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短編小説

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小説まとめました ほとんど超短編小説 思いついたときに書くので不定期です
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#ひきこもり

小説 となりのひきこもり1

ひきこもりはいろんな事情でひきこもっているのは知っている。広い意味では私もひきこもりだ。人のことは言えない。周りから見れば私は昼間家にいて適当に暮らしている人間なのだろう。規則正しく健康に気をつけて暮らしているなど周囲には言えない。お前なんかが長生きしてどうするんだということを言われそうである。かかりつけ医は血液検査で異常がないことを怪訝に思っているらしく健康診断の結果を言うときに物凄く不機嫌な顔になる。 私はマンション暮らしだ。隣に30代の息子がいるのは知っている。平日昼

小説 となりのひきこもり3

何台ものサイレンの音がしてしばらくしてガヤガヤと声が聞こえてきた。窓の曇りガラスからのシルエットを見るとどうやら警察官らしい。 えっと事件?朝なので頭がよく回らないのか認識するまで時間がかかる。コウちゃんが刺されたのか。ちょっとだけ戸を開けて様子を見ようとした。その瞬間、スーツの人が走って寄ってきた。 「すいません。警察です」 うわ、ドラマみたいな展開だ。何か聞かれるのだろうか。 「隣の家で何か気になることはありませんでしたか」 ちょっと怯んだ。正直、ほとんど交流はないの

小説 となりのひきこもり4

昼になった。トーストを食べながらぼーっとしていた。早朝からの騒動でちょっと疲れている。 ん?窓に何かを担いだ人のシルエットが見えた。アポなしピンポンが鳴る。アポなしは出ない。それが一人暮らしの防犯だ。何かあれば書面が新聞受けに入るだろう。 窓に人のシルエットが忙しく動いている。無視することアポなしピンポン5回目。さすがにしつこい。だが無視。今日は外に出ないほうがいい気がする。隣の事件の話を聞きにマスコミでも来ているのだろう。 なんとなくだが反対側の隣の奥さんの声と男の声

小説 となりのひきこもり5

アポなしピンポンは何度鳴ったかもうわからない。マスコミなんだろうけどトラウマ級の凄さだ。戸を開けたが最後、テレビに映ってしまうのかもしれない。それだけは避けたい。 悪いことはしていないが出たくない。インタビューなんてとんでもない。若い頃ならどんどんインタビューを受けテレビに出て友達に自慢しまくっただろう。ちょっとしたヒーローだ。そんな時代だった。 まてよ、私はインタビュー受けても何も答えられないじゃないか。 しかし、うるさすぎて何もできない。ドラマの録画みたかったのに。

小説 となりのひきこもり6

夕食の時間だ。買い物に行けなかったので冷蔵庫の冷凍しておいた総菜を探す。今日は料理などする気分ではない。焼き餃子があった。これにしよう。 冷凍ご飯と焼きギョーザを電子レンジで温め、電気ケトルで湯を沸かしインスタント味噌汁をつくり、カットサラダと作り置き煮物を出す。 一日の騒動でメンタルが疲れてるかもしれない。味噌汁をちょっとだけこぼしそうになった。 焼き餃子を酢醤油につけ一口食べる。味がしない。今日は食欲がないようだ。でも食べないと体に悪い。とりあえず詰め込む感じで食べ

小説 となりのひきこもり7

うちのマンションがテレビに映っている。テロップに「父親が息子を刺す」。アナウンサーが「今日未明、板川区で父親が息子を刺しました。詳しいことはまだ入っていません」というと次のニュースに入っていった。 ちょっとむせてお味噌汁を飲むと世界が元に戻るのを感じた。 え、これだけなの。あれだけマスコミが来てこれだけなの。凄い来てたよね。スピーカー奥さんの映像とコメントはないの。期待してたのに。 どういう事件だったんだろう。働けって言われて逆上して暴れたところを父親が刺したのだろうか

小説 となりのひきこもり8

何事もなかったようにいつもの生活に戻った。その後の報道はない。スピーカー奥さんの大声がたまに聞こえることがあるが大したことは言ってないのだろう。テレビのニュースになったというのに周りは平穏である。 何か月かして事件があった隣から凄い物音が聞こえてきたと思ったら引っ越しだった。何があったのか知ることもなく事件が消えていくらしい。その後を知ることもなく事件が終わっていくことが増えている気がする。 コウちゃんは生きているのだろうか。父親はどうなったのだろう。噂ではコウちゃんは亡