【side B】ターゲティングのお話 ―答え合わせ―

要約

https://note.com/johnny_doe/n/n92a33c3a8a91
を受けてのおっさんの回答

STP(segmentation targeting positioning)ってなんだっけ?というお話のうち、セグメンテーションとターゲティングのお話をする。
波及効果を考えたターゲティングとデジタルマーケティングでのターゲティングの概念のちょっとした、でも大きな違いを考える。

要約終わり


さて、本文に入りましょう。

STPのうちポジショニングは1トピックスを立てるに値する大きなテーマになるので、今回は割愛。
ここではセグメンテーションとターゲティングのお話をします。


ここで質問。なんでターゲティングをするのでしょうか?

商品を売る人間にとって、(まあ反社会的勢力とか特殊な例は置いておき)使ってほしくない、買ってほしくないお客がいるわけではなく、できれば老若男女、全世界の人に使ってほしいものだと思います。
それなのにマーケターっぽい人たちは必ずターゲティングの話をし、ターゲットを絞るお話をします。

この矛盾、どのぐらいの人が気付いているのでしょうか。

現在のデジタルマーケティングに関わっている人なら、
「ターゲットを広げすぎると媒体費用が上がり、CPA(cost per aquisition)が高くなってしまう。」
からと答えるかもしれません。
現代マーケティングではそれも答えの一つです。


ただ、STPが生まれたのは1970年代ぐらい。この当時、ターゲットの広さによって出稿費用を変えている媒体などありませんでした。これでは当時わざわざ顧客を絞る理論が出てきた説明になりませんね。
補足すると、ターゲティングの広さによって出稿費用を変えたのは、デジタルマーケティングの課金方法として一番お金になる方法だったからで、デジタルマーケティングの産物です。

では答え合わせを。

僕がマーケティングを習っていたころのターゲティングの定義は


「コミュニケーションをとる相手を決めること」

でした。何が違うかって?
買ってくれる人を刺すわけではなく、もう少し緩い定義という説明が正しいのかわかりませんが、

「この人に伝える。というのを決めること」

それだけです。
その前にセグメンテーションという作業があって、これはグループ分けです。性年代別で分ける伝統的な方法もあれば、サイコグラフィックやインタレスト呼ばれる内面的な分類のケースもありますね。
いずれにしても、似た人のグループを分けることです。
ターゲティングとはこのにグループのうち、1つか2つを選ぶことです。
ニッチマーケティングの話を持ち出してしまうとやや混乱するかもしれませんが、サイズと類似度(密度)はざっくりと反比例の関係で、薄く広いターゲットを選ぶのか、小さな濃いターゲットを選ぶのかを決めるのもターゲティング戦略の重要な作業です。

では、ニッチかどうかはともかく、どうして絞るのか。
それは前述の波及効果が関連しています。


課金体系が決まったのはデジタルマーケティングになってからですが、ターゲットと見定めた人にアプローチするのはお金以外にも時間的なもの、距離的なものなどコストと呼ばれるものはかかります。
できればそのコストは少ないほうがいいわけで、何らかの形で絞ることに合理性はあります。
また、当時そもそもセグメンテーションという考え方が生まれたのはT型フォードのような単一商品ではすべてのお客様の取り込みが難しくなり、商品も細分化していく動きが出たからで、それに合わせて伝え方が分かれてきたからです。
(ちなみに今回は触れませんがいずれ市場の多様化と個性の話の矛盾について触れようと思います)
ただし、ターゲットを絞るということは顧客が絞られるということです。これは現在のデジタルマーケティングでも一緒で、あまりオーディエンスを弄り回すと効果が出ませんよね。


冒頭の質問に戻りますが、決して商品を買ってほしくないわけではないのですが、コミュニケーションを絞ることには合理性があるわけです。
その合理性を担保するのが、波及効果です。


ここから先は何のエビデンスもありませんが、ターゲティングで絞っているのは実は人ではなく、準拠集団です。その人に影響を与える準拠集団を選んでいるというのが正しいでしょうか。

もう少し現実的な話をすると
「この人に伝えると買ってもらえるではなく、この人に伝えると価値をわかってもらえる。」
というのが重要です。


たとえば、あたりかまわず声をかけるより、「そこの黄色いキャップを被ったお兄ちゃん、これちょっと聞いてくださいよ。」と具体的に言われたほうが、自分向けのメッセージだと受け取りやすいのはそれほど難しい説明ではないと思います。

具体的な人物像で、かつ同質的な層へのメッセージは明確になりますし、そういった層の中では内部の温度が高まりやすいので、温度感の高い人たちがその温度を外部へと伝えてくれるようになります。

※マーケティングのおける熱力学というお話もどこかでできればいいなと思っています。


絞った人に価値を伝えることによって理解が進むならば、もちろん買う人もいます。さらに、価値を伝えてくれるハブ、ここでは場合によりmavenにもなれば、インフルエンサーにもなるかもしれません。

そういう波及効果を織り込んで、
「この人に伝える。というのを決めること」
を実行する必要があるのです。

※これにはちょっと個人的は賛同しかねるところもあるのですが、USJの仕掛人、森岡さんはターゲット以外は無視しても構わないくらいの気持ちでやるそうです。実際無視するのではなく、波及してくれればプラスアルファになるので、そこに全力投球をするという意味だとは思いますが。

経験則的なものを挙げるなら、実際20代女性にターゲットを絞ると(例えば女子大生向けの映画割引などでもよいです。)30代女性も反応し、なぜか全くターゲットになっていない20代男性の利用も上がるようになります。
女性目当ての男性が増えるということもありますが、どこかで目立つ層が出ると、周りのセグメントにも見える形になり、それが波及効果を生むといった事柄は比較的よく見つかる事例です。

※コトラーの本?でもNo1はブランドになりNo2は価値がないみたいなことが書いてあったような。。。(原典が手元にないのでうろ覚えです)

さて、この効果はデジタルマーケティングでももちろん起こるのですが、現在はなぜか測定するのはターゲティングした人のリターンだけで、それ以外はオーガニックという形で蚊帳の外になります。
このため、ターゲット=買ってくれる人/使ってくれる人という誤解を促進してしまい、ターゲティングの大切な効果を見過ごしてしまっています。
この見過ごしがターゲティングの意味を捻じ曲げ、効果を縮小させてしまっているのが、現在のデジタルマーケティングの最大の罪だと思います。

他方、機械学習をはじめとしてターゲティングやそれに伴う学習精度が上がり、ほぼ個人ごとのターゲティングができるようになってきました。
しかしながら、機械学習をするような大規模な投資をして1人を獲得するなどということはもちろん割に合うわけがなく、できれば大きなターゲットにリーチしたい。そのジレンマからなのか、look a likeと呼ばれる、似た人に強引に層を広げる手法が生まれてきました。
確かに効果を見る限り、単純な性年代別のターゲティングよりもCPAはいいですし、学習効果を伴い、ある一定までは効果が伸びます。
しかしながらベースは物理的に配信を絞っていることには変わりなく、効果測定もやはりその層しか見ない点を考えると、もともとのターゲティングの意味を知っている人間からすると、良い言い方で疑似、悪い言いようでまがい物です。

また広がりを示す必要があるからと大手ソーシャルメディアでは「エンゲージメント」というよくわからない指標でごまかしていますが、なんでも数字にしなければいけないデジタルマーケティングの呪縛を体現したような指標だと思います。
なぜなら、それで商品の価値が伝わったかどうかはわからないからです。

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