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「キッシンジャーが『ワクチン受け入れたらゲームオーバー』と発言」は根拠不十分

検証対象

2009年2月25日 WHO優生学会議 キッシンジャー 「ワクチンの強制を受け入れたらゲームオーバーだ」 彼らはより大きな“善”のためなら強制的な献血や臓器提供など何でも受け入れる 我々は子供たちを遺伝子操作し、不妊化することができる、大義のために 羊の心を支配すれば、群れを支配することができる
(※画像付き投稿)

一般ユーザーのTwitter投稿(2022年3月28日、約560RT)

判定

根拠不十分 判定の基準について

キッシンジャー氏がそのような発言をした記録や根拠は見当たらない。また、WHOに優生学に関する会議は存在しない。

ファクトチェック

ツイートに添付された画像では新聞か雑誌の記事のような物が写されており、そこにはアメリカの元国務長官であるヘンリー・キッシンジャー氏の名と共に次のようなことが書かれている。

Kissinger Quote from a speech to the WHO Council on Eugenics, February 25, 2009: "Once the herd accepts mandatory vaccinations, it’s game over. They will accept anything – forcible blood or organ donation – "for the greater good". We can genetically modify children and sterilize them --- "for the greater good". Control sheep minds and you control the herd. Vaccine makers stand to make billions. And many of you in this room are investors. It’s a big win-win. We thin out the herd and the herd pays us for extermination services…."
(※筆者訳:2009年2月25日WHO優生学評議会でのキッシンジャーのスピーチより引用。「ひとたび羊の群れが強制ワクチン接種を受け入れたら、そこでゲームオーバーだ。彼らは血液や臓器の強制提供でも、『公の利益』のために何でも受け入れるだろう。我々は『公の利益』のために、子供たちを遺伝子操作し不妊化することができる。羊の心を支配し、群れを支配しよう。ワクチンメーカーは巨万の富を得ることだろう。この部屋にいるあなた方の多くはその投資者だ。これは大いなるウィンウィンだ。我々は群れを間引き、群れは根絶のための事業に金を払う…」)

同様の文章は海外で2018年頃から存在していたと見られるが、2019年末に発生した新型コロナウイルスの感染拡大以降はそれと関連付けて拡散されている。

発言した根拠無し

この件については既にSnopesAfrica CheckPolitiFactAFP通信ロイター通信Fakenews.plなどのメディアがファクトチェック記事を公開しているが、キッシンジャー氏がこのような発言をしたという記録や根拠はいずれの検証でも見付かっていない。また、ロイター通信の取材に対し、キッシンジャー氏の代理人は「完全な捏造だ」と回答している。

キッシンジャー氏の公式HPには過去のスピーチや寄稿などがまとめられているが、その中に「2009年2月25日WHO優生学評議会でのスピーチ」やそれに類似するものは掲載されていない。

拡散された文章の中には、キッシンジャー氏が国務長官時代の1974年に著した世界人口の増加に関するレポートを根拠に挙げているものもある。このレポートは、途上国の人口増加がアメリカの安全保障や海外での利益にとって脅威となると説くもので、対策として避妊や不妊化手術の推進も提言されている。その中では注射薬を使った避妊なども言及されているが、ワクチンに関する話は出てこない。

存在しない「優生学評議会」

また、世界保健機関(WHO)に「優生学評議会」なる組織は存在せず、過去に存在していた事も無い。Africa CheckPolitiFactロイター通信ではそれぞれWHOに取材しているが、広報担当者は「優生学評議会」や当該スピーチの存在を否定している。

優生学とは、社会にとって好ましい遺伝的形質を選別し劣った形質を淘汰することで、人類の改良を目指すとする学問である。かつてナチスの差別的政策や虐殺行為の根拠として利用されるなど、倫理上の問題から、現在では遺伝科学の誤った応用として認識されている。

繰り返し拡散

日本では2021年頃から和訳版の文章が繰り返し拡散されており、添付される画像にも複数のバリエーションがある。

拡散されたツイートの例(ぼかし加工は筆者による)

一部の画像では、本来の英文で大文字表記されていた「WHO優生学評議会(the WHO Council on Eugenics)」が誤って「WHO評議会での優生学についてのスピーチ」のように訳されているが、いずれにせよWHOでそのようなスピーチが行われたという根拠が無いのは上述の通りである。

(大谷友也)

謝辞

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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