第26話 雪だるまに襲われるトナカイ
朝日が森の中を照らすと、周囲の気温が急激に下がりました。
大気中の水分が冷やされて結晶化し、陽光に照らされることでキラキラとした輝きを放ち始めます。
この思わず息を呑むような美しい光景は「ダイヤモンドダスト」と呼ばれる現象なのですが、トナカイたちは「天使のささやき」と呼んでいます。
トナカイたちにとっても滅多に見れない光景らしく、しばらく目を奪われてしまっていました。
キラキラ輝くその光景は、まるで夢の世界に迷い込んでしまったかのようでした。
さて、ここで予想外のことが起こります。
それはヴィクセンがルドルフに話しかけようと、右隣を向いた時です。
さっきまでそんなものは無かったはずなのに、大きな雪だるまがひとつ置かれていたのです。
「ひっ!」
驚きのあまりヴィクセンは思わず、大きな声を上げてしまいます。
なぜならその雪だるまが方向を変えて、彼女を見つめてきたのです。
その声に反応したルドルフは、咄嗟にヴィクセンを抱きかかえて、後方へジャンプしました。
プランサーも、後に続きます。
雪だるまとは、3メートルほど距離を取りました。
その雪だるまはと言いますと、ゆっくり左右に揺れ始めるという謎の行動を始めていました。
もう、わけがわかりません。
「この雪だるまって何なの? 生きてるの!?」
「スノーマンと呼ばれる精霊だと思う。悪さはしないはず」
「ホントに? ならいいんだけど」
少しだけ安心したヴィクセンが雪だるまに視線をやると、目が合ったような気がしました。
すると雪だるまは、いきなりヴィクセンに向かってジャンプし、頭から突っ込んできたのです。
驚いて尻もちをついたため、幸いにもぶつかることはありませんでした。
「ちょ ちょ ちょっとルドルフ!さっき悪さはしないって言ったよね」
雪だるまは、今度はプランサーとルドルフに狙いを定めて飛んできます。
何度も頭突きをしようと飛んでくるしつこい雪だるま。
何度もヒラリと避けるプランサーとルドルフ。
まるで鬼ごっこの様な状態になってきました。
誰も得をしないこの不毛な争いはしばらく続き、さすがのトナカイたちも疲れたのか、肩で息をし始めました。
一方で雪だるまの方も息切れしたみたいに、ゼーゼーと言っています。
でも、トナカイのプランサーだけは元気いっぱいで、ニヤニヤしています。
「お前、何でそんな元気のこってんだよ」
「だって楽しいでしょ。ルドルフは、楽しくないの?」
「楽しいわけがあるか。むしろ怖いわ」
プランサーは、雪だるまに向かって手を振りながら声を掛けました。
「おーーい 聞こえてる?」
「お前、なんで雪だるまに話しかけてんだ」
「楽しかったでしょ? ネネちゃん」
「は?」
すると雪だるまは、3回その場で楽しそうに小さくジャンプしました。
プランサーの言葉を理解しているみたいです。
続けて雪だるまがブルブル震えだし、その身体が崩れ始めます。
そして・・・
中から現れたのは、赤い服を着たひとりの少女でした。
雪だるまの中はかなり寒かったようで、吐く息が白く、頬と鼻の頭が薄紅色に染まっています。
「ぶっはー!やっと出られた! へっぷちん 寒っ」
「あはっ、そりゃそんな中にいたら寒いに決まってんじゃん」
「プランサー 何で、私だってわかった?」
「小声で何度も、私の名前呼んでたからだよ」
「あ!しまった! 失敗した」
「あはははは、それにしてもさ、ネネちゃん大きくなったよね」
呆気に取られていたのは、ルドルフとヴィクセンの2人です。
200年ほど前の幼いネネの姿の印象しか無いので、目の前の女性がネネだと言われても、にわかには信じられません。
そんな戸惑う2人に、ネネの方から声を掛けてきました。
「ルドルフもヴィクセンも、久しぶりだね。元気してた?」
ニッコリ微笑むその顔に、幼い頃のネネの面影があります。
しかもよく見ると、サンタの赤い服を着ているのです。
「ホントにネネちゃんなの?」
「ネネなのか?」
「だからネネちゃんだって言ってるっしょ」
なぜか勝ち誇ったような顔で鼻息が荒いプランサーは、とりあえず横に置いておきます。
雪だるまの中身は、かつて人間界でトナカイ達と一緒に過ごしたサンタ・ネネでした。
ずっとネネがいると言い続けていたプランサーの主張は、本当に当たっていたことになります。
ところで、なぜネネが雪だるまの中に入っていたのか。
実はスノードームを乱暴に扱い過ぎたことでサンタ・ツリーを怒らせてしまい、雪だるまにされてしまったのです。
ちなみに天上界のツリーにも同じことをされているので、これで2回目になります。
プランサーはよっぽど我慢できなかったのか、ついに喜びを爆発させてしまい、ネネに飛びついていきました。
勢いがすごすぎて、プランサーとネネの2人が雪の斜面を転がっていってしまい、救出しないといけなくなるというプチ事件が発生。
この200年以上もの長い間、お互いの安否すらわからない状態だったので当然のことかもしれません。
トナカイ達はネネの周りに集まって、再会を喜び合います。
プランサーは、ずっとネネの腕に抱き着いたままで放そうとしません。
そして終始ニコニコ笑顔です。
でもネネに触ろうとするものなら、まるで番犬のようにガルルルルと威嚇してきます。
それもそのはず。
人間界にいた頃のネネが最も仲良かったのが、このトナカイのプランサーでした。
よく2人で出かけては、ご近所中にイタズラして回っていました。
いつもルドルフに見つかって説教されたうえ、ずるずる引きずられながら近所へお詫びして回るというのが、毎日の恒例行事みたいになっていたのです。
そんな思い出話を混ぜながら、1時間ほど皆で談笑することになります。
つづく
【あとがき】
この小説の題名は「赤と黒のサンタ」です
ちなみにネネが雪だるまにされたのは昨日の日暮れの時間帯
トナカイ達が来たのは翌朝の夜明けの時間帯です
一晩いったい何をネネはやって過ごしていたのか?
最初は雪だるまから脱出しようともがいていましたが、あきらめました
仕方がないので、雪だるまを被ったまま動く練習をしてみます
しかしさすがに疲れたのか、寝落ちしてしまいました
翌朝、トナカイたちが来たのでビックリします
しかしすぐに、イタズラして驚かせてやろうと思いました
全てAI生成画像です。「leonardo.Ai」さんを利用させて頂いてます
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