奥浅草の蕎麦屋で飲む
早めに仕事を切り上げて飲む酒は格別である。
まだ明るい空を眺めながら、まずはスーパードライだなと、ビールをグラスに注ぐ音を想像する。
地下鉄で自宅最寄り駅へ到着し、さてどこへ行こうか?と考えた。
その日は、新しいブランドの企画のため、パーツ、皮革素材、工具類の調達、さらにGOD FISH亀太郎氏の工房へお邪魔させていただいた。
適度に歩いたため、程よい疲れが心地よく、ゆっくりと静かな一人飲みを楽しみたいと、奥浅草にある蕎麦屋さんへ向かった。
浅草にいたころ、よく通ったお店だ。
なんといっても、時間が通常の半分くらいの速度で進んでいるような、ゆったりとした対応がとても心地よい。
まずは瓶ビールとおつまみを注文。
スーパードライ、板わさ、お新香、枝豆という、ジャパニーズとりあえずの、気取っていない最強布陣。
それではこちらも、気取らずに一人時間を楽しむとしよう。
そして一人飲みといえば、ほろ酔い読書。
物語もクライマックスにさしかかっていた、三浦しおん「仏果を得ず」を、一杯やりながら、読了した。
日本の伝統芸能の奥深さを知り、日本のすばらしさを改め感じ、さらに、登場人物の潔さに勇気をもらい、明日から新たな気分で仕事に取り組むぞ、と決意した。
ビールを飲みほした後、通常は熱燗へ行く流れだが、折角、蕎麦屋で飲んでいるのだからと、蕎麦焼酎の蕎麦湯割りをオーダーした。
優しい味だ。
なんという優しさに満ち溢れた時間なのだ。
そんな幸せ時間の最後を締めくくるのは。
天丼。またもや天丼。
しかし今回は蕎麦屋の天丼だ。
*蕎麦屋の屋台から天丼が誕生したという説もあるようです。
シンプルで控えめなタレと、ぷりぷりの天然ホワイトタイガー。
蕎麦屋のカレーも味わい深いと言うが、蕎麦屋の天丼も同様だ。
ゆっくりと時間の流れるその空間で、じっくりと味わいながら天丼を完食した。
お会計を済ませ店を出ると、奥浅草に心地の良い風が吹いていて、ふと懐かしさを感じた。
相変わらず、気取らない蕎麦屋だった。
そしてここは気取らない商店街。
まさに自然体の江戸だ。
その後、すがすがしい気分で帰路につき、現在企画中のブランドについて考えた。
皮革素材、パーツ、縫製などすべて日本製の、純国産を目指す。
継承されてきた日本の職人技、メイドインジャパンのすばらしさを、様々な角度から発信出来たらいいな。
皆様、どうぞお楽しみに。
帰宅後
歌舞伎名作撰 假名手本忠臣蔵を鑑賞した。
こちらは寛延元年1748年に初演されたという。
275年前って。。
まずその事実に興奮してしまう。この演目を275年前に生きた人々が観ていたなんて。
まさに引き継がれていく日本の技。
誰にも邪魔されることなく好きなことをして過ごす休日。
一人時間が与えてくれる効能は、心地のよい疲れ。
とてつもない感動の後、、
お猪口に残っていたぬる燗を飲み干し、日本で暮らしている幸福感に包まれながら、緩やかに現れた眠気を受け入れたのでした。
shiba
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