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森の見張り台から

午後の仕事をエスケープして、車を走らせた。同僚には適当に理由づけて、午前中に最低限のタスクをこなして。上司は少し心配してくれた。職場には恵まれていると思う。

市のはずれ、山間の森林公園に着いた。エスケープのことは家族にも誰にも言っていない。僕が今ここにいることは、僕しか知らない。

第6駐車場に停まっている車には、同じようにサボっているのだろうか、働き盛りのおじさんが多いように思える。エンジンを止めて少し窓を開け、読みかけの本を開いた。

一章を読み終えて、少し伸びをする。どんよりした午前からは打って変わった冬日和、気温が上がり、気づくと少し汗ばんでいた。シャツのボタンをひとつはずし、車を降りる。社内のこもった空気から解放されて、胸がスッとする。心なしか、重かった頭もリフレッシュされたようだ。

手を繋いだお母さんと子供とすれ違った。よちよち歩きで砂利道に苦戦しながら、でもしっかりと山道を登っていく。家に帰ったら、今日のことを息子にだけは話そう。とっておきの秘密だよって。

ふと、昨日のことを考える。頭でわかっているつもりでも、心が納得していない。自分でも女々しいと思う。上手い人は適当に折り合いをつけて切り換えられるのだろうけど、当分引きずっちゃいそうだ。砂利道を歩くのは頭に任せて、心はそっとしておいてあげよう。いつか追いついてきたときには、ちょっと褒めてあげるんだ。

姿の見えない鳥のさえずりに誘われるように歩くと、木で組まれた展望台が建っていた。息もあがらず上り切り、あまり景色も変わらずがっかりだけど、山の間から街が見えた。さあ、帰ろう。明日からまた毎日が始まる。

心が追いつけるように、歩くペースをいつもより少しだけ落として、僕は駐車場へ向かった。

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