見出し画像

自社開発新規スマホゲームタイトルのリリース前におけるクローズを防ぐには

はじめに

この記事の目的
目的は単純で、あまりになんども同じような光景を見聞きするので少しでも業界全体で開発期間が無駄になり、リリースすらできずに実績が虚無となってしまう悲劇を少なくしたいと考え記事にしました。
よって世の中から1つでも多くリリースしてもらうためを目的としています。


この記事の内容について
前回の記事ではチームビルディングの観点から「ゲームが死ぬ理由」について書きました。

今回の記事では、チームビルディングは出来たものとして、どうすればリリース前の死を回避することができるか、ということにのみ絞った内容になります。
よってこのゲームは以下のことについては語りません。

・売れるゲームを作る方法
・面白いゲームを作る方法

※余談ですが、前回の記事を投稿してからデスプロジェクトソムリエとしての実績がまた一つ増えました。
現在の実績は8/9の割合でプロジェクトが死んでいることになります。HAHAHA


大前提:クリエイティブなゲームを作れるチームは世界全体で見ても極わずかである

自社開発の新規タイトルを担当した時、どんなゲームを作ろうと考えてますか?
「オリジナルの誰も見たことがないゲームを作るんだ!」
と考えていませんか?
確かにだれしもそれがやりたいことでしょう。あなたのチームに潤沢な予算と実績があるならばそれでも良いでしょう。
しかし、順当に開発が進んでも開発費が10~20億以上かかる令和のスマホゲーム開発において、そんなことが出来るチームは極わずかです。
まだあなたのチームが業界を牽引するような実績を挙げていないならば認めなくてはならない現実があります、それは
「僕達は時代のチェンジャーになれるようなことはなく、積み重ねていかないことにはまともにゲームを作り切ることは出来ない」
ということです。
多くのゲームはなんらかのゲームを模倣したうえでオリジナル要素を足してるにすぎず、小さな積み重ねを繰り返したうえでないとそんな土俵に立てることは絶対にない、僕を含めた多くの開発者は凡人にすぎないという価値観でこの記事を書いているということを認識していただけると幸いです(あなたがそれに同意するかどうかは別として)

クリエイティブな自社開発新規タイトルを死なずにリリース可能になるためのロードマップ

あなたのチームの状況に合わせて「クリエイティブなゲームを開発できるチーム」になるまでのロードマップを作ってみました
もしこれらの問に全てYESと答えられるなら正直この記事を読む必要はありません。新しいゲームを楽しみにしています。

リリースロードマップ

まずはクオリティよりノウハウの蓄積を目指そう

ゲームをリリースしていないとゲームはリリース出来ない
逆説的な話になってしまいますが、ゲームをリリースしたことがないチームにはゲームはリリースできません。
令和時代のゲームはスマホゲー黎明期とは違い開発資産0で作り切れるほど甘いものではなく、開発資産0で望むのは魔王にヒノキの棒で挑むようなものです。仮にあなたのチームが無尽蔵に開発費を投入できるなら話は別ですが、その場合は2,3タイトル分の開発費(50億円以上)は覚悟するべきでしょう。
それが出来ないチームは残念ながらクリエイティブ云々を言える立場にありません。まずは全て丸パクリでいいので売れてるゲームのクローンゲームを作るか、完全受託などのタイトルなどで次の新規タイトルへつながる開発資産(UIライブラリ、課金やKPIライブラリ、Sequencerライブラリなど)を作ることから始めましょう。魔王に挑む前に装備を整えるのと全く同じです。


ウマ娘はたくさんの装備を揃えたうえで開発されている
今売れているタイトルといえばCygamesさんの「ウマ娘」ですが、ウマ娘もいきなり作れたわけではありません。外野から見ていてもわかるのは、グラブルでサーバ・インフラ資産を蓄積し、デレステでタイムラインツールを開発し、数タイトルでグラフィックスのノウハウを蓄積しています(後述のスライドを参照)
有名どころのCygame社内の開発資産だけで以下のものがあります。

・FlashToUnity
・CySQL
・Cutt(タイムラインツール)

