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本当に壊れたもの

「ねえ、洗濯機壊れているんじゃないの?」

たまたま遊びに来ていた母に言われて、そういえば最近音がうるさいと思っていた洗濯機を注視した。動いているが凄まじいガタガタ音。静音モーターが壊れているかもしれない。
共働き家庭は壊れて修理を呼んだとしても対応する人材がいない。基本疑わしい時は買い替えだ。横に貼ってある型式を記したシールには大きく
「2015年製」
買い替えの時期だろう。

これまでも何度か書いているが、うちは絵に描いたようなワンオペだ。
この洗濯機の思い出も、私が一人で買いに行った思い出。
当時、家事など全くしない旦那は、壊れそうだから買い替えが必要だと言う私に「壊れたら、買えばいいじゃん」と言った。
「はッ?壊れたら?子供の着替えどうするのよ?コインランドリーに行けってか?いつ?子供二人連れて?仕事終わってからか?あんたは行かないのに??」
と怒りの「?」マークを胸に浮かべながら、繁華街の電気屋に一人で買いに行った。店員さんに色々聞いて、一人で購入した最初の家電だ。
幸いお金は出してくれたので、それだけは感謝。
その時から、分譲マンションの水栓管、トイレ、給湯器など一般的な経年劣化に伴う家財道具の買い替えは、「もし壊れたら、どうしよう??」と心配する私が不在の旦那を押し切って、一人で取り行ってきた。
単身赴任先からたまに帰省してきて「おっ!トイレ新しいじゃん!!」と新品に入れ替わった状態しか知らない旦那は、見積もり依頼や商品選び、工事中の在宅対応など繰り返されたやり取りを何も知らずに、魔法のように替わったトイレを見て、心の中ではフライング気味に家財道具を買い替える女だと思っていたようだ。「すぐに新しいものを欲しがる」と吐き捨てるように
呟いたのを聞いたことがある。経年していることに気が付いていないからね・・・。
本当に壊れてしまった時の「恐怖」を理解できないのだ。だって何もしないから。トイレが壊れて、用を足すためにマンションのエントランスまで、毎回子供を連れていくの?給湯器が壊れて、子供二人を自転車に乗せて銭湯行くの?週末休みの非日常ならそれもいいが、平日の中には組み込めない。
なので私は「疑わしきは、フライング」と決めている。

今回も例に漏れず買い替えを提案した。今メインに使用しているのは旦那だ。洗濯機を回す事が家事の分担だと思っている旦那のテリトリー。
たまには旦那だけで買いに行くのもいいと思ったが、本人が一緒に行こうというので了承した。私の週末の習慣であるスポーツクラブ終わりに待ち合わせようと提案し、時間を決めた。「じゃあ、現地で」と私は家を出た。
待たせると悪いと思い、参加したクラス終了後にそそくさと支度をして、電気屋さんに。家を出てから正味1時間半くらいが経っているだろうか。
電気屋さんの洗濯機コーナーをウロウロ、下見をしてさっさと決めよう。どうせ違いなんて旦那には「わからん」と思い、今使っている物の後継モデルをチェックした。待ち合わせ時間は30分ほど過ぎている。遅刻は旦那の得意技だ。今日は休みだから「仕事だ」の言い訳もできない。店員さんが近づいてきて「なにかお探しですか?」お決まりの声掛けだ。その時スマホが鳴った。

旦那「わりい、まだ家。あの後寝ちゃってさ。どうすればいい?」
私 「・・・。もう来なくていいです。勝手に買うので。」
待ち合わせをしたのはたったの2時間前。食卓では娘が昼ご飯を食べながら、この後友達と遊びに行ってもいいかと話をしていた。旦那はそんなに時間がない事を理解して、「クリーニングに行ってから、向かえば丁度いいか」なんて呟いていた。で、そこからどうして寝るのだろうか??

その後淡々と、目星をつけていた後継の洗濯機を購入し、配送の手配をして帰ってきた。家に帰ると旦那はいない。おそらく気まずくて逃走したのだろう。駐輪場に旦那の自転車があった。どこにでも乗って行くのに、時間稼ぎで歩きでクリーニングに行ったようだ。

前々から旦那に対して思っていたことがある。
「他人の時間を奪う事をどう思っているのか」という事だ。
待ち合わせにきちんと現れたことは、あまりない。
約束の時間に現れず、先に帰ったことも何度かある。
「無駄に消費される私の時間」
それに対し今までは怒って文句を言い喧嘩をしてきた。
壊れてしまってから起こる諸問題の方が本当は大変な事も、それを処理する私の負担と時間に対しても今も理解はしていないだろう。

でも今回は、文句を言う気にもならなかった。最終形態のようだ。末期。
電話があった時感じた感情は「ふ~ん、またか」
今回壊れたのは洗濯機ではない。私のモーターは焼き切れて動きません。
通電することもないので、怒りも湧かないのだ。
本当に壊れると起こる現象は「無」なんだと実感した。
家に帰ってきた旦那が、自室にいた私にドア越しに「かあちゃん、悪かったね」と声を掛けてきた。
「・・・・・。」この・・・・・は「無」です。
怒っていないのは、許しているからではなく「無」だからです。
故障の保証期間は切れています。リサイクル料金払って捨ててください。

こうしてまた、私が一人で買った新しい洗濯機が週末我が家にやって来る。



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