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オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第33回 農業版「トヨタ生産方式」(その3)儲かる農業を実現するための現場カイゼン方法:「5S:(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」

トヨタ自動車の工程の根幹である「5S」は、「整理」・「整頓」・「清掃」・「清潔」・「しつけ」のSから始まる5つの頭文字の総称です。オーストラリアでも「5S:『Sort』・『Set in Order』・『Shine』・『Standardize』・『Sustain』」は、ごく当たり前の習慣として多くの製造現場で取り入れられています。しかし、①「土」等の自然界そのままの原材料を扱い、②「屋内外」の作業場所の定義が難しい農業業界は、「5S」とはかけ離れた産業と言っても過言ではありません。しかし、そんな業界だからこそ「5S」を徹底的に導入することで儲かる農業が実現することは確かです。「5S」を導入して、現場が如何に「綺麗」になるかがカギとなりますが、今回はそのノウハウについて解説します。

農業版「5S」

  1. 整理
    作業で使う必要なもの以外、全て処分する。【例】期限切れの肥料、農薬等を処分する

  2. 整頓
    必要なものをすぐ取り出せるようにする。【例】作業道具を用途別、番号、色別、形状・材質別等に分ける

  3. 清掃
    綺麗に掃除して点検を行う。【例】収穫コンテナの洗浄、パッキング台の掃除

  4. 清潔
    整理・整頓・清掃が維持されているか常時チェックする。(管理者の役割)

  5. しつけ
    決められたルールが正常に実施されるよう習慣づける。(管理者の役割)

「5S」を活用した儲かる農業ステップ1:「汚れて」当たり前を「綺麗」で当たり前の環境にする

農業の過酷さは想像以上になる場合があります。大雨の中の露地での収穫作業や、気温40度を超える栽培施設内での定植作業など、作業者は疲労困憊で作業場所等を「綺麗」に保つことは二の次になりがちです。そんな環境下では、無意識でルーティン化する「習慣づけ」をいかに実現できるかが重要なポイントです。まず、「5S」を導入する管理者は、自ら率先して、「5S」を実施する必要があります。農業界は職人気質が強く、作業者はリーダーを見て学ぶことが根付いています。現場の管理者がまず取り組むことは、汚れている箇所をランク「1・2・3」と定義し、最もランクが高い「3」から掃除を始めます。トイレはランク「3」のため、管理者が敢えてトイレ掃除を毎日行います。実施してしばらくは、綺麗な状態を長く維持できないおそれもあります。ただ、数ヶ月後には朝に掃除した状態が翌日まで維持されます。これが第一歩です。日々必ず使う場所かつ最も汚れている箇所が綺麗な状態であると、自然とランク「1・2」の箇所も綺麗になっていきます。これを実現するには、綺麗にしないと居心地が悪いと感じる「共通認識」が現場の作業員の多数に浸透する必要があります。

「5S」を活用した儲かる農業ステップ2:「綺麗」になることにより得られるWin-Winの関係を構築する

管理者と作業者の間で、綺麗さによる共通認識を得たことのメリットを共有します。管理者にとっては、収穫物の汚染リスクが極端に減少します。オーストラリアではサルモネラ菌などの農産物の被害が頻繁に報告され、管理者は風評被害、出荷停止等の影響を受けます。また作業者は作業中の事故が減少し、綺麗な環境で働くことでやる気向上に繋がります。そこで、両者のメリットを共有した上で、掃除担当者を決めます。ただ、日本以外では、掃除は自分の仕事ではないと認識している作業員が多いのは事実です(掃除=清掃員の仕事)。そこで、掃除の担当者を全作業員とし、作業終了前の数分間のみ、掃除作業を導入します。この数分間が「習慣づけ」の基軸です。日本人のように「掃除」が教育として訓練された作業員であれば、掃除というタスクに長時間集中でき「習慣づけ」も容易ですが、多国籍の環境下では、集中力が続く時間は数分間のみと考えられます。

「5S」を活用した儲かる農業ステップ3:「綺麗」な環境で栽培された農産物は高価格で取引される

オーストラリアでは、綺麗な環境で栽培された農産物は、高付加価値農産物(プレミアム、輸出向け)として認定され、高価格で取引されます。そのため、近年、同国の農業業界においても「5S」を活用し生産工程を「見える化」することが求められ、現場が綺麗でなければ、取引額に影響を及ぼします。「綺麗」であることの定義は、Freshcare(日本のJAS規格に近い)を始めとする農産物認定機関の基準によって定義・認定されます。

日本の農業者へのアドバイス

オーストラリアのような多国籍環境での導入が成功したことは、世界一衛生教育基準が高い日本での導入がいかに容易であるかを示しています。「5S」の導入により、農場の環境を劇的に改善し、収益性の向上を実現できます。農業における「5S」の実践は、単なる清掃活動ではなく、組織全体の効率化と品質向上に繋がる重要なステップです。

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