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詩46/ 脱出の記録

鉄鉱石を積んだ船に
私は忍び込み
密かな旅に出ました

船は製鉄所のある港に着くと
三日三晩かけて
積荷の鉄鉱石を下ろします

荷下ろしも進み
出港前の最後の日
深夜過ぎ
私は船員の目を盗んで
岸壁へ降り立ち
そのまま製鉄所へ駆け込みました

私は溶鉱炉へ向かいました
迷宮のような製鉄所を
誰にも見つからないように走り
ついに
赤い炎を吹く建物を見つけました

私は
溶鉱炉の中に
船の中で忍ばせた
一握りの鉄鉱石を
投げ入れました

さらに
背中の荷物を
リュックごと投げ入れました

そして

ずっと背負っていた
あの日の苦しい記憶を
投げ入れました

あの日の後悔を
投げ入れました

失ったものの残像を

大切だった
帰らない日々を

流すまじと
溜めてきた全ての涙を

すべて投げ入れました

そして
混じりけだらけで
純度の低い
脆い鉄を錬り上げて
一振りの剣を打ちました

私は
船には戻らず
日の出とともに
製鉄所を出て街へ向かい
その剣で
すべてを整理する戦いへと
向かいました

私の記録はそこでおしまい
その後のことは
私にもわかりません
でも
もし私の話を
目や耳にすることがあったら
せめてもの手向けに
東の方を向いて祷ってください








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