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育児で大切なことは比叡山が教えてくれた(1) 〜おむつと荘厳〜

日本仏教の母山とも言われる比叡山。天台宗の僧侶である私が1年以上お世話になった、大好きなお山です。
当時を振り返ると、ただただ1日を生きていくことに精一杯でした。厳しい指導の下、仏教や修行のイロハから、掃除、洗濯、料理などの生活まで、幅広く沢山のことを学ばせていただきました。人生で大切なことはほとんどお山に学んだと言っても過言ではありません。
しかし、その修行で学んだことが、よもや育児に活きるとは露ほども思ってもいませんでした。

令和2年(2020年)1月に、ついぞ父になった私は恐る恐る我が子を抱きながら、父親としての幸福と重圧を噛み締めたのでした。
(僧侶なのに妻子を持つことが出来る理由はまたの機会に…)
友人の先輩パパママから聞いてはいましたが、やはり育児は大変。生活様式は全て子供主体に一変しました。

・おむつを変えてる途中に追加うんち…。
・何をしても泣きやまない…。
・笑うも束の間、すぐギャン泣き…。 中々思いどおりにはいきませんね。

しかし、何度かやっていくうちに少しずつコツを掴んだように感じました。
妻にたくさん助けてもらいながらも、母乳以外は一通りできるようになりました。
そして、ふと、育児に大切なことと比叡山での教えが重なることに気がついたのです。

第1回目は、おむつと荘厳(しょうごん)です。
育児書を読んで知りましたが、赤ちゃんは「普段と違うこと」に対して大人以上に敏感なのだそうですね。「普段と違う」とすぐに違和感を感じ、それが原因で泣き叫ぶことも多々あるとか。普段と違うことを嫌うのです。
まさにこの感覚こそ、比叡山で何回も教わった教えです。

「信は荘厳より生ず」

「信頼や信心というものは、きちんと揃った準備物や丹精に整えられた形から生まれる」という意味です。

私のような下っ端の僧侶の一番大切な仕事はこの「荘厳(しょうごん)」です。「荘厳」という字面だけを見ると一般的には「おごそか」や「立派」などの意味を想起されると思いますが
仏教の文脈では「下準備」や「飾り付け」などを指します。具体的には、

・机の上が汚れていないか
・ろうそくが少なくなっていないか
・花は枯れていないか
・仏具は左右対称、等間隔になっているか
・灰をキレイにならしたか
・線香は真っ直ぐ立っているか などを指します。

私たち僧侶にとっては信心を求める前に
まず形を整えることが優先されるのです。
実際に法要で正面に座ってお経を唱えようとした時に、お線香が斜めになっていたり、お位牌がずれていたりすると、本当に気持ちが悪いのです。
それだけで居心地が悪くなります。そして気づきます。

「あぁ、赤ちゃんも一緒なんだ」

赤ちゃんが泣いている時に、おむつを確認すると少し緩んでいたり、ズレていたり、おしっこやうんちをしていたりすることが多々あります。
そうなんです、荘厳がしっかり出来ていないから気持ち悪がっているのですね。線香が斜めになっている位気持ち悪いんですね。痛いほどわかります。

赤ちゃんからの「信」を得るには、荘厳が必要不可欠なのです。

赤ちゃんは純粋無垢で大人のように濁ってはいません。まるで仏さん。
そんな赤ちゃんには、仏さんに奉仕する気持ち位が丁度いいのです。
おむつを変えたり、服を変えたり、きちんと荘厳をしていれば、きっとニコッと笑ってくれます。この意味において、育児というのはこの上ない有り難い修行なのかもしれません。

比叡山の教えを胸に、今日も寺と赤ちゃんの荘厳は続きます。


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