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詩72/ 環状線

朝方
ライブハウスを出て
環状線の始発で帰った
年の暮れ
始発の時間はまだ真っ暗で
汗が引いて寒くて
車内はまだ
暖房をつけたばかりで
温まっていなくて
缶コーヒーで手を温めながら
縮こまって座っていた

駅間が短いから
すぐに次の駅に着いて
すぐにドアが開くから
また寒くて
とにかく縮こまって
ハーフコートの襟を引き上げて
ひたすら目を瞑っていた

降りるべき駅はある
引き返した訳ではなく
振り返ったわけでもなく
間違いなく前へ進んでいた

でも
40分居眠りしていた間に
電車は元の駅の
同じホームに戻っていた

少し乗客が増えていた
あと2周もすれば
通勤通学の時間帯になって
このオレンジ色の鉄の箱は
社会や人生を動かす人たちで
すし詰めになるのだろう

そんな人達とは逆に
俺はアパートに帰り
ギターケースは
玄関の土間に立て掛けたままで
薄い布団に潜り
夜まで泥のように眠った

どんなに外の音を遮りたくても
爆音で潰れた耳が
ヒスノイズを出し続ける
それでも俺は
外がまた暗くなるまで
飯も食わず
泥のように眠った

あんな日々は
もう
戻ってこないけど

変わらず環状線は
朝から夜まで
一駅も飛ばさずに廻りながら
多くの人生を
運び続けているのだろう

今は
遠く離れた
違う街で生きているけど

今の俺は
ちゃんと行き先のある
片道電車に乗れているのだろうか




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