじゃないとも思ったけど、センシンティブな内容も含むし長くなりそうと思ったからここに書くことにした。そういうわけで、頭の中のまとめきれない思いをどうにかまとめたくて今、電車の中でスマホの画面をタプタプしてる。なるべくネタバレはしないように努めるけどうっかりしてしまうかもしれないのでこれから見る予定の方は注意していただきたい。

 さて、この映画「月」は先月公開された宮沢りえ主演の映画だ。原作の本は残念ながら読んでいないがやまゆりというワードは当時の事件の衝撃と共に記憶に残っている。事件についての概要は検索すればすぐに知ることができるのでここでは割愛させていただく。
 あらすじは主人公・洋子が山の中にある障害者施設に就職して普通の人々からは隠された『暗部』を目の当たりにしながら自分自身と向き合っていく物語だ。
 あれ?やまゆり園のあの事件の話でしょ?
 と原作を知っている方は思うかもしれない。確かにベースはその事件を題材にしている。物語のはじめから重苦しい空気で始まり、のちに犯人となる青年が次第に変わっていく姿も描かれていた。
 ここで犯行自体の良い悪いを議論する気はない。
 なぜなら犯人はすでに逮捕されて裁きを受けているからだ。じゃあ何を話したいのかというと、なぜこの映画の主人公が「彼」ではなく女性のパート介護職員だったのかということだ。
 隙あらば自分語りになってしまうけど、何を隠そう私自身が介護の仕事についている。そしてTwitterのプロフに書いてある通り障害児の母親でもある。
 そういうことでこの映画は他人事とは思えなかった。人にはそれぞれ見たくないもの、見せたくないものがあると映画の中で語られている。それを「暗部」わかりやすくいえば地獄を終始暗い雰囲気のなか描いていくわけだけど、私の率直な意見としては

案外地獄って明るいな。

である。私にとってそれは日常のありふれた仕事風景に過ぎず、かなり誇張して表現された地獄は私からしたら普通のことだ。それはもちろん私が介護のプロであり経験しているからそう思うのであって、一般のそういうものを見聞きしたことのない普通の人々にとってはかなり衝撃的な内容なのではないかと思う。
 正直あそこまで率直に表現するとは私は思っていなかったので監督はよく決意したなとその勇気に拍手を送りたい。
 私と同じように介護の仕事をしている方がこの映画を見てこんな悲壮感のある場所じゃない!と怒っているレビューを見たけど、確かにその人のいう通り現実の施設では笑って過ごしてるし、大変なこともあるけどみんな楽しく暮らしている。家では笑えないからこそ、笑顔で生きるために施設に入ると言っても過言ではない。姥捨山のような家族に社会に見捨てられた人たちではないことはここで断言しておきたい。
 ではなぜ監督は救いのない重苦しい映画にしたのか。
 私は犯人の青年が壊れていく様子と主人公洋子の見たくない自分自身との葛藤を描きたかったのだと解釈した。
 優生思想とはなんだろう。

優生学(ゆうせいがく、英: eugenics)は、19世紀末から20世紀半ばにかけて多くの先進国で受け入れられてきた考え方で、進化論と遺伝学を人間に当てはめ、集団の遺伝的な質を向上させることを目的とした一連の信念と実践である。
(中略)
「生殖に適さない人」への結婚禁止や強制不妊手術(断種)などの消極的なものがある。「生殖に適さない」とされた人々には、障害者や犯罪者、少数民族が含まれることが多かった。
 ――――――――――――――Wikipediaより抜粋


 障害者に対する強制的な不妊手術、つまり本人の同意のない去勢ですね。障害者を殺すことじゃないんです。
 でもネットでもよく見るよね。障害者はいらない、死ね、殺せっていう書き込み。それこそTwitterでしょっちゅう見るよ。障害児親アカウントはそういうのに絡まれやすいから嫌でも目に入る。そういう人達が持ち出すのがこの優生思想。まあ誤用なんですけど。
 もちろん障害者や働けなくなった高齢者をいらないから殺すことは絶対にしてはいけない。だけど本当に邪魔だ、いらないと思ったことない?一度も?
 監督が視聴者に問いかけたいのはこの誰でも一度は思ったことのある「自分にとっていらない、邪魔なもの」から目を背ける行為じゃないのかなと思う。それが障害者でなくても直接排除しなくても生きていれば何かを、または誰かを邪魔に思うことはある。
 今まで生きててそんなこと思ったことない人いないんじゃないかな。
 この映画ではそれが障害者の形をしていただけ。
 それが人の弱さなのか醜さなのかはわからないけど、もう目を逸らすのはやめようと言われた気がした。

 まあ目を逸らすどころか普通でいう『地獄の真っ只中』で生きているのが私ですが。もう一度いうけど障害児育ててますし?(ドヤ
 地獄に住んでいる私から言わせてもらえば、地獄って案外明るいし、笑えるし、めっちゃ大変だけど、地上まで登らなくていいと開き直れるなら案外悪くないよ。
 上見るから苦しいんだよ。目の前のことだけ見て、手の届く範囲の小さな幸せを見つけよう。
 普通は手に入らないかもしれない。でも、普通じゃなくても幸せにはなれるよ。
 自分の幸せは自分で決めることであって、他人にとやかく言われるものじゃない。
 そんなわけでとりあえず気が済んだのでこの辺にしておきます。今度ネタバレありの感想も書くかも。
 この映画を見てそれぞれ自分の『暗部』を考えてみるのはいかがでしょうか。ただしかなり思い切った映画なので覚悟がある方以外はお勧めしません。自己判断でお願いします。

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