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Kちゃんとの関わり

中学校の教師から人事異動で小学校の教師として赴任しました。

最初は5年生の担任になりました。

すごく素直で個性的な子どもたちで、僕にとっては可愛いく愛おしい子どもたちでした。

小学校に来て、子どもの話を理解するためには全身全霊で聞かないと理解ができなかったので、聞くスキルが磨かれたと思います。

そんな担任をしている中で、一人の気になるKちゃんと言う生徒がいました。

周りより少し成長が早く体も大きいのですが、精神的には子どものままで、授業中は一生懸命聞くのですが、ついていくのが難しく、感情的に不安定でした。休み時間になると質問に来たり、よく僕の自宅にまで電話をかけてきていました。大した内容ではなく、明日の持ち物はなんだったかと言うことばかりだったと思います。

ある夏休みが開けた時に、Kちゃんはものすごく不安定で、ある日、トイレにとじこもって出てこないと言う事件がありました。

なんとか最後は出てきたのですが、どうしてそんなことをしたのか理由を問いただしても理由を言わないし、自分でもよくわからなかったそうです。当然、周りの生徒にも聞いたけど誰も心当たりがない。

何かおかしいなあと思っていた日の夕方に、Kちゃんから電話がかかってきました。

Kちゃん家出する

「せ、せんせ、い(泣きながら)、あと30円しかない、・・・わたし、家出した」

「えっ、Kちゃんどうしたの?どこにいるの。とりあえず落ち着いて・・・。」

このまま、電話が切れてしまうとやばいと思って、なんとか気持ちを落ち着けて、場所を聞かなきゃと思いました。感情的になっているので、下手したら言わない可能性もあると思い、

「そうか、家出するぐらい何か辛いことがあったんやね」

「うん、・・・(もっと泣く)」

「何があったか先生に教えてくれるかな」

「ママと喧嘩した」

「そうか、ママと喧嘩したんだ」

「何か色々とあったんだね」

「うん、・・・」

「先生、Kちゃんがどこにいるか、今、心配してるんだけど、今どこにいるの?」

「カネスエ(自宅から5kmぐらい離れたスーパ)」

「えっ、そんなところまで一人で行ったの?」

「先生からお母さんに電話して迎えに行ってもらうから、待てるかな?」

「うん」

場所をとりあえず聞けたので、安心して

「Kちゃんは、どうしてカネスエまで行ったの?」

「えっ、・・・。自分でもわからないんだけど・・・、ママがいつもカネスエに買い物にきてるんで、きたのかも・・・」

「と言うことは、仲直りしたいと言うことかな」

「・・・、う・・ん」

「先生からも言っておくから、ママと仲直りしてね」

と言うことで、この場を納めましたが、次の日に上記に出てくるママと学校で話すことにしました。

次の日、Kちゃんのママと会う

Kちゃんのお母さんが学校に来てくれました。

普段はとても温厚な方で、面白い話をいつもしてくれるのですが、今日は様子が違いました。

話の場につくなり、早速、学校の批判や娘さんが学校の勉強についていけていないことを機関銃のように話して来ます。

とにかく、その話をずっと聞いていました。

で、一通り聞いた後、間ができた時に、お母さんが、

「先生、わたし、子どもにキレちゃうんですよ」

とボソッと言い出しました。

「ダメじゃないですか」と言いたいところでもあったのですが、とっさに出た言葉が、

「お母さん、僕もなんですよ。」

「えっ、先生、ダメじゃないですか先生がキレたら。でも先生でもそうなんですね」

「子どものことを思えば思うほど、なっちゃいますよね。」

という話から、一転してお母さんは自分のことについて話出しました。

娘はよりも、息子がもっと言うことを聞かないこと、わたしは皆から馬鹿にされていて、旦那さんも子どもも、犬までも私をなめている。と言う普段の思いを話してくれました。

それを聴きながら一旦、落ち着いたのを見計って、

「お母さん、あの家出のあとは、娘さんとはどんな感じで過ごされてます?本人は、仲直りしたいと言っていましたが、仲直りとかされましたでしょうか?」

「先生、やっぱり謝るべきですかねえ」

「いや、僕はことの経緯を全て知るわけでもないので、何とも言えませんが、お母さんがそうしなきゃなあと思われていることや、娘さんと繋がりたいと言う気持ちはとて伝わってきました。なので、本当にそう思われたらそうするのが一番いいと思います」

「そうですか、先生、色々教えてくれてありがとうございます」

と言う感じで、一応、晴れやかな感じになり面談は終了しました。

Kちゃん進化する

びっくりしたのが、次の日からのKちゃんの変化です。

いつもは、授業で、ボーッとしながら聞いていたのが、姿勢がまず違う。背筋が伸びて、食いつくように授業にのぞんでいます。

いつもは、手をあげたとしても自信のなさそうな挙げ方だったのが、手をピント伸ばして、「私を当てて」と言わんばかりの晴れやかな表情で取り組んでいました。いつもは横の子に教えられていた存在が、何かあったら他の子に教えているじゃありませんか。劇的な変化が起こりました。

それからはトイレにこもることもなく、不安定なことはたまにありましたが、そう言う時期があったとしてもすぐに復帰して前向きな姿勢で色々なことに取り組んでいました。

お母さんがあの日、娘さんに謝って仲直りしたかどうかは確かめていないのですが、とにかくKちゃんとお母さんの関係性がより良くなり、そのことでKちゃんの日常への意欲がまるで変わったと言う体験でした。

親と教師の面談

これに限らず、親との面談で、親の心配が晴れた次の日に、子どもがとても元気になると言うことはたくさん経験してきたので、親との懇談会などでは、受容と共感のマインドを中心としたコーチング的な関わりを行うことを意識をしていました。

親に子どもの様子を伝えたいことがあったとしても、最初からネガティブなことを伝えても受け取ってもらえません。

15分間懇談会の時間があったとしたら最初の10分間は相手中心に話を聞いて、その上で、残り3分時間があれば十分に伝えたいことは伝わる。

Kちゃんのこの件で、親と子どもの関わりが子どものパフォーマンスに影響していることや、懇談会での教師の親に対する立ち位置を教えてもらいました。

親は何をやったらいいか自分でも良くわからないんです。そう言う立ち位置で、一緒に協力するパートナーとしてのぞむことが信頼に繋がり、それが子どもの日々の活動への原動力になると感じています。






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