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人間関係が面倒な人はAIと結婚すればいいんじゃない?『ぴぷる』


人間関係って本当に面倒くさい。

自分の思っていることが伝わらないし、場面によっては気を使わないといけない場面だってあるし、なんでこんなに関わり合って生きていかなきゃならんのだ。

って思うことはないだろうか。

最近友人とよくこんな話をする。

「結婚したいけど、ずっと他人と過ごせる自信がない」

くっそわかる。

お風呂の時間も相手によって決めにゃならんし、自分の未来が自分だけのものではない、
他人の感情や人生がいやがおうでも関わってきてしまうのが結婚だ。

そんなことを考えるたびに、友人と同じように自分には無理だと思ってしまう。

さて、そんな時にこの小説である。

舞台は2036年の日本。AIとの結婚が可能となる法律が施行された。主人公の摘木健一は失恋をきっかけに、性交渉機能搭載のAIと結婚を決意する。購入したAIにぴぷると名付け、寂しさとも縁を切る生活が送れると思った彼だが、そこに失恋した相手、吉野が現れる。

AIとの生活によって人と過ごすことの意味や、好きとはどういう感情なの考える哲学的小説だ。

そんなAIと結婚するといった未来への実験的な小説に、僕も参加してみることにしたのだ。

***

AIとの生活、それは自分の都合通りやりたいことを好きなままできるような理想のような生活に思う。

けれど、健一は人と過ごしていた時の感情と比べ、ぴぷるに歯がゆさを感じるようになる。

”僕が関わりを求めて話しかけると返事を返してくれるが、ぴぷるにはぴぷるのペースというものがない。
これはこれで、自分が相手が求められていないようで、不完全燃焼なもどかしさがある。
かまわれすぎるとうざったくなるということは目に見えているのだけれども、かまわれなさすぎると相手と一緒にいる意味を失ってしまう。”p83

わずらわしさがない生活をしていても、時にそのわずらわしさが恋しくなってくる。

人間とはなんてわがままなんだろうか。

とは思いつつ、何となく分かる自分もいる。

他人と過ごすことが億劫だと思っても、接触がなかったりするととたんに寂しくなってしまったり、誰かと話したくなったりする。

自分の思っていることがうまく伝わらなくて、「だから~」と何度も同じことを繰り返してしまったり、いやそういうことじゃなくてただ共感してほしいだけなのにな、ともやもやしたり。

しかし、むしろうまくいかないコミュニケーションこそが、
他人と関わっていると意識するきっかけであると本作を読んで感じざるを得なかった。

***

関わりの中でも、心を開ける人、開けない人という2種類の他人がいると思う。

全員が全員ありのままの自分をさらけだせるという人は少ないだろうし、人を選んで会話の内容を決めている人もいるだろう。

ではそもそも人に心を開くとは、どういったことなのだろうか。

健一はぴぷるとの生活の中でこう思う。

”けれども、ぴぷるとの距離が近くなればなるほどに僕は虚しさを感じることが多くなっていた。
つまり僕はぴぷるに対して安心できずにいたのだ。
安心できない、言い換えると僕はぴぷるに心を開ききることができない。
なぜなら心を開くということは、相手に対して期待を持ってしまうということだからだ。”p141

なるほど。
期待とは、実現されるかもしれない未来に対して心待ちにすることである。

悲しい気持ちを伝えれば、慰めてくれるかもしれない、もしかすると抱きしめてくれるかもしれない。

未来への「かもしれない」を相手に求めてしまうことが期待であり、たとえ自分が想定している反応を相手がするしないに構わず、ただ自分の感情だけが抱いてしまうものが期待なのである。

ぴぷるはそうではない。
想定される未来が確実にやってくるのである。

おいおいまた人間はわがままである、と言いざるを得ないじゃないか。

未来に対して不安に思ったり、予想される未来は嫌だと思ったり。

しかし、案外、期待通りにいってしまうものには、心を開くことができないのかもしれない。そもそも期待すらしないだろう。

もしかすると、と淡いポジティブさを他人に抱くことが心を開くことだと本作は教えてくれる。

***

実際に、AIと共同生活を送るのは現段階の技術ではいささか難しそうではある。
しかし、人口が減少していくことが明らかになっている今、AIが介入していく未来に近づいていくことは間違いない。

ともすれば、そんな未来に向けて、人と人とが関わり合う意味を考えてみてもいいのかもしれない。

本作はAIがテーマとして描かれているけれど、実際には人の心について触れている部分が多い。

プログラム通りの行動をするAIに対して、感情に左右されて、時に不合理な行動を起こす人間。

でもそれこそが人間なのだ。
曖昧で、予想すらも意味をなさない愛おしい生物。

AIが生活に交わってきても、きっと人間たちの感情は変わらないだろう。

あいも変わらず、他人と過ごすことの億劫さを抱えてはいるけれど、そもそも人はイレギュラーなものであることを受け止めて、関わりあいの中で浮かぶ、感情の不都合さを愛していければなと思う。

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