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『ジョニーぶらり旅』グアム編⑤

 三日目の朝。前日に約14キロほどグアムの悪道を歩いたせいか、とても疲れている。
 実は、二日目の夜にホテルで強めのパニックの発作が出ていた。突然家から何千キロも離れたところに一人でいるのが、とてつもなく恐ろしくなったのである。そう考えると一気に血の気が引いて、脳の思考が止まる。そして吐き気に襲われる。
 こういった症状には慣れたものなので、どうすれば良いのか知っている。まず深呼吸をし、できるだけ下を向かないようにする。そして、頭の中でポジティブな言葉を繰り返す。これら二つの事と同時に、両手で自分の事をハグするように抱き、体をタップすることを繰り返す。こうすることで、和らぐ。
 しかしその時は和らがなかった。時間にして10分もないくらいだったが。とても辛かった。どうしても収まらなかったので、夜の散歩をすることにした。
 グアムの夜空は、なかなか気持ちが安らぐ。滑走路のすぐそばのホテルなので、視界を遮るものがない。
 15分ほど新鮮な空気を吸って、やっと気持ちが安らいだ。

 そんなこともあったせいか、三日目の朝は外に出るのが怖かった。なので、テレビのニコロデオンチャンネルでスポンジボブを流したまま、ゆっくり眠ることにした。
 起きてお昼を食べて、また寝る。こうして夜になるまで、心と体を休めていた。

 そして夜ご飯を買いに、KFCに来た。手ごろな価格のセットを注文し、ドリンクは生まれて初めて見る、レモネードにした。

 ホテルに戻って、まず最初に気になっていたレモネードを飲んだ。信じられないくらい体に染み渡る甘さで、それでいて新鮮なレモンの味がした。こんな美味しい飲み物は初めてだ。日本でレモネードなんて見たことがなかったので、新鮮だった。

 ハンバーガーを食べ終えて、レモネードを大切に飲み干した。

 さて、クラブに行こう。夜遊びじゃ。

 フロントでタクシーを呼んでもらい、繁華街へと向かった。遠くからでもわかるくらい、クラブの建物はネオンで輝いていた。

左の赤く光っているのが、クラブ

 時刻は夜9時。クラブの中はまだガラガラで、音楽を独り占めすることができた。

 お酒が苦手なのでオレンジジュースを頼み、椅子に座ってDJブースを眺めていた。
 クラブのボーイの人がとても気さくで、190センチくらいある巨漢なのに、空きグラスをかたずけながら、私の事を見て踊り始める。とても暖かい人だった。

真ん中の人が、飛行機で隣の席だった優しいおじさん。

 しばらくすると、後ろの席に座っていた日本人5人組が、写真を撮ろうとしていたので、私が撮ってあげた。
 そしたらなんと、行きの飛行機でとなりの席にいたおじさんだったのである。なんという偶然だろうと思い、LINEを交換して仲良くなった。
 私の席だったおじさん、その知り合いの強面おじさん、ヤングおじさん、20代の女性、その母親の5人組だった。
 ヤングおじさんは20代の女性を口説きまくっていて、強面おじさんはその女性の母親を口説いている、という関係性だった。頭がこんがらがる。

 やっと混み始めて、みんなが踊りだす。私もそれに乗じて自らをさらけ出しに行く。
 踊っていると、アメリカ人の二人組が声をかけてきた。きくと、東北の米軍基地所属らしい。日本語で「こんばんは」と言われて、嬉しくなった。
 そしてさらに踊っていると、今度は周りが米兵だらけになった。髪が短い男は大体米兵だろう…。体幹が綺麗で、とても鍛えられている。

 クラブ全体が熱気に包まれて来たころ、一人のロシア系美女が私にアイサインをして、一緒に踊ることになってしまった。
 セクシーダンスを私の体にこすりつけ、踊り狂う。
 しばらく一緒に踊っていると、突然目の前にポークピッツが見えた。
 「???」
 その彼女のドレスがはだけて、乳首が出てしまったのである。このハプニングに私は笑うしかなく、彼女も人差し指を口にあて「シー」というサインをした。
 その後、ぽっちゃりのアメリカ人男が乱入してきた。そこからその男とロシア系女性との、セクシーダンス対決が始まった。

 認めたくはないが、ぽっちゃりアメリカ男のセクシーダンスはなかなかな物だった…。

 すると、今度はロシア系美女みずからが、胸を露出しはじめた。すかさずぽっちゃりアメリカ男は「それ」を食しに行く。

 人生で一番カオスな空間だった。いま思い出しても、さっぱり理解できない。なんだったんだろう。

 そんなカオスなメンツと離れ、普段通りのクラブを楽しむことにした。
 ABBAの曲が流れ、舞台上でダンサーたちが綺麗な踊りをみせる。
 クラブはこうでなくちゃ。
 突然、目の前に1ドル紙幣が降ってきた。驚いて上を見上げると、まだ何枚か宙を舞っている。誰かが二階席から撒いているのだろう。円安の時期にドルが宙を舞うとは、なんとも滑稽だ。
 誰一人として降ってくるドルを集めようとしない。となると…。

 「私がやるしかない」

 数回に分けて降ってるドルめがけてダイブし、地面に溜まった紙幣を片っ端から拾い上げていく。ひどく情けなく聞こえるかもしれないが、合計で25ドルくらい集めることができた。丁寧にしわを伸ばし、重ねて札束にすることで、悦に浸った。

それがこの札束さ。

 クラブの営業終了時間である、午前3時になった。
 熱気は最高潮に達し、遂に最後の曲がながれた。それがなんと、「鬼滅の刃」の曲だった。日本の文化がどれほど浸透しているかが伺えて、嬉しかった。(鬼滅の刃とか全く見たことないけど…。)

 終わった後、DJのお姉さんと写真を撮ることができ、2ショットを撮ってもらった。そしたらなんと、台湾出身の方だった。しかも、日本語が少しできるので、優しく対応してもらった。
 何か国語も理解できる人のことを、本当に尊敬する。たいていの日本人は1カ国語しか話せないのに、外国を旅すると3カ国語できる人なんかに会う。どれだけ勉強が大切か思い知らされるし、そのバイタリティーに感化される。

 その後、なぜか先ほどロシア系美女の胸に食らいついていたぽっちゃりアメリカ男に絡まれるが、他のアメリカ人紳士が仲裁にはいってくれたので、事なきを得た。相当酔っぱらっていたみたいだ。

 そして、クラブを後にする。

 一歩外に出ると、さっきまでのグアムとは違って夜中3時のアメリカだった。近くで喧嘩があったらしく、パトカーが2台止まっている。


 さっきまでのクラブでの盛り上がりは見る影もなく消え、通りには黒人と白人の集団がたむろしている。ギャングに見えてとても恐ろしい。
 ぴりついた雰囲気が感じられた。


 こんな中を帰らなければならないのか…。

 つづく




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