超短編小説 縁と涼 初仕事
大学生活も終わりに近づいた。無の時間をしなくても自分をコントロールできるようになっていた。
「縁、そろそろ仕事を覚えないとね」母はそう言って私を連れて小さな事務所に行った。戸を開けると誰もいなかった。
「ちょっと待っててね」と母は言うと相談室と書かれた部屋に入っていった。
「縁、入りなさい」母は戸から顔を出し私を手招きした。相談室に入ると、そこには涼君がいた。しばらく会っていなかったがかなり大人になっていた。
「涼君、久しぶり」小さく声をかけると涼君はちょっと頷いて「ああ」と答えただけだった。
「二人で仕事してほしいのよ。東京からくる偉い人の警護なんだけど」母はそう言うとスケジュールの書かれた紙を二人に渡した。
「ちょっと怪しいことがあったら、警備の人に連絡すればいいだけの簡単な仕事よ」母は笑って頷いた。
私は未来が見えるけど、涼君はなんだろう。聞いてみたいけど聞けない。涼君は頷いて「じゃあ」と言って帰っていった。
東京から来た偉い人が来た。二人は偉い人の脇を歩いた。偉い人はこれから大変な会談をする未来が見えるだけだ。まあ問題ないだろう。
無事に偉い人は会談を終え、東京に帰っていった。
簡単な仕事だった。
涼君は私の顔を見て、ちょっと険しい顔になった。何か言いたそうだけど、なんだろう。ちょっとした空白の後に「じゃあ」と言って涼君は去っていった。
涼君との生活が見えたけど、何かの間違いだろうな。
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