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【映画感想】『ひとよ』ー家族の真夜中と朝焼けー

家族とは縁でもあるし呪いでもある。

そんなことを考えているぼくが『ひとよ』という映画を見てきた。

正直、ここ最近でいちばん良かった
家族の崩壊と再生、なんとも重苦しいテーマに上映中なんども胸が苦しくなったが、親の子供への愛、過去と対峙する子どもたちに家族のあり方を教わった気がした。家族についてだけでなく、前をむこうと思わせてくれる一作。

監督は『彼女がその名を知らない鳥たち』『凶悪』などを手掛ける白石和彌。

あらすじは子どもたちのために父親を殺した母、こはるが15年の歳月を経て、子どもたちのもとに帰ってくるお話。

一見すれば、感動の再開とも思える展開だが15年の時をかけて、子どもたちは母親が人殺しであるという事実に嫌がらせを受けたりしながらも、折り合いをつけて生きてきた。もう自分たちとは関係のないことだと割り切ってしまった時に突然あらわれる母親に、子どもたちは許せない気持ちや苦しみにさいなまれながらも、もう一度向き合おうとする圧倒的ヒューマンドラマだ。

本作はなにより、キャストの布陣がまったく隙がなかった。

母・稲村こはる(田中裕子)次男・雄二(佐藤健)長男・大樹(鈴木亮平)長女・園子(松岡茉優)
子供のことを思い続けるこはるの演技や、突然帰ってきた母親との独特の緊張感を出す子どもたち。
作品の世界が彼ら彼女らによって見事に体現されていたように思えた。

最大の魅力は子どもたちが、それぞれの感情ををあふれる程に爆発させるシーンだ。

特に兄、大樹が母に対して思いをぶつける場面はひどく心を打たれた。

いつも兄弟の調停役であり、主張をしない彼があることを引き金にして感情を溢れさせる。
その演技には、母を許せない気持ちと、それでも自分の母親である事実への罪悪感がにじみでていて、作品の重苦しさがピークに達する。そこには家族という縁と、家族という呪いに縛り付けられている本作のテーマを表すようでもあった。

また、本作に登場する家族は稲村一家だけではない。

離婚したことをきっかけに真面目に生きようとする父や、認知症の母を持つ娘、兄、大樹のが築く家庭といったたくさんの家族像が描かれている。
家族の問題はひとつだけではなく、家族の分だけ悩みがあるのだと気付かされることも本作の魅力のひとつだ。

大樹の妻が、大樹に「あなたの悩みは家族の悩みよ」と伝えるシーンがある。

それに対して大樹は何もいえないのだが、ぼくは家族のあり方をこのセリフに見いだされた気がした。

いつ頃からか、ぼくは家族に対していちばん身近な他人だと思うようになっていた。

生まれた頃からただ目の前にあり、自分で選んだわけでも、嫌々受け入れたわけではない。ただ偶然的にそこにあったものとして、他人同士が家族というつながりだけで存在するもの。そんな風に考えていた。

他人だからこそ、迷惑をかけてはいけないしうまくやっていかなければいけない。そう考えている内に大抵のことは自分で解決するようになり、悩みを相談することがなかった。

正直、自分が生きていくうちに友人や恋人など安心できる関係を作っていくことはできる。
ただ、何をしなくても安心させてくれる関係が生まれたときからあるのはとても恵まれていることなんじゃないかと本作を見て思うようになった。

縁は偶然導かれるものだが、それにはある程度行動して出会わなければならない。

だとすれば、家族というのは行動もなしに与えられている。
そして何が会っても家族であるがゆえに、裏切られるものではない。
特に親というのはいつだって子供の幸せを願わずにはいられない。それは絶対的な安心だ。

そんな家族に対して、自分の悩みを伝えることはこちらから与える安心なのではないかと思う。
家族だって安心を与えているのだから、こちらも安心をあたえること、そしてその安心を与えることが出来るのは悩みを話すことだ。

社会人になり、ぼくも今まで味わったことのない悩みが増えてきた。
今こそこの悩みを家族と共有して、ぼくの中での家族のあり方を再生すべきなのではないか、そんな風に思った。

家族は選べない。なにがあろうとも家族だ

それは縁でもあるし、時に呪いにもなってしまう。
だけどもその縁を意味のあるものにするのは自分次第だ。

家族が好きじゃなかったり、どうやって向き合えばいいのかわからないという人は「ひとよ」を見て、自分の家族のあり方を考えてみてもいいかもしれない。

また、血縁でつながっている家族だけではなく、これから新しく家族を持とうとしている人も、長い人生、どのように向き合っていくか考える手助けになる作品なのでぜひ見てみてほしい。

『ひとよ(一夜)』はラストシーンでタイトルに込められた意味が分かる。もちろん事件が起きた真っ暗闇の夜のことを指しているのもあるが、もう1つの一夜には暗闇ではなく夜が明ける朝焼けの光のような暖かさがあった。

ぼくたちは暗闇の中にいるような状況になると、このまま光は差さないんじゃないか、どこへも行けなくなってしまうのではないかと思いがちだ。しかしその暗闇の中で諦めずに最後まで手を差し伸べてくれるのは家族だ。

家族は真っ暗闇のときもある。しかし明るい暖かさを連れてきてくれるのもまた家族だ。

そんな家族をぼくも大事にしていきたいなと思ったのだ。

11月8日全国公開。

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