これ以外にも人的ノウハウや公開していないライブラリ群などが無数にあるでしょう。
そして、これらの装備があって初めてウマ娘の成功があります。
これらに類するライブラリ群も持たずに「ウマ娘みたいなゲームを作りたい」といっても絶対に無理と言い切って良いでしょう。
平成であれば、市場も成熟していなかったのでまぐれで高品質とはいえないタイトルがヒットすることもありましたが令和時代においてはもうそのようなまぐれホームランはまず出てこないと考えていたほうがいいと思います。


インゲームのクオリティを考える前にマネタイズサイクルを設計しよう

マネタイズを考えていないインゲームは絶対に作り直しになる
あなたのチームが作ろうとしているのがF2Pのドラコレ型のゲームなのであれば、マネタイズサイクルをどのような形にするのか最初に決める必要があります。
ついつい陥りガチ、というかまず間違いなく一度ははまってしまうと思うのですが、インゲームの中身を考えてからマネタイズを考えようと思ってもそれはかなり難しく、マネタイズを考えたときに今のままでは売れないと経営層に判断されて結局インゲームも考え直しになります。絶対に間違いなく確実にそうなります(断言)
私達が作るゲームはF2Pなので、インゲームが面白くてもプレイしていて課金がしたくなるゲームデザインでなければビジネスとして成り立ちません。


例えば、とても面白いコマンド選択バトルを作った後に「マネタイズはどうする?」と言われたらなんとなく
「キャラクターガチャとかいいんじゃない?」
と思うかもしれません。しかしF2Pのゲームでは継続的な課金をしてくれないと成り立ちませんので、キャラクターガチャではストーリーやイベントで出てくる敵を倒せるようになった時点で課金したいとは思ってくれなくなります。
そうなった場合、PvPやGvG、ランキングイベントが必要になるのですが、それが可能なゲームデザインになっていなかった場合どうなると思いますか?リリースしてしまったら爆死間違いなしです。
それを経営層に指摘されてしまったらせっかく時間をかけて考えたゲームデザインも一から考え直しになるでしょう。
それを防ぐためにもおおよその「どのように課金したくなるサイクルを作るか」ということは考えておかないとほぼ間違いなく作り直しになり開発期間が無駄になることでしょう。


開発するゲームの同ジャンルでベンチマークタイトルを決めよう

あのゲームをベースにして開発しようと決めてしまおう
「大前提」でも前述したとおり、僕達の多くははいきなり誰も見たことがない面白いゲームを作り上げることはできません。
ベンチマークを決めないで開発を進めるとどうなるでしょう?
試行錯誤で開発することになるので、当然仕様変更は多くなるでしょう。また「このゲームシステムじゃ駄目だ」となってジャンルそのものが変わるレベルのちゃぶ台返しも複数回発生することでしょう。
そうなると、まずソースコードが非常に汚くなります。アセットのパイプラインも何度も変更され、同じようなアセットを繰り返し手直ししたり作り直したりすることになります。
大きな仕様変更は回数を重ねるごとに改修スピードが遅くなり、気づいた時には時間だけが消費され、経営層に詰められることになります。

ディレクターに揺るがぬゲームコンセプトがあり、そこが社内政治などの外的要因が発生しても絶対にブレないなら大きなジャンル変更なども発生しないかもしれません。しかし、必ずしもそういったディレクターがプロジェクトにいるとは限らず、むしろ多くのケースではディレクターも苦しい立場であると考えられますので上記のようなケースは往々にして発生します。

それを防ぐためにも、ベースとなるベンチマークタイトルはあったほうが良いのです。
そのうえでどう面白くなるのかを考えることに注力したほうがプロジェクトが死ぬ確率は低くなると思います。


あとがき

いかがだったでしょうか。
正直、納得できない方も多くいるんじゃないかなと思っています。
しかし前述したとおり、この記事は自社開発の新規タイトルをなんとしてもリリースすることを目的としていますので、人より多くのプロジェクトの死を観測した身としての考えだととらえていただければと思います。
また、この記事を見ているあなたがもし新規タイトルを任されているなら是非参考にしていただいて、悲劇を未然に防いでいただけるととても嬉しく思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?