睡眠と不眠

のび太の特技は睡眠。0.93秒で眠りにつく。

のび太だけではない。人間の3大欲求である睡眠は、誰もが無意識にできる。

そんな睡眠が私にとっては一番難しい。

眠りにつくまでに85時間かかった経験がある。

その時は躁状態で一睡もせずに活発に動き回っていた。85時間起きていても全く眠気がなかったので、死ぬまで起きていられると感じたその矢先に、眠ってしまった実際には、気絶したが正しい表現かもしれない。

85時間起き続けた後だ。さぞかし長時間眠ると思われるが、実際は3、4時間眠れば体が目覚め、次の数十時間の不眠が始まる。

よく社会人が「睡眠貯金」や「寝溜め」という言葉を使うが、あれは嘘だ。そのような概念があるとすれば、私は今すぐにでも自己破産すべきほどの睡眠負債を抱えているはずだが、実際には誰よりも起きている。

不眠は、躁とうつの2種類に分けられる。

躁状態の時は全身からエネルギーとアイデアが溢れ、睡眠がもったいなく思える。そして眠らず動き回る。

一方うつ状態の時は、理由の分からない不安や焦燥感が頭を駆け巡る。

そしてずっしりと全身に重力を覚え、ベットの上で横になっている自分が、まるで棺の中に入っているような錯覚を感じる。このまま目を瞑ったら2度と起き上がれないだろうと悟り、眠りにつかないよう努力する。そうするうちに夜が明け、どうしようもない倦怠感を抱えながら1日が始まっていく。

躁とうつ。方向性は違えど、両者は私から睡眠を奪う。眠りたいと思えば思うほど不眠の沼に落ちていく。

起きようと思って起きているので、躁状態の不眠はそこまで怖くない。うつ状態の不眠は、不良品の烙印を私に押し付けてくる。誰もが無意識のうちにできる睡眠を自分はできないという劣等感に襲われ自己肯定感が破壊される。

「眠れないなら何かすれば?」と言われるが、そんなカジュアルな不眠ではない。うつ状態の不眠はベットから起き上がる力もなければ、眠る力もない。ただ目を瞑って朝になるのを待っていると、自然と脳裏で過去のトラウマが流れ出す。映像をシャットダウンしようとしても脳が上映を止めてくれない。

それはまさに時計じかけのオレンジの主人公アレックスが、クリップでまぶたを見開いた状態に固定され、眼球に目薬を差しながら残虐描写に満ちた映像を鑑賞させられるルドヴィコ療法のようだ。

地獄のような夜を過ごし、朝を迎える。朝日を見ると少し心が落ち着く。もう寝なくて良いのだと。

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